5月28日(日)14時からさわかみ投信の2F会議室でひふみ投信vsさわかみファンドなセミナーが開催されました。(前半はこちら)
レオス・キャピタルワークスの藤野さんとさわかみ投信の草刈さんがそれぞれのファンドについて説明した後、いよいよゴングが鳴ってそれぞれの質問が炸裂しました。
メモを元にセミナー後半の様子をレポートします。
藤野さんから草刈さんへの質問
「運用のプロ以外を雇うのはリスクではありませんか?」
草刈:
メリットとデメリットがある。私が澤上(篤人)に呼ばれてCIOだと言われた時、経験の無い人にやらせるなんてこの人はおかしいと思いました。
でも、キャッチアップに時間がかかる点はデメリットですがバイサイドアナリストやセルサイドアナリストと違って業界にかぶれていない、業界の常識を身につけていないというメリットもあると思います。
長期投資を受け継いでくれた糧を(業界の常識に)かぶれていない人に投入するという事だったのだと思います。
藤野:
今振り返ってみて、なぜ草刈さんを選んだんだと思いますか?
短期的でなく長期的な目線で考えられた結果だと思いますが。イケメンだから(笑)?
草刈:
自分のことはわかりませんが、青臭くて直球しか無いからかなと思います。
中野:
いい答えでしたね。澤上(篤人)さんから私も業界以外から人を集めろと言われました。業界の人は毒が回っているから新しい価値を作り出すには邪魔になると。
運用の世界も一緒ですね。年を取っても知見は生かされるので経験は無駄にはなりません。一方で新しい価値観で見られるのは能力が追いつけば新しい価値になります。自分の個性を売りにしていって欲しいです。
藤野:
それは驚異ですね。
中野:
毒が回っている我々にはないものです(笑)
感想:運用業界出身ではないファンドマネージャーへ運用業界でずっとやってきたファンドマネージャーからの強烈であり素朴な質問です。
業界の常識にとらわれないというメリットがある反面、運用業界にいなかった人に対してあまりにもさわかみイズムを純粋培養しすぎていないかという懸念が外にいる自分には感じられます。
運用会社というよりもフェアトレードをしているNPOのような感じがあるんですよね。私がさわかみファンドを卒業した2008年から9年ぶりに話を聞きましたが、そこは昔から変わっていないなと思いました。
草刈さんから藤野さんへの質問
「ひふみ投信は売買回転率が高いと思います。ファンドへの投資が長期投資であって銘柄は長期ではないのですか?」
ひふみ投信の売買回転率は194%、さわかみファンドの売買回転率は5%です。
藤野:
ひふみの銘柄入替は特色でもあります。長く持っている会社もあって、例えばJINSは値動きが激しいので株価に応じて保有比率を1.5%〜4.5%くらいの間で変えています。株価が上がったら売却しますが、全部は売らずに下がったらまた買っています。
そうやって値動きの激しい会社は売買を繰り返すので売買回転率はさわかみファンドよりも高めに出ます。現金比率を変えたりドラスティックな運用をするのも売買回転率が高い理由です。
草刈:
企業価値に対して売買していると、ファンドの規模が大きくなると買う金額が大きくなって市場から買うことが難しくなります。自分で株価を上げてしまっては思うような運用が出来なくなるので一度買った会社はフェアバリューになるまで取っておきたいと思います。
藤野:
最初に買った銘柄をずっと持ったまま素晴らしい成果を出すのが理想ですね。
でも実際にはどう動くのか、投資ししている会社の質を見ながら運用しています。
中野:
理想は買ったままだが、売買回転率0%のファンドは思考停止しているかもしれない。
藤野:
それで成績がよければいい。
中野:
売買回転率について多くの方に誤解があります。長期投資の立ち位置の違いを明らかにしたいと思います。皆さんにはとことん保有して欲しいと思います。
我々が投資しているファンドでも何年もずっと持ち続けている銘柄が何十とありますが、断続的にと必ず補足が書かれています。藤野さんが言っている事と同じなのですが、めちゃくちゃ高くなったら売却しているんです。価値を上回る価格がついたら売却します。でも、それはファンドがやるので長期投資ファンドにおいて皆さんがやる必要はありません。
シャープレシオもさわかみが0.67でひふみが1.51です。シャープレシオは効率的な運用が出来ていると高い数値になりますが、これは大手ではなかなか出せない水準です。さわかみファンドもいい運用をしています。
藤野:
うちが高すぎるんです・・・。
なんで高いのか。リスクが小さくとリターンが高いのが不思議だと思われます。僕らは激しく小型株の使い手だと思われているのですが、組み合わせによるんです。マーケットに合わせて上がらない、上がりにくい銘柄を組み合わせることで免震構造のようなポートフォリオを組んでいます。すると、マーケットが揺れても全体ではリスクが小さくなります。
本来は不可能なのになぜ実現出来ているか?それは小さい会社には倒産リスクがあるからです。信用リスクを抱え込んでいます。それを内包することで景気後退期に銘柄が耐えられるかに大きなリスクがあります。これは秘訣でもあり、弱みでもあります。
