いい会社の理念経営塾第3クール最終回レポートの後半です。
いい会社の理念経営塾第3クール「つらぬく経営」第5回
日時:2015年12月3日(木) 18:30〜22:30
主催:NPO法人いい会社をふやしましょう
講師:新井和宏さん(鎌倉投信)
ゲスト:大久保寛司さん(人と経営研究所)
村上さゆみさん(佐々木ファーム)
まずは佐々木ファームのドキュメンタリー映画『大地の花咲き』の予告編を見て下さい。
映画の予告編を見てもらうとわかるのですが、原っぱとしか思えない中に野菜が育っています。ある意味究極の自然農法とも言える虫も雑草も土に生きる菌も殺さないすべての命にありがとうと言うありがとう農法の迫力に引き込まれました。
収量は1/10になってしまったそうですが、そんな中生き残った作物はとても美味しいそうです。養殖よりも天然の魚の方が美味しいとかそういう理屈なんだと思いますが、畑でそれをやっちゃう勇気がすごいと思いました。
野菜にありがとうと声がけするのも牛に話しかけている酪農家さんのお肉が美味しいという話にも通じると思いますが、ただ声をかければいいというものではなく、野菜も雑草も1つの命として手をかける事によって何かが変わったという事なんだと思いました。
そして何よりも佐々木ファームで働いている方の自然な笑顔が印象的でした。伊那食品工業や石坂産業のように自分の仕事に誇りを持って取り組んでいる方の笑顔です。
人は変えることは出来ないが、変わることが出来る
映画『大地の花咲き』を観た後、大久保寛二さん(人と経営研究所)、新井和宏さん(鎌倉投信)、村上さゆみさん(佐々木ファーム)による鼎談が始まりました。
大久保:
村上さんの旦那さんをタカちゃんと呼ぶのですが、タカちゃんのことをお聞きします。
行き詰まった時はどんなふうだったんですか?
村上:
まばたきをしなくなってきて、目の上がけいれんするようになって顔面神経痛になりました。その時くらいにやばいなと思ったんですけど・・・攻め込んじゃいましたね(笑)
大久保:
さらに行き詰まるよね?
村上:
発狂しましたね。タカちゃんも何をしたいのかわからないままやっていたので。そこを私たちが何がしたいんだと攻め込んだらキレてました。
「わーっ」て夜中に裸足で外に出て行って帰ってこないんです。私も裸足で追っかけましたが田舎なので外は街灯もなく真っ暗です。どこにいるのか見つからなくて泣き崩れる・・・そんなことの繰り返しでした。大地が亡くなる直前が末期でしたね。
大久保:
精神的に追い込まれて。
村上:
父親は農業でその時代のイノベーションを起こしてきた凄い人なので「何をしたいのか説明しろ」とタカちゃんに聞いてました。でも、タカちゃんにも今のやり方は違うという事しかわからなかったんです。
大久保:
スイミングスクールを辞めて農業に入ってきたんですよね。野菜が工場で綺麗に洗われ、漂白されて本来の味がしなくなった状態で売られ、更に売れ残りは廃棄されるという事に対してそれはおかしいとタカちゃんは言いますが、父親からしてみたら素人が何を言っているんだと。売った後のことは相手の勝手だろう。それを何年もやってきた人です。
村上:
結局6年続きました。この世の憎しみ、怒りをやりきりましたね。
大久保:
こう言ってはなんですが、やりきるというのは大事なんですね
村上:
はい。
最愛の息子の突然死、そしてネフローゼの発病
大久保:
4歳になる大地君は突然死ですよね
村上:
「今日は疲れたから早く寝るね」と言って寝てから1時間くらいの間でした
大久保:
母親としては発狂しますよね。
村上:
罰だと思いました。
不平不満ばかり言っていて何もできないし生産性もないし。そんな自己嫌悪の中にいたので、誰にとっても良くないことが続いていたのでその状況に罰が当たったんだと思いました。
大久保:
最愛の息子を亡くして落ち込みますよね。
村上:
ひたすら泣いていました。息子の顔をICUで見た時、それまでの自分の人生が走馬燈のように流れたんですが、その中の自分はいつも怒ってました。農業を変えようと帰ってきたのに、ずっと変えようと押しつけている映像が流れてきたんです。
変えようとすることでなく、自分が変ることだったんだと強烈にわかりました。
