GPIFが日本株で1兆円のESG投資を行い、今後3兆円規模に増やしていきたいと先日発表されました。ESG投資とはどういったものなのでしょう?以前流行ったSRI(社会的責任投資)との違いはどこにあるのでしょう?
SRIファンドの投資プロセス
社会的責任投資と呼ばれるSRIファンドの投資プロセスです。まず、上場する全ての株式の中から社会的責任に関する評価を行い、投資対象銘柄群(SRIユニバース)を選抜します。
選ばれたSRIユニバースの中から株価評価を行い、ポートフォリオを構成していきます。これについてはファンドは儲けることに集中すべきであり、CSR評価のような余計な事をして儲けられる範囲を狭めるべきではないという批判もあります。
SRIファンドはもともと協会や年金基金などが自分達の理念を投資に反映しようとした所が発端のため、このような投資プロセスになっています。SRIは通常の投資と比較してリターンが低いとも言われていますが、銘柄選択効果なのかそれともコスト的な要因で低いのかは検証が必要に思えます。最近の研究結果では目立って良くも悪くもないというのが主流のようです。
引用:SRI・ジャパン・オープンの投資プロセス
ESGファンドの投資プロセス
ESG投資は持続可能な社会を実現するため投資判断に「環境」、「社会」、「ガバナンス」の視点を組み入れたものです。
2006年には国連責任投資原則(UN-PRI)が発足したのを皮切りに2015年には国連が2030年に向けた持続可能な開発目標(SDGs)を策定、2016年には金融安定化理事会で資産運用における構造上の脆弱性の一つとして気候変動リスクが指摘されています。
1.私達は、投資分析と意志決定のプロセスにESG課題を組み込みます。
2.私達は、活動的な株式所有者になり、株式の所有方針と株式の所有慣習にESG課題を組み入れます。
3.私達は、投資対象の主体に対してESG課題について適切な開示を求めます。
4.私達は、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるように働きかけを行います。
5.私達は、本原則を実行する際の効果を高めるために、協働します。
6.私達は、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告開示します。
引用:国連責任投資原則より
ESG投資の代表的な手法の一つに投資判断にESG要因を組み入れるESGインテグレーションというものがあります。例えばCAM ESG日本株ファンドの場合はESGスコアと財務スコアという定量的なスコアを元にポートフォリオを構築しています。
SRIのようにまず社会的責任を良く果たしている企業群を絞り込んでから投資家目線でどこに投資するか選別するという2ステップと異なり、投資先の選別において一つの要素としてESG要因を評価しています。
引用:CAM ESG日本株ファンドの投資プロセス
蛇足:
ESG投資の中でも投資先の会社との長期的な目線で対話を行う「エンゲージメント」や「ESGに関する議決権行使」は指数への連動を目指すパッシブ運用であっても行われていることがあり、広義のESG投資という意味においては明確にESGファンドへ投資を行っていなくてもESG投資されている場合があります。また、UN-PRIに署名している運用会社が運用するしている資産は全てESG投資と言うこともできると思います。(そうするとESG投資の範囲がぼんやりとしたものになってしまうのですが・・・)
GPIFも運用受託機関(運用会社)に対して投資先企業との建設的な対話=エンゲージメントを促しています。
GPIFの選定したESG総合指数
実際にESG指数に組み入れられている銘柄はどのような会社なのでしょうか?先日発表されたGPIFの投資先となったESG総合指数の上位10銘柄を見てみます。
FTSE Blossom Japan Indexの上位10銘柄(詳細はこちら)
- トヨタ自動車
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ
- JR東日本
- セブン&アイ ホールディングス
- 三菱電機
- ソニー
- 三井住友フィナンシャル・グループ
- 三井物産
- コマツ
- 日本たばこ産業
引用:FTSE Blossom Japan Index ファクトシートより
ESG投資の話をするとSRIと勘違いしてたばこやアルコールなど社会的でない企業を外すとよく言われますが、しっかり日本たばこ産業が入っています。
MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数の上位10銘柄(詳細はこちら)
- KDDI
- 三井住友フィナンシャルグループ
- キーエンス
- 信越化学工業
- NTTドコモ
- 花王
- JR東日本
- 日立
- 東京海上ホールディングス
- パナソニック
引用:MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数 構成銘柄リスト
どちらも有名な大企業が上位に来ていますが微妙に違っています。GPIFの発表資料によると2つのESG評価には緩い相関に留まっていると書かれていました。あえて緩い相関に留めて投資対象を分散したとも見れますが、まだまだESG評価はこれといった確たるものが確立されていないとも言えそうです。
引用:ESG指数を選定しました(GPIF)より
次に、アクティブなESG投資の実例としてキャピタルアセットマネジメントが運用しているCAM ESGファンドの上位10銘柄を見てみます。こちらも大企業がずらりと並んでいます。金融では三井住友フィナンシャル・グループが3つともに登場している反面、総合電機メーカーはそれぞれで異なるのも面白い特徴ですね。(FTSE:三菱電機、ソニー、MSCI:日立、CAM:富士通)
CAM ESGファンドの上位10銘柄
- 富士通
- 帝人
- TOTO
- 前田建設
- 日産自動車
- 大成建設
- 三井住友フィナンシャル・グループ
- 第一三共
- 第一生命ホールディングス
- SOMPOホールディングス
引用:2017年6月末 月次報告書より
ESGスコアが高い会社に投資すると利益が出る?
ESG評価にも様々な手法があり、実際に選ばれる会社も様々です。では、ESG評価の高い会社=成長するいい会社なのでしょうか?
確かに社会に対してよい事をしている会社には違いないと思います。でも、総合的にESG評価が高い会社はどうしても大企業に偏ってしまいがちです。社会全体へのインパクト総量を考えるとそういうものだと思いますが、ESGスコアがいびつな形をしている会社にだって(例えばGが少ないなど)見所はあるかもしれません。
投資的な観点でいくと既に高評価な会社よりも伸びてくる会社の方が実はいいようにも思います。GPIFがESG投資を始めたのでそうした会社に資金が入ってくるだろうから投資したら儲かるかも?なんて考える人もいると思いますが、仮にGPIFの資金だけで考えた場合にTOPIXインデックスへの運用をESG指数への運用に切り替えることになるのでTOPIXでのウエイトとESG指数でのウエイトの差分の上積みに過ぎません。
大企業中心のESG指数なので思っているほどのインパクトは無さそうですし、そういう事を考える人が期待するような時間軸では株価は上昇しないのではないでしょうか。そもそもESG投資って長期的な成長を目指すものですし。
まとめ:ESG投資で大事なことは・・・
GPIFが選定したESG総合インデックスもCAM ESG日本株ファンドの投資モデルもインデックス(TOPIX)を上回る投資成果を残している事が書かれています。確かに投資なのでインデックス以上の成績を残すことは大切です。
でも、ESG投資のそもそもの目的は持続可能な社会を実現するために投資の際にも配慮することでした。地球に住む人や動植物にとって住みよい環境のまま持続的に発展していく事を企業活動の側からも実現し、それを株主として後押しする事が本当に大切なことです。
ですので、しっかり利益を出すのはもちろん大切ですがESG投資を通じて企業に持続的な発展が実現できるように促し、結果を残すことが本当に大切な事だと思います。
ESG投資のSROI(社会的投資収益率)も通常の投資と比較してどうなのか検証してみて欲しいですね。