いい投資探検日誌(from 八女)

しあわせをふやす いいお金の使い方を考えています。サステナブル投資家。2017年に新所沢から八女に移住しました。週末は一口馬主を楽しんでます。

【いい会社の理念経営塾】マザーハウス 山崎大祐×鎌倉投信 新井和宏 ディスカッションレポート

10月28日に開催されたいい会社の理念経営塾のゲストはマザーハウス副社長の山崎大祐さんでした。後半の鎌倉投信 新井和宏さんとのディスカッションをレポートします。
(前半:【いい会社の理念経営塾】マザーハウス取締役副社長 山崎大祐さん「Warm HeartとCool Headで新たな挑戦・可能性そして社会をつくる」

いい会社の理念経営塾 「つらぬく経営」第3回 
 株式会社マザーハウス 取締役副社長 山崎大祐さん

 日時:2015年10月28日(水) 19:00〜21:00
 場所:TIP*S/3×3Labo
 主催:NPO法人 いい会社をふやしましょう

 山崎大祐さん:株式会社マザーハウス 取締役副社長
 新井和宏さん:鎌倉投信株式会社 取締役運用部長 兼 NPO法人いい会社をふやしましょう 理事
 
江口耕三さん:NPO法人いい会社をふやしましょう 代表理事

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数字を現場に浸透させることの重要性

江口:
どういったことをやっているのかを山崎さんからお聞きしましたが、新井さんから見て山崎さんの印象はどうだったでしょうか?

新井:
マザーハウスの朝会を拝見させていただいて思ったのは社会企業の中で圧倒的に数字に強いという事です。
だいたいの社会的企業と呼ばれる会社は数字に弱いんです。
すべてはバランスです。
バランスが欠けると続きません。

山口さんと山崎さんは名コンビで山口さん的な人はよくいますが、山崎さんのような人がいることでバランスが取れます。
数字の世界で生きて来た経験から、山崎さんは数字の語り方がうまいんです。
文系の人は数字を数字のまま語りがちですが、そうすると研究者が話しているように聞こえて頭の中に入ってこないし覚えません。
いかに数字を現場に浸透させるか、なぜやらないといけないのかをちゃんと伝えています。

山崎:
結局、なぜ達成しないといけないのか、利益を出さないといけないのかが現場に浸透しないといけません。

マザーハウスも成長過程で大変な時期がありました。
予算や目標が先にたった時代もあり、説明してもなかなか伝わりませんでした。
今では数字を達成することにより出来ることが本当に増えました。
その共有体験が大事で、数字を達成した先に夢がある事と、数字を達成する事をいかにリンクさせるようにしています。

決して数字だけではありません。

新井:
よく、数字がゴールだと思ってしまうんですよね。

山崎:
数字の先に何ができるようになるか伝えることで現場に浸透していきます。

新井:
皆さんわかってると思って言葉を省略したり、想いの方が伝えやすいと言いますが、数字を共感してもらうのは大変な事です。

山崎:
数字をもたせることには勇気がいります。
マザーハウスでは店舗は独立採算でやっていて、それは数字を持たせないとお金の使い方がわからないからです。

そこがこれからの課題です。
いいお金の使い方というのは使わないとわからないんです。
今でもいいなと思うお金の使い方は出張の時にNEXを使ってないという事です。
いつも鈍行で行っています。

マザーハウス社員:
まさかNEXを使っていいとは思ってませんでした。
(役員の)モインさんも普通に成田から鈍行に乗せてきました。

山崎:
それを素晴らしいと思う一方で時間価値や使い方を覚えて欲しいと思います。
そこを理解しないとその次へチャレンジできなくなってしまいます。

 

店舗を自分たちのものにする

新井:
マザーハウスには無駄が無いんです。
店舗の内装も自分達でやってるんですよね。
なぜこういう風になったんですか?

山崎:
普通のコストの1/3で出来る、そこから始まりました。
でも、やってみたらお客さんは暖かさの感じ方が違うとおっしゃってくれました。

人の手は規格化されていないものに宿るんです。
ずれるのが人が作った証で木は歪んでいるのに揃えるとどこも同じになってしまいます。
ずれがあるから温かみがあるんです。
スタッフの思いが違います。

本当は全員バングラデシュに連れて行きたいけどできないので、せめてお店を自分が想像したものを形にする場として自分たちの手で作っています。

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新井:
自分のものって感じがしましたもんね。
バングラデシュの社員160人の日本に対する思いと交流はどうでしょうか?

