2018年1月から開始される積立NISAの対象となる投資信託を金融庁の「家計の安定的な資産形成に関する有識者会議」の下に設置された「長期・積立・分散投資に資する投資信託に関するワーキング・グループ」にて検討されました。
3月30日に同ワーキング・グループから報告書が金融庁HPにて公開されましたので、そちらの内容から積立NISAの対象となる投資信託を読み解きたいと思います。
「長期・積立・分散投資に資する投資信託に関するワーキング・グループ」報告書|金融庁
平成29年度税制改正大綱にて決定された事項
まずは、平成29年度税制改正大綱にて既に決まっていた事項は次の通り。
- 信託契約期間が無期限又は20年以上であること
- 毎月分配型でないこと
- 一定の場合を除き、デリバティブ取引による運用を行わないこと
- その他一定の事項
このワーキング・グループでは「その他一定の事項」について運用手法とアセットクラス・地域の分散の程度、手数料について検討されました。
ワーキング・グループにより追加された条件
- 積立NISAの対象商品としてはマーケット全体を広くカバーしており、かつ既に市場関係者に浸透しているインデックスファンドを基本とすることが望ましい
- 投資対象の資産としては株式のみもしくは株式を含む複合資産
- 販売手数料は0%、信託財産留保額を除く解約手数料も0%のものに限る
- 国内資産のみに投資するインデックスファンドは信託報酬年0.50%(税抜)以下、課外資産を組み入れているインデックスファンドは信託報酬年0.75%(税抜)以下
- インデックスのウェイトをファンドマネージャーが自由に変更するタイプはアクティブファンドとして位置づけることが適当
- アクティブファンドの場合は投信の設定から5年以上が経過しており、そのうち3分の2以上の期間(年数)において資金流入超であること。また、50億円以上の規模があること
- 国内資産のみに投資するアクティブファンドは信託報酬年1.00%(税抜)以下、課外資産を組み入れているアクティブファンドは信託報酬年1.50%(税抜)以下
- ETFに関しては最低取引単位が1000円以下、国内上場ETFに関しては金融商品取引所が指定したもの。海外ETFに関しては1兆円以上の残高のあるもの。
- 運用会社においては積立NISA向けの商品を組成・提供する際、当該商品がなぜ積立NISAに適しているのか、どのような顧客に適しているのかなどについての公表を行うことが望まれる。同様に販売会社も商品ラインナップに対して当該商品を選んだ理由やどのようなどのような顧客に適しているのかなどについての公表を行うことが望まれる。
アクティブファンドについてはマーケット全体の値動き以上の超過リターンを狙うという性質上、一般的にはリスクとコストが高くなりがちで積立NISAが想定する20年という長期にわたってマーケットを上回るファンドを事前に見分けることは投資初心者には困難という判断がされたようです。
確かに長期にわたる節税制度ではありますが、ちょっと過剰に投資家保護を意識した条件ではないかと思いました。NISAが導入された時に販売会社が忖度せず、「毎月分配型でも分配金に課税されないんです」というような販売をしたのが金融庁的には許せなかったのだと思いますが、かなり限定的な投資信託が対象となり、結果的には全投資信託の1%以下である50本程度になりそうです。
家計の安定的な資産形成に関する有識者会議(第2回)の事務局説明資料を読むとこうした条件に至った背景が理解出来ます。(1回目の事務局資料では積立NISAの制度導入の背景が説明されています)
事務局資料の8ページ目には信託報酬とリターンの関係として国内株式アクティブファンドに関してコストが高くなるとリターンのばらつきが徐々に大きくなる傾向が紹介されていました。いいものもあれば、悪いものもあるという状況です。
先日、自分なりに条件を考えてみましたがアクティブファンドは純資産の流入超が5年のうち設定から年数ベースで2/3以上という条件が追加されたことでかなり絞り込まれてしまいました。大手運用会社でもマーケット以上のリターンを出しているアクティブファンドはそれなりに存在していますが、この条件だとほぼ壊滅です。
また、マーケット全体を対象としたインデックスファンド(もしくはETF)という事はセクターETFや今度上場するJPX日経中小型株指数に連動するETFなども対象外になりそうです。
基本的な投資商品に絞ることで投資初心者を保護したいという意思もわかりますが、20年も積立をしていれば投資家もその中でレベルアップもするし、レベルダウンもします。私も投資を始めて16年になりますが、これまで紆余曲折しながら家計全体としてインデックス投資とアクティブ投資を組み合わせた今のスタイルに落ち着いています。
積立NISAはあくまでも資産形成の中核として利用してもらい、一歩踏み込んだ投資は一般口座でご自由にという事なんでしょうけれども、一般生活者の資産形成を支援する制度という事を考えると投資家はいずれ成長すると見込んでもう寛容であって欲しかったというのが率直な感想です。
これだとiDeCo化する前の個人型確定拠出年金のように金融機関も積立NISAを取扱はするけれども積極的に紹介しない飼い殺しのような状態にならないか今から心配です。