7月9日に開催されたNPO法人いい会社をふやしましょう主催のいい会社の理念経営塾の二回目、TESSEIの矢部顧問のお話の後半です。後半では大久保寛司さんが要点をピックアップして学びのお手伝いをしてくださいました。更におもてなしの巨匠、高野登さんも登場して豪華なパネルディスカッションでした。
いい会社の理念経営塾
組織を動かす”ふつう”の人たち
日時:2014年7月9日(水) 19:00〜21:00
場所:3×3 Labo
講師:株式会社JR東日本テクノハート TESSEI顧問 矢部輝夫氏
人と経営研究所 大久保寛司氏
元リッツカールトン日本支社長 高野登氏
大久保寛司:
これから、本質のところに踏み込んで深掘りしたいと思います。
安全のエキスパートだった矢部さんが突然清掃の会社に行くことになったんですよね?
矢部:
安全に関しては35年も携わっていました。
大久保:
突然、整備会社に行けと言われた時はどう思いましたか?
矢部:
35年安全をやってきたので今度は海外かなと思っていた事もあり、あれ?と思いました。今では来て良かったと思っています。
大久保:
最初に見てみた印象はどうでしたか?
矢部:
聞くと見るとで大違いでした。
大久保:
当時、ものすごく評判が悪かった。
矢部:
本社は除いておばちゃんは真剣にやっていました。
この人たちを世の中の人に知ってもらいたいと思いました。
大久保:
清掃の会社にはこれまで色んな会社にいた人が集まりますよね?
矢部:
20歳~58歳まで幅広い年齢層の人が集まっています。
最初は全員パートからスタートしますが1年たったら正社員になる試験を受けることができるようになります。履歴書を見るといろんな職を経験されてきたことがわかります。社会に川上と川下があるとして、やっとここまで流れてきたんだからここでやめにしようと話しています。
自分の仕事に誇りをもってくれ、みんなが努力しよう我々も努力するということです。
おばちゃんに「プライドを捨てて入って来たけど、新しいプライドを持ちつつあります。」と言われたときは嬉しかったです。
大久保:
ある人はご主人の義理の妹に自分が掃除している姿を見られるのが嫌だったんですが、私が掃除している姿を見て「お義姉さんは素晴らしい」と言われたそうです。
先ほどの大久保さんの言葉はパートから正社員になる面談で言われた言葉で、「新しいプライドを持ちつつあります」という言葉を聞いて正社員として採用を決めました。
矢部:
もちろんそれだけじゃないですよ(笑)。
大久保:
現場は一生懸命やっているけれども楽しそうじゃない。
そこで最初にやったことはなんですか?
矢部:
いろいろやりました。さっき話したハインリッヒの逆法則。
これだ!と思い込んでやると効果がありません。
35年の経験であらゆることを積み重ねる癖がついていました。
もう一つは「褒めるの好きじゃない。厳しくないとだめなんだ。」という人がいますが私も考えは一緒です。ただ、いままで厳しくやってきたんです。安全もそうですが、それでも事故は減らなかったんです。
だから逆のことをやりました。
単純に褒める事をやればいいわけではありません。
ただ真似をして自分の会社でも褒めればいいのではなく、自分の会社では何が必要なのか考えないといけません。
大久保:
視察件数は多いですか?
矢部:
最近は要望が多すぎてお断りしています。
仕事ができなくなってしまうからです。あくまでも運行に影響がない範囲にしないといけません。
大久保:
私が行った日も今日だけで3件、海外からも来ていたんですと言われていました。
視察の6割が海外から。なぜ海外から来るかというと共通した感想を持っているからです。
矢部:
なんでこんなことができるのか?と聞かれますね。
大久保:
ミラクル!アンビリーバブル!と言われます。
世界中いろんな国でも掃除の仕事でモチベーションがあがるのは不可能と思っています。
ところが、TESSEIでは従業員に主体性があって改善していっています。現場からの提案の積み重ねというのは世界の常識からは考えられないことなんです。
日本ではサマンサジャパンという山口県にある会社もモチベーションが高いと言われていますが、どうしてできたのでしょう?
矢部:
コメットをつくったときサマンサジャパンを知りました。
病院の清掃をやっているのですが患者様はレセプションやトイレや階段にお困りで、それをサポートするのが私たちという考えでした。コメットを作ったばかりで不安でしたが、同じような事を考えている会社があるんだと思いました、
また、サマンサジャパンの会長が社員を幸せにすることが私の役割だと話しているのも自分と同じ考えでした。
よく、私にビジネス展開を考えるべきだという人がいます。
そこで、どういうふうに?と聞き返すと「考えてません」と言われます。
ビジネス展開する目的はなんですか?
儲かるから?株主利益を最大化するから?
じゃあ、そうしたとして働いている人はどうするんですか?