山崎:
よく交流しなさいと言いますが、仕事をつくるのが一番早いと思っています。
仕事で共有するようにしていて店でイベントを開いてバングラと中継させるほうが早いんです。
見られることは大事です。
講演をしている女性はきれいになりますが、人に見られるというのはいいことです。
スタッフにもかっこよくきれいにいて欲しいので人前に出るようにしています。

新井:
今日来ていただいている4人ともいい顔をしていますね。
現地の方も意識が変るんですよね。
あのツアーはいいなと思いました。

 

全員守備、全員攻撃の経営

山崎:
綺麗にきこえる話ですが、ソーシャルインパクトとビジネスインパクトをつなげようとしています。
社会的価値を生み出す一方でここは全然お金を生んでないじゃんと思ったんです。
工場が価値となってお客様に伝えるようにしています。

実際のところツアーはラインが止まって大変なわりには儲からないんですが、社会的インパクトが圧倒的でした。

新井:
未来工業は見学でお金を取っています。
年間200万円総務が稼ぐようになってコストセンターじゃなくなりました。

山崎:
マザーハウスは全員攻撃、全員守備です。
妊婦さん向けバッグを作ることになりましたが、産休や育休で総務や人事に所属している人が妊婦さん向けのバッグづくりに携わることで会社のバリューに関わるようにしました。

新井:
こういう事は金額じゃないんですよ。
自分で目標をもち、数字をあげるという事。
総務などは会社の中でコストセンターという位置づけですが、全員で攻めて守る組織が一番強いんです。

 

満たされなかった金融機関時代

山崎:
私たち(マザーハウス)の事は新井さんからどう見えていますか?

新井:
経営のバランスがいいと思います。
店長クラスが数字に対してしっかりしていて、お店にいくとわかりますが店員さんのレベルに差を感じません。

足りないのは成長の過程で人材育成に対して今後どうやっていくのかという点です。
マニュアルでやるべきこと、定型化したほうがいいことをどう定義するのか、その境を考えていかないといけません。
それによって今後は会社の規模がハードルになっていくだろうなと思います。
山崎さんはずっとマザーハウスにいるんですか?
違うことをしたいとか思いませんか?

山崎:
ずっといると思うなというのは全社員が聞いています。

新井:
僕も前職を病気で辞めて障がい者スキーの指導員になるはずだったのに金融の世界に戻ってきました。
早く雪山に帰して欲しいと言ってます。

山崎:
この会社に来た時は金融に戻ろうとしていました。
ゴールドマンサックスを辞めてマザーハウスにお金を出したその時、初めてお金を稼ぐ意味はこれだと思ったんです。
こういうお金の使い方があるんだと。

それまでは稼いでいる意味がわかりませんでした。
あんな給料をもらうほどのバリューは無いんですよ。
自分が満たされないからお金を使ってはいましたが。

新井:
満たされないよね。

山崎:
マザーハウスに出資するというようなお金の使い方が出来たことで金融を辞めようと思ったんです。
こんな素晴らしい会社は作れないないなと思いましたし、金融機関で働きながら関わるより辞めた方が楽だと感じました。

一人でできることは限られてますが、二度とこういう仲間は集められないなと。
全員の魂がこもった会社なので行くところまでまで行こうと思いました。

新井:
それは良かったですよね。
金融を辞めて。

山崎:
逆に新井さんはいつまで金融の世界にいたんですか?

新井:
39歳までです。

山崎:
そこまでよくモチベーションありましたね。

新井:
前の会社は哲学が素晴らしかったんです。
社会のためにと本気で思っていました。
BGIはそういう意味で希有な会社だったのですが、バークレイズ銀行が利益を出せなくなって会社が変わってしまいました。

MBOしようとしましたが反対に合い、稼ぐことを第一に求められるようになりました。

山崎:
ゴールドマンサックスは稼げる奴が勝ちでありそれが評価される会社でした。
意外とフェアな会社だなと思いました。
死ぬほど働きましたが。

新井:
僕もモノを買っても満たされない状態になりましたが、今は逆にモノに興味がなくなりました。

山崎:
考え方は変わりましたね。

新井:
変わりました。

山崎:
行動が変わると価値観も変わりますね。

新井:
妻が一番実感してると思います。

山崎:
全然違ったんですか?