さわかみファンドのシャープレシオが低いわけではありません。
中野:
1.0あったら優秀と呼ばれる水準で0.8で天才ですね。0.67は十分に優秀だと思います。
草刈:
すごいフォローしていただいているような・・・
さわかみファンドとしてリーマンショックの暴落はお客様に申し訳なかったと思います。私が入社する前の事でしたが、私が入社した時にも皆さんの大丈夫かという声を聞いてこれを変えたいと思いました。
過去の反省を生かして見えないリスクを内包せず、バリュー投資に徹しています。
よく落ち葉拾いしかしていませんねと言われますが、下がった時に耐えられるのが今のさわかみファンドです。
中野:
伝統的なコンセプトを引き継いでいるなと感じました。
澤上篤人さんが現役のファンドマネージャーをしている頃、銘柄を買うために指し値をするんですが株価が1000円の時に500円とかを指し値するんです。証券会社の人が勘弁して下さいといっても、500円がつくまで指し値でって注文していました。証券会社からするとバカにしているのかというような注文なんですが、いつかどかんと下がって指し値が決まるんです。そうした極端なことをする人でした。
それを引き継いでいるなと感じました。
シャープレシオをテーマにすると二人とも語るでしょ。運用の深い部分を語らざるを得なくなるんです。ファンドの特徴を見るにはシャープレシオです。
感想:ひふみ投信のポートフォリオを見るとよく入れ替わっていて全然長期投資していないというのは、よく見ていない人から割と言われる言葉です。
売買回転率が194%と5%という事でひふみとさわかみの違いを端的に表している数値ではありますが、ひふみは長期投資していないのでは?という質問の仕方はちょっとあれでしたね。
確かに上位銘柄はそれなりに入れ替わっていますが、下位にずっと残っていたり、割安になるとまた戻ってきたりそんな感じでウェイトを変えながら長く保有している銘柄が結構多いんですよね。ひふみのポートフォリオは免震構造というのは面白い表現だと思いました。
対してさわかみはバリュー投資に徹しているんだなというのが今回話を聞いていて理解しました。銘柄も絞り込まれてより成果として現れやすくなったと思います。
中野:
それぞれに一生懸命やっていて資産配分は長期投資に大きく影響を受けるところです。藤野さんはファンドの規模が大きくなってきて難しいことへの挑戦だと思いますが、得意な規模はどれくらいですか?
藤野:
5億円くらい・・・。小さい程得意で100万円なら無敵です(笑)
中野:
理想とするポートフォリオを素直に作れない中での挑戦ですね。
藤野:
30億円、200億円、1000億円でそれぞれのポートフォリオがあります。ファンドが始まったばかりの頃は100億円、1000億円のポートフォリオを大きくなったイメージとしていましたが今は1兆円をイメージしています。
100億円までは小さな潜水艦で機動性高く、数百億円で巡洋艦、500億円で戦艦、1000億円で空母だとしたら2000億円は空母2艦。
僕らの強さは機動性にありました。これから機動性が失われる一方で情報力をどれだけ上げていくか。証券会社もエースをうちに付けてくれるようになり、情報分析力に厚みが出てきました。一方で以前は危ないと思ったらすぐ動けたのが今度は危ないと思う前に動かす必要があります。見張りをたくさんつけてパワーを生かした運用をしないといけません。ジャーディフレミング時代に2800億円運用していた事がありますが、そこから先は未体験ゾーンです。今は会社全体で3200億円。未体験ゾーンで新しい運用にチャレンジしています。
中野:
未体験ゾーンへ入るということで運用スタイルは変わっていくと思います。これは規模が大きくなって運用が一般化していく中で共通の挑戦です。
さわかみファンドは一時期360銘柄くらいあったのが100銘柄くらいに減りました。以前澤上篤人さんにどのくらい投資したいんですか?と聞いたら600銘柄くらいに全部投資したいと話していました。澤上さんのたくさんの会社を応援したいという運用から絞り込んだ銘柄への投資という事で理念が変化してきましたね。
草刈:
2013年にさわかみファンドは純流出に転じました。それまでは入金されたお金を常に投資していましたが、これからは殿で売却しながらポートフォリオを維持するように変わりました。最近はまた新しく追加するようにもなりましたが。
リーマンショックのような大きなショックに耐えられなかったという事もあり、現金比率をある程度持つようにしました。現在は12%。もっと高くしたい気持ちもあります。
中野:
今のさわかみファンドは昔と違いますね。
草刈:
澤上が運用していた時は多くの比率を持つ事を意図的に避けていました。ピーター・リンチのように10倍、20倍になる銘柄があれば他は紙くずになってもいいやという考え方です。
今はそれを改めてつぶれないような会社にしっかり(ある程度の比率を持って)投資するようにしています。企業の方、従業員や取引先など周りの方にも想いをはせて企業価値の向上について経営者と話すようにしています。
中野:
投資対象は日本株でいいんでしょうか?