大久保:
企業の幹部研修で伝えるのは人は変えることができないという事です。でも、変わることは出来るんです。人の中身まで変えることは出来ませんが変われるきっかけをつくることは周りの状況でできます。まさにその通りのことではないかな。
この後、彼女は病気になり余命0日と診断されます。
村上:
腎臓疾患のネフローゼになりました。腎臓は編み目になっていて身体のいらないものは外、必要なものは残すのが逆になる病気です。栄養分が出て老廃物や水分が残るようになってマツコデラックスみたいな体型になりました。
お水なので身体がぼよーんとなるんです。寝返りをうっても身体がぼよーんと動きますし、全身が低反発まくらのようになりました。でも大地が死んで自分は生きろと言われたと思っていたのでなんとか頑張ろうとそのまま放置してました。
ずいぶんたってから腹水がたまって臨月より大きくなったので病院で診察を受けたらお医者さんが複雑そうな顔をしているんです。「先生、はっきり言って下さい」と言うと「余命はゼロ日です」と言われました。今生きているのが不思議なデータが出ていたんです。
余命ゼロ日を宣告されたことで大地のあの死はなんだったんだと怒りが襲いました。すぐに入院するように言われましたが、何かできるわけでもないんです。治療法がないのに入院しろっておかしくないですか?と先生に聞きました。でも病院としては家に帰って何かあっても困るわけです。
当時私には2歳と0歳の子どもがいて生後1ヶ月の赤ちゃんもいました。「入院するって子どもをどうするんですか?」と聞くと誰かに預けて下さいと。それで誰にも預けたくないとはっきり伝えました。
大久保:
自宅入院という不思議な選択を・・・
村上:
自宅で安静にすることをそう勝手に名前をつけました。
大久保:
将来のことを大地君が教えてくれたそうですね。
村上:
当時、私の所にはいろんな人が来て相談を受けていたんですが自宅入院なので面会謝絶にしました。お風呂に入りながら「大地、私死ぬのかな?疲れたからそれでもいいんだけど、くやしいな」と話すと「死なないよ」って聞こえた気がしました。
「あ、そう。じゃあやるわ。」と答えました。
大久保:
家のまわりで園児、幼児が大地君が遊んでいるのを見ているんです。大地君、いつも遊んでいるじゃないと。保育園の仲間だけには見えていたんですね。何かと感じることがあったんでしょうね。奥さんはシンプルなところがありますから。
なぜ死なないのか?医学上は死んでるんですが。これを奇跡と言います。
村上:
そうは思わなくて1000人が違うと言っても大地が死なないと言うんだったらそうなのかなと思いました。
大地はふざけて家族を笑わせたり、親がその親とケンカして病んでるのはわかってたのでお手紙かいたり、壁に大きな絵を貼ったり。お母さん、寂しくなったらこれを見るんだよと言ったり、ぼく、スーパーマンになるんだ。僕が家族を守るんだよ。と話すようになっていました。そのメッセージに救われました。
大久保:
なぜか満月の日に・・・。
村上:
うさんくさいでしょ(笑)でも今日は壺とか売らないので(笑)
大地の命日が11月10日なのですが、9月にネフローゼが発覚しました。自分にできることをしようとしましたが何もできませんでした。これから何をすべきか考えていましたが、このまま生きるのは嫌だなと思いました。もし誰かの役に立てるようなことができるんだったら生かしてと大地にお願いしていたんです。
大地の命日の夜にいよいよ身体が大きいのに耐えられなくなっておいおい泣きました。でも涙は水分なので出ることができずまぶたがふくらんででろーんとたれました。命日なのでお客さんさんが来るんですが、まぶたの垂れた私の姿を見てぎょっとして「ごめんなさい」と帰って行きます。
私の高校の友達が看護師をしていたのでなんとか私を入院させようと来ました。その中の一人が私を見てくすくす笑ってその後号泣です。友達10人くらいでわんわん泣きました。そうして「さゆみ、入院する気ないんでしょ。」というので「治ると思うさ。」と答えました。
翌日が満月だったのですが、トイレに行くとおしっこが止まらなくて一晩中トイレにいることになり、3日で10kg痩せました。それだけ身体の水分が抜けたんです。そして次の満月の日で10kg、次の次の満月で10kgと3回で30kg痩せました。