新井:
ベースは一緒なんだけれども変わりましたね。

 

リスクを取るということ

山崎:
新井さんにとって原点はどこなんですか?
ゴールドマンサックスは上場してパートナーの1/3が辞めて社会貢献のための財団を作りました。お金を別のところで使うんです。
鎌倉投信が金融のど真ん中でやることにすごいと思いました。

新井:
坂本先生と出会ったことがきっかけだと思います。
伊那食品とかそんな会社が存在すること自体に衝撃を受けました。
ずっとクオンツだったので会社は数値の世界にいました。

自分には中小企業は救えないんだと思っていましたし、貸し剥がしにあって思いがある会社もつぶれていく中で、僕らは金融でそれに応えていくことができるんだろうかと自問自答しました。
どうやったらそういう会社を貸し剥がしや短期目線の投資家から守れるのか?
今の市場で成立させるにはどうしたらいいのか考えた結果です。

山崎:
四半期決算が諸悪の根源だと思います。
マザーハウスではVCなどを入れずに個人株主のみで構成されていて上場を目指していません。

金融市場はフェアで利益を出すことが正義とされます。
数字であるものを評価するのですがうちは主観も評価します。
強い主観を持って市場に評価されるのは数字を評価することと違います。

こういう会社にお金を出す人はあまりいませんし、銀行借り入れも信用力が必要でなかなか資金手当できません。
ギリギリのところをやってきましたが今は利益が出るようになりましたが、以前はこういうお金を出す人なんているんですかと思っていました。

新井:
金融は客観の塊でないといけません。
担保や信用力はあるのか?するとどうしても冷たい世界になります。
バーゼル規制により金融は世界で管理されるようになりました。
そこに従わない金融はありません。

そういう金融は好きじゃなかったのであったかい主観で、しょうがないねといえる金融を目指しています。

山崎:
ここがポイントで、鎌倉投信では個人投資家からお金を集めています。
主観で投資しちゃだめという金融の世界でやっちゃいけないことをやってるんです。
運用担当者も縛られていてルールとしてインプットされている世界で個人を結びつけました。

新井:
僕らがやっていたのはプロがプロに投資を委託する世界です。
年金は長期でなく3ヶ月単位の目線です。
そもそもオンバランスなので四半期で結果が残らないと年金基金も困るようになりました。
年金基金のお金は彼ら自身のお金じゃないんです。

リスクを取っていない人が運用委託してるのですが、実際に年金を受け取るお金を出している人にとっては3ヶ月の成果は本来どうでもいい事だと思います。
ライフプランにおいて3ヶ月という時間軸はありません。

でも、責任から逃れようと思うとそれが一番都合がいいんです。
リスクをとらない手段として運用を委託しています。
鎌倉投信ではリスクをとることを決めただけ。
これしかありませんでした。

 

社会的投資のリターン 

山崎:
もう一個だけ聞いていいですか?
世界ではSRIなど社会性のある投資はあんまり運用実績はよくありません。
逆に反社会ファンドがよっぽどリターンが良かったりします。

そうではないと思いたいけど現実はそうじゃなかったりします。
例えば軍需産業などは高いリターンが出ていることが衝撃でした。
クオンツトレーダーで数字に強い新井さんが思いのある投資だけでなく、プロとして色々やっています。

想いだけでやっているとビジネスが大きくなりません。
あくまでも企業家としてビジネスのプロでないといけない。
金融のプロとして違う基準でやればこうなるというのを見せてもらいました。

新井:
バッグだって色々言うより使ってみてくださいですよね。
そうしてわかる結局は結果なんですよ。
そのためにやるのがプロ。

そこに徹することが大事ですが、わざわざ見せびらかすのはおかしいと思います。
社会的責任は当たり前の事であって金銭的リターンになるわけがありません。
あくまでも将来の価値がどうかというだけです。

