11月17日(月)にコモンズ30塾として統合レポート読み解きワークショップが開催されました。昨年も参加してとても良かったので今年も参加してきました。
また、今回登壇される方は3名とも伊藤レポートの執筆者に名前を連ねている方達だったのでそういう意味でも期待していたのですが、エーザイの柳さんからはまさにドンピシャな話があり、伊藤レポートの背景を知ることが出来たのもトクした気分になりました。
*写真はコモンズ投信さんのFacebookページからお借りしました
今年の参加企業さんは昨年に引き続き参加のオムロンさんと今回初参加のエーザイさんです。オムロンさんは昨年の統合報告読み解きの際に努力は認めるけどまだまだと激しくツッコミを入れた会社さんでしたので、今年はどうなっているのか楽しみにしていました。
エーザイさんは株主総会の招集通知がすごい!と評判の会社で、いつか株を買いたいな〜と思いつつ買えずにいる会社です。チョコラBBのCMに出演している縁でPerfumeのライブのスポンサーもしてくださっていて、ライブ終了後にお客さん全員にチョコラBBを配っていただいたり、そんなところでもお世話になっています。
ワークショップの後の発表では様々な方の目線で見た統合報告の感想が聞けて勉強になりました。思えば個人投資家として一人で投資する際に欠けるのはこうした多様な考え方なのかもしれません。それをワークショップを通じて感じました。
また、自社の事を多くの方に知ってもらおうと努力されているIRの方の想いも伝わり、とても満足度の高い会でした。「統合レポートを読み解く」と題されていたので統合レポートを企業の方が解説してくれると勘違いしていた方がいましたので、そのあたりは事前にわかりやすく通知した方がいいと思います。是非また来年も開催してください!
「企業との対話」ワークショップ 〜統合レポートを読み解く 〜オムロン株式会社・エーザイ株式会社を迎えて〜
日時:2014年11月17日(月) 19:00〜21:00
主催:コモンズ投信
会場:東京21Cクラブ・コラボレーションスペース
講師:渋澤健さん(コモンズ投信株式会社 取締役会長)
安藤聡さん(オムロン株式会社 執行役員経営IR室長)
柳良平さん(エーザイ株式会社 執行役 デピュティCFOチーフIRオフィサー)
渋澤(コモンズ投信):私が就職する際にアニュアルレポートを参考にしたという経緯もあるのですが、長期目線を持つ個人投資家にとってアニュアルレポートならびに統合レポートは企業を知る上で役に立つものだと思っています。一方で企業側からすると個人からのフィードバックが少ないのが悩みでもありました。
今日はIRに関して東西の横綱と呼ばれている2社に来ていただきました。オムロンさんは昨年もこのワークショップに参加しただき厳しいご意見をいただいたので今年もチャレンジしたいと先日お会いした際に安藤さんからお声がけいただき、今年も開催することになりました。もう1社はどうしようと思った時、同じ会にたまたまエーザイの柳さんもいらっしゃったので参加をお願いし、快諾していただきました。
安藤(オムロン株式会社):オムロンでは経営のモットーが創業時続くCSV的観点がありました。統合レポートを作るにあたりこれらの事をお伝えしたいと考えました。
- 経営のモットー
- 特徴
- 企業価値向上の取り組み
経営のモットーとしてこう定義付けしています。
事業を通じてイノベーションを起こし、世の中が必要とするサービスをいち早く提供することによって社会的課題を解決し、グローバル社会の発展に貢献する。そして、企業として持続的な成長を達成する
また、企業は社会の公器であるという理念の下、安心・安全・環境・健康分野においてセンシングコントロール技術を核に社会の潜在的ニーズを発掘しグローバルかつフェアに事業を展開していきます。
それにはまずマネジメントシステムがしっかりしている必要があります。
- ROICをKPIにした事業ポートフォリオの策定
- 10年間の長期ビジョンの策定
- どういった社会、商品を作るのか
- 自発的な情報開示に基づくステークホルダーとの対話
- 取締役への短期、中期的なインセンティブ付与
- 経営陣、社員一丸となった経営理念や事業戦略の共有
対話については機関投資家とは年間1,000件、個人投資家とは今日のような場を含めて年間50件程度の対話の場を設けさせていただいています。
また、取締役に対して短期、中期的な業績連動インセンティブを与えるため1年、3年の業績に応じたボーナスや有償でのストックオプション制度もあります。
社会的課題の解決という意味では皆さんが今日お使いになられた自動改札やATMなども当社が始めて開発したものです。社会の変化に対応する力を身につけこれからも社会的課題を解決していきます。
アニュアルレポートは過去から現在を説明していましたが、統合報告ではこれから企業がどこへ向かうのかがわかるように作成しました。見所について説明します。
P.8 過去11年の主要の財務変化
P.17 CEOメッセージ
社長からのど真ん中のメッセージ
P.17 CFOからのメッセージ
CFOが代表取締役副社長で主に財務関連を見ています。
オムロンはFAを中心としてBtoBが90%を占めています。
持続的経営をすべてのステークホルダーにとってわかりやすい形で報告できればと統合報告を作っています。昨年統合報告を作ったのは95社、今年は134社と少しずつ増えています。いずれ上場企業にとって統合報告がメインストリームになると考えて取り組んでいます。
柳(エーザイ株式会社):今日は私だけではなくIRチーム総出で来ています。イケメン2名とエーザイのPerfumeと呼ばれている女性社員3名がエーザイのIRチームです。