医者は信じてくれませんでしたが。あれは誤診だったと言いました。自然治癒は医学上認められないので立場上そう言うしかないんです。でも、治ったおかげで「わかったやります」と宣言しました。
大久保:
タカちゃんはこれを見て「お前痩せたな」と言ったそうです。通常これを奇跡といいます。原因・理由がわからないものを奇跡と言うんです。今日は佐々木ファームの皆さんも来ているので一言ずつ映画を観た感想をお願いします。
佐々木ファームの皆さん
佐々木:
妹で発送を担当しています。映画は何回観ても赤裸々すぎて面白いです。
毎日の日常をそのまま撮ったものなので。
田中:
発送を担当しています。佐々木ファームで働いてまだ半年です。その前はスープカレー奥芝商店で最高の一杯をつくるために思いを伝えようと佐々木ファームに通っているうちにそれがスタッフにも伝わるようになりました。
何度も足を運んでいるうちに巻き込まれていった(笑)惚れたんですよね。この想いに。愛と喜び。それまではいつアルバイトさんが辞めるか恐かったんですが、これは現場に生かせると働いてくれたみんなにありがとうと言い続けているうちにみんな変わりました。
大久保:
塚田農場のエー・ピーカンパニーもアルバイトさんが辞めないんです。簡単なことで、大切にされたらみんな辞めないんです。
石川:
映画の中で自分が言っていたこと「でこぼこが大事」というものについて、出来ているときと出来ない時があって再確認できました。以前は映像編集の仕事をしていて自分が素敵だなというものを発信していました。
NPO法人の映像担当を2年やっていて洞爺に来て佐々木ファームを知りました。すごい個性的で生命力溢れる場だったんです。すごく興味があったんですが、びくびくしながら面白そうと見ていました。
自分を出したりするのを怖がっていたのでそういうのとは距離を置いてきたのですが、今はすごくズボっと(笑)
洞爺を離れても帰りたいなって思うようになったところにいいタイミングが来たので入ることになりました。自分と向き合いたいとずっと思っていたんだろうなと思います。
山田:
パートで経理を担当しています。農家に嫁に行ったのですが、夫が所属している農業青年のグループを通じて知り合いました。村上夫妻が明るくて楽しいんです。一緒にいたい私にできることでお手伝いしたいと思っています。
新井:
信じられないくらい明るいですよね
大久保:
50m先でもわかりますね。一般的に言われるいい企業に入っても辞める理由は半径3m以内にあるんです。ここで働いている人は仲間との喜びに溢れてます。
仁瓶:
発送を担当しています。出身は福島県で3.11をきっかけに移住してご縁があって働くことになりました。第三者に聞かれたら変な人達と答えます(笑)
普通の主婦だったのでそれまでは野菜に命があるとか、ものに想いとかそういうものとは関係ない世界で生きていました。佐々木ファームは全部が衝撃的でした。
でもそれって大事だなと。子どもが3人いるんですが、こどもが一番大事、家庭が大事とずっと思っていました。でも、自分が大事にならないと家庭も大事にできないと考えが変わって余計な力みがなくなりました。
働いた最初はずっと泣いてました。私を私として見てくれているのが嬉しくて。しょっちゅう泣いてましたね。
新井:
普通じゃない・・・
大久保:
死んじゃうから入院しなさいで自宅入院ですもんね
村上:
うちの子は最初はみんなおいおい泣いてますよ
大久保:
よごれが落ちるときは涙で流れるんです。意図せず場の力ですね。
私が印象的だったのはここに入りたくて待っている人がたくさんいるという事です。
希望者が多くて2年半待ってやっと入ったという人もいます。
札幌で飲食をやってた夫婦が働いていたので最初に会った印象を聞いてみました。
最初、お店に奥さんが入ってきて「ばあん!でした。」と。
しばらくしたらご主人が入ってきてまた「ばあん!」。
2発のばあん!で佐々木ファームに入りたくなったそうです。
彼らは「ここには人生の喜びの全てがあります」とすごい事を言いました。新井さんも一緒に行ってみてどうでしたか?
