1月21日に開催された鎌倉投信の運用報告会はツムラの加藤社長、テラの矢崎社長の講演という豪華な内容でした。結い2101で投資している医療系2社の社長のお話が聞けるという事で出掛けてきました。
講演のメモを元にレポートします。
株式会社ツムラ加藤社長、テラ株式会社矢崎社長 講演&運用報告会
日時:2017年01月21日(土) 09:00 - 11:00
場所:FinGATE(フィンゲート) 茅場町一丁目平和ビル1F
講師:株式会社ツムラ 代表取締役 加藤照和さん
テラ株式会社 代表取締役社長 矢崎雄一郎さん
左:ツムラ 加藤社長、右:テラ 矢崎社長
株式会社ツムラ 代表取締役社長 加藤照和さん
ツムラは漢方だけで123年やってきました。
私が社長になる前、IR担当をしていたのですが、ある日新井さんが突然やってきました。ちょうど個人的に鎌倉投信を調べていて口座開設を申し込んだ後のことでした。
受益者総会も1回目、2回目は自分も皆さん達と一緒になって楽しいなと参加していたのですが、3回目は講演する側での参加でした。
漢方記念館が茨城県阿見町の工場敷地内にあります。いい会社訪問で見学に来ていただいたことがありますが、漢方を五感で知ることができますので是非一度来ていただきたいと思います。
鎌倉投信いい会社見学ツアー ツムラ 芳井社長講演
ツムラ漢方記念館見学
医療用漢方製剤について
売り上げは1126億円。ほとんど医療用漢方が占めています。
製剤市場10兆円のうち、1.4%が医療用漢方製剤の市場でそのうち84.3%のシェアを持っています。
医療用漢方製剤とは保険が使える漢方薬の事で、ツムラでは129処方に該当する漢方薬を扱っています。数量ベースでは15年で3倍に成長していますが、金額ベースでは薬価改定もありそこまでの伸びではありません。
当社では医師がなぜ漢方薬を使うのか調査しました。
2011年の調査では558名の先生のうち89%の先生がなんらかの漢方薬を使って下さっていましたが、たくさん使っておられる先生はまだまだ少ないのが現状です。
なぜか漢方薬を使っているのかというと多かったのはこのような回答です。
- 西洋医薬の治療で効果が無かったが効果が認められた 57名
- 患者からの要望で 43名
- エビデンスが学会などで報告された 34名
現在では漢方として148処方が保険適用となっています。(ツムラの製品としてはそのうち129処方)
平均1日3回服用で薬価が100円ちょっとですので患者さんのご負担は30円程度です。費用対治療効果の高い薬を提供しようと取り組んでいます。
漢方とは
漢方は119種類の生薬からできています。
漢方は中国起源の医学ですが、中国の医学ではありません。
中国から朝鮮半島経由で奈良時代に日本に入ってきて日本独自に発展したもので、江戸時代後期にオランダ医学の蘭方に対して漢方と呼ばれるようになりました。日本独自の処方もある、日本独自の伝統医療です。
漢方は中国の古典にも登場してくる伝統医療で約1800年前に編纂された傷寒論にも葛根湯について記載されています。中国に行くと今でも生薬を刻んだものを渡されることがありますが、日本では製剤済のものを買うことができます。
合成薬と漢方薬の違いについてお話すると、合成薬の成分は特定の部分にピークがあるのに対して漢方ではたくさんのピークがあるのが異なります。
特定の効果を求めて成分が集中している合成薬に対して生薬由来の漢方薬はまだ特定されていない成分もあるなど、西洋医学の分析方法を用いたエビデンスを得ることは難しい部分があります。しかし、複数の成分ピークを持つ漢方薬では副作用を打ち消すような特徴も持っています。
病院で先生が処方を選ぶ時に風邪にどの漢方薬を使うといいか、症状によって様々です。
葛根湯は風邪のひきはじめに効くと一般的に言われていますし、私も飲んでいますが家内は飲むと具合が悪くなります。人によって効果が異なるため、そこを先生が診立てる事になります。