エーザイでは今年始めて統合報告に取り組みました。いわばパイロット版です。当社では200ページにも及ぶ株主総会招集通知を5月に作っています。そちらを統合報告で株主に信を問うという意気込みで作っていましたのでアニュアルレポートの統合報告化については様子を見ていました。
しかし、金融庁主導で機関投資家向けに日本版スチュワードシップ・コードが始まり、来年からは企業向けにコーポレートガバナンス・コードが始まります。また、経済産業省からは伊藤レポートを通じて持続的成長にフォーカスが当たることにもなりました。
日本版スチュワードシップ・コードはうまくいきますか?と企業に聞いたところうまくいくと答えた企業が46%、わからないと答えた企業が36%でした。日本の企業はあまり投資家と話さないと言われていて、投資家と対話しましょうというのも伊藤レポートに書いています。
資本生産性の中長期的な向上策を提言したものでESGを是とすることで資本コストが下がるという面もあるのですが、ガバナンスの高い企業は業績予測の確度が上がるという見方もあります。こうした事を統合指向で説明するべきだと書いていますが、ただやればいいというものではありません。
また、伊藤レポートには資本効率についても具体的に書いていて長期的にROE8%以上を目指すようにと書いています。これは賛否両論喧々諤々で様々に言われていますが、私が書くように言ったものでそれが採用されました。議決権行使コンサルティングのISSが5年以上ROE5%以下の場合は取締役の再任を否決するとも言っていますが、なぜ伊藤レポートでは8%にしたのかというと世界中の投資家に聞いたところ90%が満足する水準がROE8%だったのです。
世界の投資家にとってのKPIはROEが90%と答えているのに対して日本企業にとってのKPIは72.5%が売上でROEはわずかに22.7%でした。そこでROE(資本効率)に注力してもらえるようにレポートに盛り込みました。
スチュワードシップコードを知っていると答えた企業は53%、導入されても投資家とのコンタクトに変化はないと答えた企業は59%でした。年初のアンケートなので今はもっと意識も変わっていると思いますが資本効率や株主還元について重要視した上で持続性について担保するために必要となるのが非財務情報のESGやCSR、IRなのではないかと考えています。
今年は対話のツールとしてパイロット的に作成した統合報告(アニュアルレポート)ですが、株主総会招集通知が200ページあるのでコンパクトに50ページにまとめました。また、IIRCのフレームワークで決められた統合報告のフォーマットに則って作成した為、お見苦しい部分もあるかと思いますが、皆さんの意見をお聞かせいただければと思います。
P.11 編集方針が書かれています。
P.9 企業理念が書かれています。患者様が一番大事で結果として利益があると書いていますが、この順番が大事です。この事を定款に入れた日本で最初の会社でもあります。
P.44 コーポレートガバナンスについて書かれています。
P.19 フィラリアという蚊を媒体とする熱帯病への取り組みについて書かれています。足が大きくふくれて身体障害を発する病気ですが治療方法は確立されているにもかかわらず治療費を払えない患者さんが多く十分な数の薬品が作られていません。
エーザイではフィラリアをはじめとする顧みられない熱帯病への治療薬を低価格や無料で提供しています。これは短期的には財務的にマイナス要因ではありますが、長期的視点にたつと患者さんが完治して働けるようになって弊社製品への愛着をもっていただけるという価値でもあります。こうしたことは30年の計にたって実施されています。
また、エーザイでは長期的にPBR2倍以上を達成していますがPBR1倍までが企業の財務的価値、PBR1倍以上の部分が市場が付けた付加価値=非財務的価値として認識していて、株主の皆様に正しく非財務的価値を判断いただくことが高いPBRを維持することにつながると考えています。
このあと、参加者グループ毎に統合報告の読み比べを行いました。
ワークショップの結果発表
オムロン
- レポートは読みやすいが一方でワクワクしない
- ROICがKPIだという事がわかりやすかった
- ハイライトがあって重要な点がわかりやすかった
- 事業別に書いてあるのがわかりやすかった
- 経営者の写真に笑顔が欲しい
- 写真が多くよいが、若い世代をもっと載せるといいのでは
エーザイ
- トップマネジメントがわかりやすかった
- 横長で余白部分が気になった
- 経営者の写真の表情が堅く同じ写真の使い回しのような・・・
- ストーリー性がない
- 読み込むと色々わかるが、ぱっと見でわかるように小見出しが欲しい
全般的に
- 将来目標も入れるとよいのでは
- 端的に物事を伝えて欲しい
- なぜ統合報告を作ったのか?フォーカスが見えない
- 理念はいいが表現が抽象的かもしれない
私の個人的な感想ですが、オムロンさんは昨年のこの会で指摘されたことをかなり是正してきたなという感じです。BtoB中心で個人向けになかなか接点のない会社故に少しでも自社を知ってもらおうと写真を効果的に使おうとしているのがわかりました。
ただ、まだ見せ方に慣れていない部分があり、中身はだいぶ取捨選択が進んでいるのでデザイン面で頑張るとだいぶ印象が変わってくるように感じます。
エーザイさんはとにかくIIRCのフレームワークに則って作ってみようとした結果、気合いが空回りした状態です。株主総会招集通知が素晴らしい出来ですので来年は自社らしさを盛り込んであげると中身はガラっと変わってくると思います。
読み込むとかなりの事が書いてあるので、少ないページにするのであればもっと情報を削って簡素化した方がより多くのステークホルダーに読んでもらえるものになるのではないかと思います。