新井:
こうやって人って関わることでみんな変わっていって輝くんだと思いました。一人一人が個性があってすごく素敵ですね。見た目も中身も。
大久保:
3時間くらい話をしましたがインパクトが強いんです。どうすればいいのか悩んでいる時に本を読んで「ありがとう」って10万回言えば家族は幸せになれるのかと、書いてあることを実行しました。
畑にでかけては作物にありがとうと声をかけ、雑草も虫も殺さず自然のままの生命力があふれる畑を作りました。結果的に作物がとれる量は1/10になったんです。でも、農協に出荷したものがいつまでたっても腐らない、痛まないという事でどんな肥料、薬品を使っているんだと問い合わせが来たそうです。
タカちゃんは生命力が強いからそんなもんだろと思っていたそうですが、「何を使ってるんだ。教えろ。」と周りがうるさい。更には「教えてくれるまで帰らん。」と家に泊まり込んだ人まで出ました。そこで「ただありがとうと言ってるだけなんだ。」と答えたらその人が 「ありがとう農法」かと言いました。
ありがとうと話しかけることで作物が変わると聞いても違和感がなかったんです。それは沖縄でさとうきびつくってるおじいちゃんにうちの畑のさとうきびは声をかけながら作ってるから腐らないんだ。隣の畑は声をかけてないから作物がよくないのさと話しているのを聞いていたからです。
自然農法で草の中に作物があるというのでは「ホームレスから農業」という小島さんがいます。草がたくさん生えると虫がきてバクテリアがたくさんあるんです。豊かで取り合わない畑で育った作物は美味しさが違います。特にごぼうが美味しいんです。
アイスシェルターも自然を生かしてますよね。究極のエコです。父親が借金して4700万円かかって作ったものでしたが、見事に活用しています。
ありがとう会員(年間個人会員)の紹介
新井:
財務状況もドラマチックだったんです。最初に会った時こっちが余命ゼロだなと思いました・・・。2回目の訪問はこれは仕事では行けないなと連休を取って自費で行きました。
2泊3日でその時に考えたのが「ありがとう会員」というメンバーシップ制度です。
村上:
1回目は空港で30分会っただけなのに、2回目は新井さんを走って迎えに行ったらあからさまに怒っているんです。ヤバイ・・・と思いました。
新しい農家の仕組みを目指すといいながら草取りばっかりしてていいの?と2時間くらい怒られました。言葉はそれほど無かったんですがものすごく刺さったんです。
「厳しい事を言う事になるけれど、この状況をどうにかしたいなら明日は仕事の話をします。聞くか聞かないかは村上さん次第です。」と言われ、覚悟を決めろってことですねと私も察しました。スタッフと幸せになりたいので「明日は仕事の話をお願いします。」と言いました。
新井:
生き残るにはこれしかないと思いました。
大久保:
来年佐々木ファームを訪問するツアーを2回やりますが、ありがとうメンバーになるのが条件です。
新井:
こうしないと回らないんです。そもそもどうなるかわからない作物に対して安定的に前払いで買ってもらうしかない。
大久保:
100名いるとなんとか回って300名いるとステージが変わるそうです。
新井:
連休を使って考えた制度なので皆さんも是非お願いします。僕の想いがわかると思います。佐々木ファームは鎌倉投信が支援できる状況ではないんです。
株主になった気分で応援してくれるお金があればそれだけでバランスがとれ、未来に向けて動き出すことができます。
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