同病異治という言葉がありますが、同じ薬でも1対1ではありません。
また、異病同治と言われますが異なる症状に同じ薬を使うことがあります。
ツムラの歴史
私が社長になって4年半になりました。
伝統は守りに入っては繋いでいくことができないと考え、理念をしっかり共有していく中で経営していこうとしています。
人が技能をしっかり伝承していくためには物と身体と心の伝承が必要です。
1893年(明治26年)に西洋医学が正式な医学として改訂されていく中、津村重舎が津村順天堂を創業しました。しかしその2年後、明治28年には国会で漢方が排斥されています。創業まもなく漢方が否定されたのです。
ツムラでは永続的に事業を発展させるために理念経営と表現しています。10年先のあるべき姿をビジョンに据え、マイルストーンとして中期経営計画を立てました。
人の要請が無ければ人、組織は発展していかないと考えています。
伝統と革新について守りに入っていては発展はありません。
伝統とは革新の連続です。
エビデンスについて
国が抱える問題として高齢者の健康寿命が言われています。
がんの支持療法として副作用の軽減、緩和ケアとして漢方薬が使われています。また、女性疾患にも漢方薬はもともとよく使われていました。
最近では高齢者向けに重症化を予防させるためにも使われています。
島津製作所の田中さんの発明以降、漢方の分析が進んでいます。
厚生労働省もがん対策加速化プランなどで漢方薬は有効としています。
製造
漢方の世界で革新を続けていく必要があり、それは製造工程にも表れています。
例えば生薬を保管する重い容器を以前は人が運んでいましたがロボット化しました。
生薬の栽培で言うと現在国内では6拠点で栽培しています。
もっと増やしたいのですがなぜ増えないかというとコストが高い、作り手さんが少ない、生薬栽培に合った気候と土壌といった課題があります。それでも国内でできる物はできるだけ増やしています。
一つの例として北海道では大規模農業での栽培に持って行こうとしていてじゃがいもやビート畑で使う農機具を生薬栽培でも兼用できるような工夫がなされています。
あさぎり薬草合同会社とはお付き合いが7年目に入り、規模も1.6億円までになりました。もともとは葉タバコの栽培をしていた農家さんが転作しています。
他には朝鮮人参を廃校やガラスハウスで栽培する共同研究も行っています。
北海道石狩市のてみるファームさんではしいたけ栽培にも取り組んでいます。
夕張ツムラではぶくりょうの栽培を室内で行い、独立事業にしようと取り組んでいます。
栽培技術の特許を取得し、これから全量日本生産にむけたプロジェクトが動いています。
岩手薬草組合さんは一番古くから栽培していただいている農家さんで一番大切なのは雑草取りと教わりました。中国には生薬市場がありますが、ツムラではすべて契約栽培農家から購入しています。
こうした方々に支えられてすべて畑からの原料で漢方薬が作られています。
テラ株式会社 代表取締役社長 矢崎雄一郎さん
創業のきっかけについてお話します。
私の家系ががんの家系で叔父と叔母を50歳前後で亡くしています。
私ももうすぐ45歳という事でがんに恐怖心と関心を持っています。
スキルス胃がんや胆管がんはなかなか発見できないタイプのがんで、スキルス胃がんでは逸見政孝さん、胆管がんでは川島なお美さんが亡くなられています。
叔父、叔母も民間治療も含めて様々な治療を試しましたが亡くなりました。
2009年に「がん難民」という言葉がマスコミを騒がせましたが、今でも状況はそんなに変わっていません。
手術や放射線治療という近くでうけられる治療を行い、通常であれば治療を継続していきながら緩和ケアしていきます。
がん治療は治る治療ではありません。
抗がん剤治療が効かなくなったら次は痛みに対する治療になっていきますが、これが2009年に社会的な問題になりました。私はこうした方たちを助けたいとおもって創業しました。
細胞を使ったがん治療
細胞って薬でしょうか?それとも医療機器でしょうか?
