いい会社の理念経営塾 鎌田さんのお話の後半はエコッツェリア協会の中島さんと鎌田さんの対談でした。鎌倉投信が目指している野望などこれまで聞くことのできなかった鎌田さんの胸の内も聞くことができました。
日本で鎌倉投信や投資先の社長を通じて変わった人が10万人うまれたら、きっと素敵な未来が待っていると思います。
いい会社の理念経営塾 組織を動かす”ふつう”の人たち
日時:2014年8月3日(水)
場所:3×3 Labo
主催:NPO法人いい会社をふやしましょう
講師:鎌田恭幸氏 鎌倉投信代表取締役社長
投資先を選ぶ時には時間軸や事業領域など色んな要素がありますが、大事なポイントはお客様や社会の求めるニーズにこたえる社員、スタッフがいるかどうかです。
中島(エコッツェリア協会):鎌田さんといえば最近はテレビや雑誌などでも紹介されて波に乗っている感じもありますが、今日はどういったことを聞きたいと思って来たのか会場の皆さんに聞いてみたいと思います。
会場から:私は自然を傷つけない建築を仕事にしていますが、お金を儲けるのも大事だと思っています。いい会社に投資をしていくというのは私も本業の傍ら自然を傷つけないようにしているのに通じていると思いますが、全然儲かりません。いい事に取り組んでいるところは儲かっていない会社が多いのに、ちゃんと実績があがるのはどういう仕組みなのでしょうか?
鎌田:まず、鎌倉投信が投資している会社はちゃんと利益が出ている会社です。基本的には投資先の会社が10%くらいの利益成長をされていて事業性と社会性がバランスしているのです。大きな流れでいうと、これからは社会性のある会社でないと利益は出せない時代になっていくと思います。モノやサービスが行きわたっている中で社会課題をよりよくするニーズの方が高まっているからで、そういう指向性が震災以降高まっているのを感じます。
いかに儲けるかではなく、より良くするかという視点で事業の本質を置くと方向感が変わってきます。大きな時代の流れを言うと社会価値創造型の会社に投資をしています。
中島:いい事をしていてもなかなか儲かっていないじゃないかという声があります。
いい事はやっていてももっと拡大できたりその先に発展性が見えるのでしょうか?
また、投資先のいい会社についても目利きが問われると思いますが投資判断はどのようにしていますか?ただいい会社だからいいわけではないという判断力について教えてください。
鎌田:うちも儲かってないので・・・。投資先を選ぶ時には時間軸や事業領域など色んな要素がありますが、大事なポイントはお客様や社会の求めるニーズにこたえる社員、スタッフがいるかどうかです。
無から有へ、そして有をもっと大きくしていくには人が揃っていることが大事です。(運用責任者の)新井も主体性を誘発する経営者かどうかを判断材料にしています。
中島:優れたリーダーがいるという話がありましたが、人間性を見て将来を一緒に感じられるかという事でしょうか?
鎌田:その会社に行って活気があることが大事です。雰囲気はパワーそのもので、いい会社にはいいお客様が集まってきます。人に創意工夫が求められる時代になったのだと思います。
何のために生まれてきたのか見つける旅そのものが人生ではないでしょうか。
中島:今は時を得て毎日充実していると思いますが、20年間サラリーマンをしていた当時は強い信念はなかったという話がありました。今日ここに来ている人には既に活躍している人も迷っている人もいると思います。その人達はどうやったらいいのでしょうか?
志はあっても一歩を踏み出せない人の中にも生活のため、日常に追われてそこまで行けないという人もいます。変わる瞬間というのはどういう時に気づくのでしょうか?