それで私たちの社員が誇りをもって働くのですか?という事です。
シンガポールのチャンギ空港からこられた方が私たちの空港は多国籍なメンバーがやっているがこんな事はできるのか?と言われました。でも、TESSEIにも中国人が20人いて半分以上は社員です。なぜかというと、他の国の人も同じ日本人と見ているからです。
自分たちの役割を再定義し、確固たるものをまず持たないといけません。
多国籍=レベルが低いというわけではありません。セコムが海外でも成功していてロンドン地下鉄でも活躍しています。日本人でなくてはということはありません。
自分の考え、思想をしっかりと持つことが重要です。
大久保:
ここで、高野登さんをお呼びします。
高野登:
矢部さんのお話を聞くのは今日が3回目ですが、だんだん面白くなっていますね。
おもてなし創造部というのはいろんな会社で考えていますが、TESSEIでは実際につくっています。
言葉にしないとイメージされません。
概念が形になることでフレームワークがしっかりしています。
矢部:
自分で歌うように話すようになりました。
昔は吃音があり、うまく話せないことへのもどかしさがありました。
若いときのつらさが今に生きています。
コミュニケーションとはなんでしょう?
伝えようとすること。では何を?
一番下の娘が塾に行くので迎えに行っていました。
ある日、「今日、国語の試験があったの」という話があり、その内容はコミュニケーションとはなにか?というもので、スキンシップなどは手段だと勉強したそうです。
「コミュニケーションの目的は自分の温かさを相手に伝えることなんだって」と話してくれたのですが、それは小学校4年生が遠まわしにありがとうと言ってくれていたのです。
女の子はその後中学生や高校生になると何をいっても「別に」しか答えてくれなくなりますし、大人になったら「会ってほしい人がいるの」と言われてそれっきりですが・・・
話すときは相手の動きも見ています。
言葉も大事にしていますが、すべてでコミュニケーションしています。
おばちゃん、あんたたちのことを一生懸命考えてるよと伝えるのです。
怒るだけで動くなら怒りますが、動いてもらうためにならなんでもします。
「おれは偉い」と思わないようにしています。みんながやってくれればいいと達観するようになりました。1を聞いて10しゃべる体制でやってますが、話過ぎてないでしょうか?
大久保:
言いにくいと思いますので代わりに話しますが、鉄道会社というところは軍隊に近い上位下達の世界です。それぞれ適当なな事をされたらコントロールできなくなるので完全に軍隊のような組織です。
その中でこういう方は嫌な思いをしたと思いますが、新しい会社ではそういう想いはさせたくなかったんだと思います。
実は本の中で書いてないことを2つ知っています。
一つは現場の女性は矢部さんをやべっちと呼んでいます。専務と呼んでいるのは上から天下ってきた幹部だけ。おばちゃんに聞いても「やべっちはやべっちですから」と言われます。
矢部:
ある日、みんなの様子を見ている「やべっち何やってんの?」と声をかけられました。
みんなの様子を見て激励に来たんだと言うと「することないだったら本社に帰って仕事してなさい」とおばちゃんに言われました。
強烈な言葉ですが表面上はにこにこして話を聞いていました。
すると、今度はおばちゃんが「そういえばこういう事があった。やべっちなんとかしてくれない?」と続けて話してきました。
おばちゃんも本音はこれを言いたいのです。厳しい言葉はあくまでもそのイントロで、そこはこらえて現場からの本音を聞かないといけません。
大久保:
重要視するのは距離感です。
TESSEIは現場と専務の距離がものすごく近いのが強さに表れています。
あなたたちは掃除をするんじゃない、思い出を作るんだと言った時の最初の反応はどうだったんですか?
矢部:
「なにいってんの?」「うちは掃除の会社だ」という反応がありました。
でも、そう思うのは想定内だったので、そこから思い出を作る会社だと思わせるためにどうしたらいいかと考えて行動しました。
それには本気、熱意、真剣さを見せることです。簡単にいいますが、手探りでいろいろやりました。TESSEIに来て9年やってますが、できるようになるまで8年かかりました。
これを「8年もかかるんですか」という人もいれば「8年かければこうなるんですね」という人がいます。人間の組織は1年、2年では変わりません。じっくり色んな戦略を考えないと。
若い人が自分の目標を探すんだとか、目標が見つからないといいますが大変だねと思います。自分も若い頃は目標はありませんでした。昔の人もみんな、自分がやりたい事なんでやりたくてもできなかったのです。
ではなぜ自分がここにいて皆さんにお話しをするようなところにいるのかというと、1日1日を精一杯やってきたから。今、積み重ねでこう言っています。
自分の力を過小評価するなと話しています。人間には残された可能性がものすごくあります。あるゴルファーが低迷していてコーチを代えました。
新しいコーチがじゃあまず打ってみてといい、ゴルファーが打ってみせました。コーチは言いました。「どうも自分の力を過小評価しているみたいだね。」そこから変ったのです。
おばちゃんも自分のことを過小評価していました。
掃除していると、待っている人から「勉強しなかったらああいう人になるよ」と言われたり、保線の人もそういう経験をしています。
世の中の見方を変えて100×1に注目していただけるようになりました。
高野:
おばちゃんたちは幸せだったなと思います。
社会的に注目を浴びて自らのアイデンティティをつくって。
では、JR本社は何か変りましたか?また、もっと変って欲しいことはありますか?
