ESG投資はリターンの犠牲を伴うというイメージが一般的です。今年の4月、ESG投資に積極的なカルパースがたばこ株の保有再開に向けた検討を始めました。たばこ株を保有しないことによる機会損失が大きいことを受けたものです。
実際、レポート中にあるグラフを見ると生活必需品セクターと比較してもたばこ産業の利益率は群を抜いています。
その一方でオランダのNNインベストメント・パートナーズは欧州企業エンゲージメント研究センターとの共同研究においてESGファクターを投資判断に組み入れることの重要性について今年の4月に発表しています。
株式投資におけるESGファクターの影響度に関する研究結果
研究結果で述べられている結論を簡単にまとめると次のようになります。
- ESGに関して物議を醸す行為が見られる企業への投資を避けることで、ポートフォリオのリスク/リターンが改善する
- ESGスコアの水準が高い銘柄よりESGスコアの改善が進んでいる銘柄の方が将来のリターンが高い傾向にある
まず、通常用いられるESGスコアを分析すると企業規模が大きいほどESGスコアが高くなる傾向が見られます。これは多くの投資家の肌感覚にも合っていると思いますが、更には業種による偏りも見られ、これを適切に修正しないとバイアスがかかってしまいます。
また、ESGスコアの変動は時間の経過と共に少なくなる傾向にあり、これは企業規模が大きくなるにつれて変化が小さくなっていく事につながります。言い換えるとESGスコアが変化している企業は成長している会社=リターンが高くなる傾向にあると言えそうです。
更に、ESGスコアの高い銘柄群で構成されたポートフォリオはESGスコアの低い銘柄群で構成されるポートフォリオをアンダーパフォームする傾向にあることも報告されていますが、これは既存のESGインデックスが時価総額ベースのインデックスにパフォーマンスで劣後している事を裏付けます。
ESGスコアの高い企業側からすると海外の有名インデックスに何年連続で採用されましたっていうのはめでたい事なんでしょうけれども、投資家としてはESGについては株価に織り込み済みだなと思っていいと思います。
じゃあESGスコアの低い銘柄に投資する裏ESG投資の方がいいんじゃないか?という事になると思いますが、ESGスコアも総合スコアではなくE、S、Gに分解してみるとまた違った世界が現れます。(儲かる、儲からないで言うとそこまでしてESGがいい方に投資するよりたばこセクターに投資した方が儲かるんじゃないかとは思います)
E(環境)の変化が及ぼす影響は小さく、G(ガバナンス)の変化による影響は大きく出る傾向があるようです。そしてESGスコアを3段階に分けると中位にあたるところでこの傾向は顕著に表れます。また、ESG上の物議を醸す企業を除外したポートフォリオにおいてはポートフォリオのリスク調整後リターンの改善が見られたそうです。
このようにESG投資が世界的な潮流となることでどのようにしたらリターンを損なわずに実現できるかという方向での研究もより深く行われるようになりました。スマートベータの流行もあり、今後はESGスコアが高い企業をポートフォリオに組み入れるESGインデックスではなく、一手間加えた新しいESGインデックスが生まれてくるのではないでしょうか?
GPIFが公募したESGインデックスでもこのような指数が提案されるといいなと思います。どちらにせよESG投資における銘柄選択はあくまでもスタート地点。本質はその後のエンゲージメントや議決権行使などにあると思います。普通の時価総額インデックスに投資していてもESG投資はできますし、例えば三井住友信託銀行では全てのアクティブファンドでESGインテグレーションを行っています。
ESG投資ってSRIと比較して懐が深いというか運用の現場よりに「より現実的」になった仕組みだと思います。ヘッジファンドにだって投資できますし、SRIに嫌悪感を抱いている人が思うほどのものではありません。
コストの話でいうとESGを投資判断に組み入れることによる上乗せ分が確実にアップしますのでそれはESG投資による期待値の上昇分に対して十分に低い割合である必要があります。(代行者ではなくリスクを取った人の下へ成果は届くべきです)
ここまで書いてなんですが蛇足で個人的な好みを言うと、自社の強みを生かした事業の中でインパクトを生み出すインパクト投資や社会的課題の解決+収益を目指す社会的インパクト投資の方が好みですね。