鎌田:自分も20年悩み続けて今に至っています。ただ、その20年も目の前のことを一生懸命やることは続けていました。お客様や同僚の信頼は裏切らない事の積み重ねでいい導きがあると思います。
これまで仕事を通じて涙を流した瞬間が2回あります。私は私生活では涙腺が緩いのでテレビを見ていてもしょっちゅう泣いて子どもにバカにされていますが、仕事ではとことんやりきらないと涙は出てこないものです。
一回目は三井信託時代です。当時企業年金の運用をしていて大手電機メーカーの資産を預かっていましたがコンペがありました。うちは長い付き合いがあったので負けるという発想がそもそも経営にありませんでした。コンペの相手はBGIで、当時世界では有名でも日本では無名だった会社です。私には危機感があって資料やプレゼンなど万全の準備して臨みましたが結果は負けてしまいました。
なぜ負けたのか?
最終的にその会社に言われたのは「三井は過去を語りBGIは未来を語った」という言葉でした。うちの役員は今までの取引の延長線上でお願いしていたのです。それで負けた事が自分はとても悔しくて初めて涙を流しました。
今でも覚えていますが1996/9/6の出来事です。
2回目はBGI合併の時です。3社を一つに統合するという事だったのですが、外資系でクローズするのは結構時間がかかるのですが、これをなんとか短時間でやろうと頑張りました。その際、自分の中で決めたのはリストラしないという事です。一人も合併により職を失うことが無いようにしました。私は合併が済んだら去ることを事前に決めていたので同僚がお別れパーティを開いてくれたのですが、その時仲間と一緒に飲みながら泣きました。
今度は後悔が無いほどやりきったから出た涙です。その時が点と点がつながった瞬間なのだと思います。いま明確でなくても、いま与えられたことをやりきるだけで十分です。
中島:今日の話を聞いて吸い込まれる気分になったと思います。いまだ成功していないという話でしたが、どういうところで成功となるのでしょうか?
鎌田:次に何かやりたいことが見つかった時に成功したと言えるのだと思います。
中島:二毛作、三毛作いくかもという事ですか?
鎌田:可能性はあると思います。
中島:金融で無いかもしれない?
鎌田:そういうのを探し求めるのが人生なのではないでしょうか?この5年で定まったけれども、その発展系があるのかもしれません。何のために生まれてきたのか見つける旅そのものが人生ではないでしょうか。
いい組織風土を作っている人を見ていると人の話を徹底的に聞いています
会場からの質問:日々過ごしていく中で会社の中での苦労を聞かせてください。
鎌田:社員の人材育成です。事業としては軌道にのせてきたが、会社は人の集合体なのでやる気が大事です。働いていて幸せを感じる組織にするには15年、20年という時間がかかります。全員で共有できるようになるにはまだまだですので、そのための苦労は今始まっています。信頼関係や目指す姿についてようやく緒についたところです。
中島:世代によるモチベーションの違いというのはあるのでしょうか?
鎌田:それはあまりないと思います。世代については特に。世の中一般に若くても志のある方はいらっしゃいます。
中島:社長でありながら後任を育てるという事も大事だと思います。コミュニケーションが大事だと話されていましたがポジションによる価値観の違いについてお聞かせいただけますか?
鎌田:自分自身出来ていないので反省しています。いい組織風土を作っている人を見ていると人の話を徹底的に聞いています。上に立つとそのように動いて欲しいし、聞いて欲しいので説得しようとする傾向があります。
でも、80:20で聞き役にならないといけません。その為にはしゃべってはいけないのですが、ついついしゃべってしまうのを感じています。まだまだです。
中島:今日は会社の方もいらしているのでスタッフの方にも聞いてみましょう。コミュニケーションについて鎌田さんは聞き役にまわっているでしょうか?
加藤(鎌倉投信):難しい質問ですね。私もキャリアが長いのでたくさんの上司の下で働いていますが、その中でも話は聞いてくれていると思います。そこに意識しているんだなというのを感じています。
中島:ひょんなことからうれしい一言をいただきましたが
鎌田:うれしいですね
中島:コミュニケーションとしてBBQをするなど工夫はしていますか?
