鎌倉投信のファンドマネージャー新井和宏さんの2冊目の著書のタイトルは『持続可能な資本主義』。
「投資は科学」という投資哲学を持つBGIで腕を振るっていた謂わば金融工学の申し子だった著者が180度方向転換して鎌倉投信を創業し、「金融はまごころ」と言うようになりました。この本ではなぜ金融工学の申し子が金融にまごころを持ち込んだのか、その背景と鎌倉投信が目指している新しい資本主義の姿が書かれています。
資本主義が進化していく過程で企業は利益の成長をどこまでも際限なく求めるようになり、更にはいかに短期間で大きく稼ぐかという効率をも追求するようになりました。そして金融も企業へ資金を融通するつなぎの役割を忘れ、お金でお金を生み出す事が是とされるようになりました。
1月に行われた鎌倉投信の運用報告会の場でツムラの加藤社長から西洋医学における合成薬と漢方薬の違いをお聞きしました。(→株式会社ツムラ加藤社長、テラ株式会社矢崎社長 講演&運用報告会(鎌倉投信))
合成薬は特定の病気に効く成分にだけピークが存在するのに対して生薬由来の漢方薬はまだ特定されていない成分を含めた複数の成分ピークが存在するそうです。そして漢方薬は複数の成分ピークが存在することにより副作用を打ち消すような効果もあることがわかってきたという事なのですが、これは効率至上主義の資本主義と鎌倉投信が目指す持続可能な資本主義の違いにも似ているなと感じました。
この本の中で新井さんは日本に昔からある三方よしという考え方を現代風に進化させて八方よしを提唱しています。八方というのは「社員」「取引先・債権者」「株主」「顧客」「地域」「社会」「国」「経営者」です。
アメリカ型の資本主義においては経営と所有が分断されている事から株主の利益を最大化することが是とされます。しかし、それは他の7者の犠牲のもとに株主の利益が最大化されているということもあるのではないでしょうか?
新陳代謝が盛んというのは言い換えればどんどん企業がつぶれているという事でもあります。日本は世界で稀にみる長寿企業が集まった国ですが、それは三方よしの精神が根っこにあったからなのかもしれません。
人間は生まれた時から何らかのサービスやモノを消費しながら生きています。そのサービスやモノを提供している会社が健全に生きながらえること、そこで働く人達が幸せであること、その会社で働く人達がいる事で地域に雇用や消費がうまれることなど、価値は様々な形で存在します。
投資家として株主の利益を最大化しようとするのも一つの在り方ですし、大きく稼ごうという欲がイノベーションを生み出す原動力になることもあるでしょう。一方でゆっくりと進化しながら生きながらえようとしている会社にも価値はあるはずです。
それらの会社の利益率は派手なものではないかもしれません。でも、そうした会社が私たちの生活になくてはならない存在だとしたら、投資家として支えていくのも一つの在り方だと私は思います。
効率至上主義の資本主義に極限まで挑んだ人がこのままではいけないと資本主義のカイゼンとして新しい金融を作り上げた。それが鎌倉投信なんです。病を治すのに原因を取り除く合理的な西洋医学的アプローチの既存資本主義に対して体質改善を促す東洋医学的なアプローチに近いのかなと思いました。