この社員さんがいるから成長する、社会的価値については何も担保しない。
そういう会社が成長するのか見守ることが大事です。
金銭的なリターンでは軍需産業に負けるかもしれないけど、リスクは小さくします。

いいことをすると言っていますが、まず最高のバッグでないといけないんです。

山崎:
マザーハウスの事を知らなくても普通にいいバッグだと思って買ってもらえるものにしようとしています。

新井:
それが今のマザーハウスそのものです。
いつも思うけど圧倒的に勝って欲しい。
その強さが他の企業がそうでないといけないと思うきっかけになって欲しいと思います。

 

山崎さんの夢

新井:
山崎さんはもし鎌倉投信の運用責任者だったらやりますか?

山崎:
いつかファンドを作りたいと思っていました。
でも、個人でも出来ることがあることがわかりました。
個人株主として関わることなど個人としての運用ルールを決めました。
例えば現代アートのアーティストの作品を買うことなどもしています。

マザーハウスを大きくすべきか迷っています。
資本主義を変えたいんです。
間に合うかな?僕が生きている間に。
システムが勝手に走ってるんです。
VWもシステムの問題と思っていて、現場はどんどん見えなくなっています。
資本主義の世界の中で大きくならないといけないけれども、そこには怖さがあります。

ある程度の規模以上は目指していないんだけれども、僕は大きくしたいとも思っています。
世界で基準とされるようなコミュニティを作りたいんですが、一方で怖さもあります。
新井さんはどう思いますか?

新井:
僕は企業には適正規模はあると思っていて、限界がどこかはわからないけれどもすごく強い組織であればある程度の規模までいけるのかなと思います。
ただ、限界は必ずやってきます。

1社で全てを変えようとしないこと。
業界を超えた人も含めて全体を変えることが大事だと思います。
自分達だけで変えようとすると難しいですね。

僕らは1つ提供して、真似する人が出てくれば時間はかかるかもしれないけれどもその方が維持できるんじゃないかと思っています。

自分の命だけで出来ない方が美しい。
次の人達がつないでくれて、もっと大きなことを達成してくれる基礎を作る方が大きな気がします。

山崎:
まだ僕は若いですね。
何も出来てないと思うんです。

新井:
意識はそれでいいんだけど、少しずつだけど変りつつあります。
しっかりと一歩ずつ進むことが大切で一足飛びに飛ぼうとすると崩れてしまうんだろうなと思います。
そのジレンマを抱えるのが経営者です。

山崎:
東芝とVWの問題で火が付いていますが、規模が大きくなって色んな会社を駆逐していくのが問題だと思っています。
それには経済性で対抗しないと。
世界のものづくりを変えたいんです。

 

質疑応答

会場からの質問:
友人からクラウドファンディングの話がありましたが、やろうとしている内容に全く興味がわかないんです。
いろんな業者が参入してきてクラウドファンディングも劣化している印象がありますがどう評価してますか?

山崎:
それについては先ほども新井さんと話していたんですが危惧しています。
いいと思う部分もありますが危険もはらんでいます。
何も考えずにお金が集まることによって失われることがあるかもしれません。
必要は発明の母と言うように自分達もクラウドファンディングで資金を集められたらお店を自分たちの手で作ってなかったかもしれません。
リソースが足りないところにこそクリエイティビティがあると思います。

新井:
モラルハザードが起きています。
誰でも設定できるからどんどん質の低下が起こります。
管理人の能力次第でこれから淘汰されていくと思います。

 

会場からの質問:
マザーハウスは社長が二人いるイメージです。
お二人は性格が違うと思いますが組み合わせはいいんでしょうか

山崎:
全く真逆ですね。
左脳と右脳。
性別もバックグラウンドも真逆です。
山口は現場の人間、僕はマクロの人間です。
お互いが鏡になっていて、こういう二人が一致したときが一番強いんです。

新井:
うちは特殊です。経営者と運用は利益相反するので分けざるをえないんです。
単純に言うと鎌田はいい人で僕は文句を言う方です。


会場からの質問:
No2からみてNo1をコントロールするのはどうやっているんでしょうか?

山崎:
それをずっとやっています。コーチングを互いにやってるような感覚です。

 

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