鎌田:日本家屋なので畳の部屋や縁側があり、毎月社員みんなで飲む機会があります。
桜の季節は花見などもします。以前は一人でも花見などしていたのですが、私が残念ながらお酒をやめてしまったので少し距離が遠くなったかなと感じています。
日本人のうち、10万人が鎌倉投信や投資先の社長を通じて変わったら社会のうねりになるかもしれません。そこが一つの目標です。
会場からの質問:私は金融業界にいますが、まさに金融マンの精神性の欠如を感じています。社員の方を志の高い方にするにはどうしたらいいのでしょう?育成をしていくうちに高くなっていくのでしょうか?
鎌田:僕が教えて欲しいくらいです。私や鎌倉投信ができているかは別として、整理整頓清掃や改善など当たり前のことができていることが大事です。
次の3つのことをすればいい人格になると教えられました。
礼を尽くし、時を守り、場を清める
挨拶をきちんとしてお礼は忘れずに。約束を守り、整理整頓を心がけるという事です。
これは言葉を変えるとOJTという事です。社外社内研修も大事ですが、企業理念の浸透で大事なのはOJTです。鎌倉投信はまだそこが弱いのですが、大事なことを上司が部下に教えるようにしています。日々の業務の中で教えるカルチャーが育っているかが重要です。
鎌倉投信の例では今年新卒の新入社員が2名入りました。まっさらの人間を育てるプレッシャーをみんな感じながらやっています。
会場からの質問:共感ポイントとしてその日のうちに手紙を書くというのがなかなか続かないのですが、今日帰ったらそれはすぐやりたいと思います。
鎌田:手紙は難しいですね。私も手紙を書くのに苦労していたら加藤さんが日新堂印刷さんにハガキを作っていただきました。ハガキだと手紙ほど大変ではないので書かないことによる負い目を感じなくなりました。
中島:今日のお話は共感する部分がたくさんありました。「平凡な人が平凡なことを非凡に」というのは丁寧にやってきたから今のポジションになったのだと思います。
鎌田さんが成功に達するとしたらそうなるまでにこんな工夫やチャレンジがあればというのはなんでしょうか?
鎌田:鎌倉投信はまだ会社として赤字です。6年やっても赤字だったら普通の会社なら社長をクビになっていますが、まもなく黒字化するところまで来ましたのでこれからは経営を安定させることが大事です。
また、結いという名前ですのでお客様の数を少なくとも3万人にもっていきたいと思っています。3万人というのは家族も含めると10万人と考えられます。日本人のうち、10万人が鎌倉投信や投資先の社長を通じて変わったら社会のうねりになるかもしれません。そこが一つの目標です。
海外の金融機関に「日本には鎌倉投信という会社がある」と言われるようになるという野心があります
鎌田:他に、あまり話していないのですが海外から認めてもらうというのも考えています。世界から認めてもらえる日本の金融機関はゼロです。
中島:それはなぜでしょう?
鎌田:イノベーションがないからでしょうね。ドメスティックにはイノベーションがあるのですが、海外からはそれが見えません。非常に内弁慶な感じです。海外の金融機関に「日本には鎌倉投信という会社がある」と言われるようになるという野心があります。
安倍首相が総理になった時、ダボス会議でキーノートスピーチを日本の首相として初めてしました。それは世界に日本の復活を印象づけたのです。私はあの場に行ったことはありませんが、あの場ではいまだ資本主義のこれからを真面目に議論されたことがありません。あくまでも欧米の価値観が絶対だという証でもあります。
アメリカ型でも中国のような国家主義でもなく、「和」な形を鎌倉投信で達成できればと考えています。5年後ですね。
中島:3つの「わ」を育むという事で走り続けてらっしゃいますが、仕事の中でいちばん幸せだと感じる瞬間はなんでしょうか?
鎌田:社員の笑顔をみることです。笑いはパワーです。社員の笑顔を見ると会社をつくってよかったなと思います。自然と笑顔が出る組織になった時に達成感があると思います。
中島:今日はありがとうございました。
鎌田:ありがとうございました。
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