矢部:
JR本社も変ってきました。最初はコスト削減が大事と言っていて、コメットを作る時にもクレームが出るから止めたほうがと言われていたのが、今ではTESSEIはすごい、TESSEIは止めることはできないと言われるようになりました。
もし、TESSEIがこういう事をしたいと言ってきた瞬間にダメになってるなとわかります。それは本社に相談していないから。
あくまでも自己責任でやってきたのですが、それを認めてくれるところまできました。
TESSEI本社の話は・・・いろいろあるから。でも、現場の人が走り出しています。現場が走っているのでいいところまでいくと思います。
大久保:
7ミニッツミラクルと言われていますが、行うのは人です。
人の意識をつくったのがミラクルなんです。TESSEIは普通では代わり得ない人を変えました。
やべっちのこういう味わいが主婦層の距離を縮めて一体感がうまれたんです。
現場にまかせる、パート化率を低くして正社員化というのは上から何か言われなかったんですか?
矢部:
JR本社から言われても、自分ももう退職金もらってたし・・・。
これが退職ではなく、JR東日本に籍を残したままだったらここまでできなかったかもしれません。
ここでおばちゃんたちの期待に沿ってやらないとと、自分自身のために頑張りました。
なんだかんだ言っても結局は自分のためです。
自分の思いに忠実に。「矢部さんすごいね。」と言われたかった部分も正直あります。
自分を辞めさせてもいいよと開き直りながら、目標を達成するために目立つことをやりました。
そうしているうちに周りも矢部はけしからんと言えなくなりました。
やめなさいと言われる前にやることで「やめろ」と言えなくなったのです。他の10社についても人が変ってきました。
JR東日本のサービス品質もよくなってきていると思います。
大久保:
あの人が言うからやりたくない
あの人が言うからやる
新しい人が来たとき、大事にするというのは誰でも言う事です。
でも、パートを正社員化するのを実際にやったのです。
スタッフの人の休憩所はホームの下の線路の横にあって、電車からの熱がすごいのに冷えないエアコンしかありませんでした。それを800万円かけてちゃんと冷えるエアコンに入れ替えました。
それを見てみんなこの人は本気だと思ったのです。口ではなく行動です。
そこにお金と時間をかけて、上とやりあってくれたんだったらこの人は信じていいなとなったのでは。
そこに原点があります。
本質は簡単です。
仕組みはオープンになっています。でも、皆さんの会社で同じ形でできますか?
できないんです。矢部さんがいないから。
本質はやべっちが言うならという人間性が根底にあります。
矢部さんも苦労していて窯炊きから入っています。貧しい家でお母さんもタフななか子育てを続けていました。自分の母親のような人が厳しい仕事をしているのを見て、その人達をコストとして見ているかどうかそこに本質があります。
先週末伊那フォーラムで川越胃腸病院の院長のお話がありました。
職員が不幸せだったらこんな病院は閉めてもいいと言い切っていました。
会社の存在意義は社員をしあわせにすることだと伊那食品の会長も話していますが同じです。
人への想いの深さ + 知恵の宝庫 + 情熱
が根底にあって人へのリスペクトを本心もっているか
社員を人として見ています。
人は人として扱われて人として働きます。
コストと見ているならコストになります。
TESSEIではパートで入って1年で正社員になれるなど制度、仕組みも変えています。
現場に権限委譲してプログラムも機能していくようにした結果、ミラクル的な人の心の転換ができたのです。
矢部さんは奇跡を起こした人です。
だから海外の人もミラクル、アンビリーバブルだと言うのです。
また、これは日本の評価を上げている事にもなります。さすがジャパンだと。
東京駅ではすぐ隣にJRなんとかもありますが、同じようにはできません。
隣にいて見ているのにできない。ここに本質があるんです。
何をしたらいいかもわかっているのに、ほとんどのビジネススクールはそこが欠落しています。だから学んだことを生かせないんです。
人間こういうことをやってはいかんなと、それをしないようにしています。
輝く職場ではリーダーが人にとてつもない想いを持っています。
自分を偉いと思うのは薄っぺらいという事です。能力はあるだろうが、それでは人はついてきません。本物は謙虚に素直になれる人です。
人がついていきたくなるような人物になってください。
【関連記事】
いい会社の理念経営塾(2) JR東日本テクノハート TESSEI顧問 矢部輝夫氏(前編)
いい会社の理念経営塾(1) エー・ピーカンパニー大久保伸隆氏 (前編)
いい会社の理念経営塾(1) エー・ピーカンパニー大久保伸隆氏 (後編)