どちらでもない新しい概念だと思います。
当社では解釈としては医療行為であるとして細胞を使った医療行為を行っています。
こうした新しい治療の概念は法律も無かったのですが、世界でも様々な治療法が開発されるようになってだんだん整備されてきました。
薬事法は薬の法律、医師法、医療法は医療行為に関連する法律です。
細胞を使った治療は医師の裁量のもと行うという事で医師法、医療法の世界で進めています。
現在は保険が適用されない自費診療の世界で先進医療として提供しています。
まとめると「薬でも無く医療機器でも無い、医師法、医療法下のもとで自費診療の医療」として立ち上げたということです。
免疫療法との出会い
元々私は外科医でがん患者さんを助けることに充実感を感じていましたが抗がん剤治療や手術などは一旦がんが進行してしまうと難しいと実感していました。
そこで新しい治療法でより多くの患者さんを助けたいと起業することにし、1999年に半年間考えた結果、自分が受けたいがん治療をしようと決めました。
理念は
今までなかった新しい医療を作る。
革新的な医療技術・サービスでがん難民を助けたい。
です。
当時の日本の臨床医の世界では新しい治療に携わるとすれば研究分野が中心でしたが欧米ではベンチャーが新しい治療法の開発を担う気運が高まっていました。
そんな折、日本においても研究開発だけでなくベンチャーも担える時代になったとエコノミストという雑誌に書かれていたのをきっかけにビジネスの世界に飛び込みました。
まず新しい治療診断の開発に携わり、約二年間企業の経験をした後、東京大学医科学研究所で免疫療法に出会いました。
樹状細胞という木の枝のような突起をたくさん出している免疫細胞に着目したもので既に臨床研究までしていました。
進行甲状腺がんで余命半年と宣告された患者さんに対して樹状細胞の治療を行い、進行が止まったあとで治療を止めても長い間がん細胞の成長が止まる特徴があったのです。
また腎臓と同じくらいの大きさの皮膚がんがあった患者さんに治療を施すと半年くらいでがん細胞が壊死しているのが確認されました。
これは長く延命する効果と、うまくすると拳大のがんも消失化させることができる可能性がありました。
他にも副作用が少ないのがポイントでした。
免疫療法の特徴
免疫療法の特徴は2つあります。
- 患者さん自身の細胞を取り出して元気にして患者さん戻すから副作用が少なく、わずかな発熱と注射の発赤くらいで済みます。
- 効いたときは効果が非常に長く持続するという特徴があります。抗がん剤は正常な細胞も攻撃してしまい、投与当初は効果がありますが徐々に効果がなくなってくることがわかっています。
研究で免疫療法の特徴がわかり、こういった治療だったら自分も受けてみたいと思い、なんとか実用化させてもらえないか相談しましたが、答えは社会的意味はあるが、実用化はなかなか難しいと言われました。
- 自分の細胞を用いるのでオーダーメイドとなり大量生産できない
- 細胞なのでなまものであり、流通などの課題がある
- 最先端の工場が必要であり、コストがかかる
- そもそも細胞が保険で認められたことが無い(当時)
- 関連法規がない
こうした理由からビジネスとしては難しいと教授に止められました。
それでもなんとか治療を受けられる仕組みをつくりたいと説得して会社を作りました。
創業
32歳の時、自宅をオフィスにして一度会社をつぶしましたが再起しました。
最初は経営の経験が全く無かったので経営経験のある偉い方に参画いただいたのですが、意見が合わず半年でつぶしてしまいました。
次は誰もが経営を未経験から始めるんだからと再起しました。
人なし金なし経験無し唯一あるのは技術だけという状態からのスタートです。
タイミング良く東京大学が東京大学エッジキャピタルという投資会社をつくったばかりでそこからの投資を受け入れ、役員を派遣されてそれからは二人三脚でやってきました。
テラでは樹状細胞ワクチン療法の細胞をつくる技術を医療機関にライセンスして樹状細胞を作っていただいています。その治療費の一部を技術料、ノウハウ料としていただくビジネスモデルです。
患者さんから2時間かけて細胞をとってきて、クリーンルームで樹状細胞を培養します。
がん細胞だけを攻撃するようにプログラムされた樹状細胞を患者さんの身体に戻すことでがん細胞を攻撃します。
こうした治療実績は現在1万を超えてきたところです。
今後の取り組み
細胞を医薬品へ、保険での治療を認められる物にしていきたいと考えています。
2014年に細胞を使った治療を国が認めることになりました。
IPS細胞の発見によりこれから薬になっていくだろうという流れがあり、再生医療等のカテゴリが誕生しました。
現在は膵臓がんをターゲットにチャレンジしています。
12月7日には和歌山県立医科大学で日本初となる膵臓がんへの細胞療法の治験の実施について記者発表を行いました。
なぜ膵臓がんなのかというと膵臓がんの患者さんが年々増えていて2050年にはがんのなかでも一番増えるのではないかと言われているからです。
また、様々ながんは5年生存率が改善されていますが膵臓がんはまだ改善されていません。
185名の患者さんに対して試験機関は4年を計画しています。
末期の膵臓がんだと10ヶ月で亡くなってしまいますが1.5倍くらい延命する可能性があると治験の届け出を出しました。
現在は自費で300万円くらいかかりますが、保険が適用されるようになればかなり患者さんの負担は抑えられます。
日本初の膵臓がんに対する免疫療法を患者さんに届けようとしています。
後半につづきます