よくわかっていないFPがまずは日経平均のインデックスファンドから投資を始めましょうなんて言っていますがアクティブ運用の立場からどうでしょうか?
藤野:
これからの10年は根本的にさらに不況が待っていると思います。日本企業のクオリティ、経営の劣化が問題です。2年くらい前に東芝が問題になって粉飾だよねと日経ビジネスONLINEで記事にしたらメールで実は同じことをしていますと有名企業に勤める人からわんさか来たんです。予想はしていたけど、それ見ちゃだめだよねと日経新聞やSECに連絡してくださいと返事をしました。そういう不祥事ネタが山のようにあるんです。
GDPの伸びがどうこういうよりそうした経営の劣化の方が大きな問題。日本郵政も問題が発覚しました。一方で中堅中小企業においては成長すると思います。
インデックス投資はだめなエッセンスも丸ごと受け入れてしまうのでそれを外して投資するばうまくいくのではないでしょうか。googleと日本郵政のどっちが成長すると思いますか?NTTとアマゾンは?ちゃんと選別すればいずれ変わります。
10年、15年後には日本の上場企業の時価総額トップの会社も入れ替わって成果が厳しい会社がくるようになるのでは。社員の半分以上がやる気のある会社になると思います。
中野:
アクティブの存在意義が問われるわけですね。分散投資をするのはいいと思いますが、日本のインデックスに命がけはやめた方がいいと思います。
草刈:
東芝の事業はあんな感じでしたが、経理の人は転職市場で引く手あまたあんです。あんな複雑な事をやっていたなんてと。数字のテクニックでは本質を見失います。
地方の中小企業には頑張っている会社があります。例えば九州のホームセンターのある会社はずっと成長しています。日本の企業でも成長している会社はあります。
いい会社を選別する上で投資家の意見に耳を傾けるかも見ています。IRの人から若造が来たち思われることもありますが、そういう会社は後々芳しくない結果になります。多くの人の役に立ちたいと思っているか、経営者の質はこれまで以上に問われることになるのではないでしょうか。
中野:
東芝は個別の話ではなく、重厚長大企業の抱え込んだ問題だと思います。
最後に自分達に欠けている事を話して下さい。
草刈:
さわかみ投信で欠けているのは企業を発掘することへの動きが遅いこと。この会社は発掘出来なかったのか、しなかったのか。いい会社を調べていてそっちがよかったのであればそっちへ調査対象をシフトしなければいけなかったのかもしれない。
今後は早く多くの会社に接触していきたいです。
藤野:
資金が増えた中でひふみらしさを失わないで新たな挑戦をしていかないといけません。資金流入よりも銘柄選択能力や機動力が増しているので現状は楽観視していますが、これをもっと増していきたいと思っています。
資金が増えることで社会的責任が増してきますので、責任を伴うことで世の中にさらに貢献出来るようにしていきます。
中野:
アメリカでは大変な事例があります。大手運用会社が牛耳っていましたが、独立系が立ち上がって圧倒的な成功をおさめました。結果で示すことで支持を集めたんです。
日本にもその流れが来るように頑張っています。
本当は勝ち負けをつけようと思っていましたが、支障がありそうなのでやめました。勝ち負けはありません。
個性を表現するのがアクティブ運用です。皆さんのお金で支えて下さい。
感想:ベンチマークに勝つのがアクティブ運用という人もいますが、それぞれの投資哲学に則って運用するのがアクティブ運用だと思います。
そういう意味では勝ち負けはそれぞれの人がそれぞれの考えで判断すればいいんでしょうね。引き分けでどっちにも投資したっていいし、自分のいいと思った方にだけ投資したっていい。
私もひふみ投信への投資をこれからも続けていきます。