7月9日にNPO法人いい会社をふやしましょう主催のいい会社の理念経営塾の第二回に行ってきました。TESSEIの矢部さんはJR東日本の新幹線の掃除で感動的なサービスを提供するように組織を変えた方です。徹底的なボトムアップにこだわりを持ち、偉ぶらず現場の意見を吸い上げる姿に徐々に変わっていったんだと思いました。小さな成功を経験してもらうことで従業員満足度を上げるというのはエー・ピーカンパニーにも通じるものがありますね。
いい会社の理念経営塾
組織を動かす”ふつう”の人たち
日時:2014年7月9日(水) 19:00〜21:00
場所:3×3 Labo
講師:株式会社JR東日本テクノハート TESSEI顧問 矢部輝夫氏
江口(NPO法人いい会社をふやしましょう):
TESSEIはハーバードビジネススクールのケースになることの価値とはなんでしょう?
ケースとは通常、教授が教えたいフレームワークや理論が実践的に伝わるようにわかりやすくインパクトがあるものが選ばれます。
もうひとつあるのがよくわからない、分析がまだ進んでいないというケースです
TESSEIは後者にあたります。
なぜ掃除をやりながらいきいきできるのか?万人が見て素晴らしいのでこれをケースとして残そうとし、これから研究やディスカッションがされていくのです。
今日は皆さんでぜひ考えてみて欲しいと思います。
後半は大久保寛司さんのファシリテーションで進めます。
矢部(JR東日本テクノハート):
この本の売り上げの一部は東日本大震災で被災した子供たちを東京ディズニーランドに招待する活動に寄付しています。よかったら皆さんもご協力ください。
先ほど紹介がありましたので最初にハーバードビジネススクールのケースになった事にとついてお話します。
TESSEIは必修科目になったわけですがこれまで日本の会社で必修になったのはJALと楽天でした。日本で3番目の会社が掃除の会社だったわけです。
なぜか?というのをいろいろ聞いてみるとリーマンショックの時にハーバードビジネススクールが「欲深な投資家を作ったのはお前らのせいだと」世の中から批判を浴びたこともあり社会性のある会社もケースに入れるようになったようです。
ハーバードビジネススクールの100周年記念講演でこんな話がありました。
あなたは何をしているの?
Aさん「私は石切職人です。」
Bさん「私は石を上手に切ることができます。」
Cさん「私は大聖堂を建てる為に石切をしています。」
こういう話です。
これからは社会的貢献や低所得者層に対しても考えていかないと世の中ダメだとなった時、TESSEIがあったのです。掃除の会社で世の中では3Kと言われていますが、でもその中で自分の役割や意義をみつけてイキイキと働いていたのでモデルケースになりました。
週刊ポストで「働く誇り」新幹線お掃除のおばちゃんに見習えと書かれていたのですごいね!とおばちゃんに記事を見せたら「何考えてるの?おばちゃんじゃないわよ」と言われました。「私たちは孫もいるしおばあちゃんなの」と。
ハーバードのケースになったよと言っても「どこの生命保険会社?」と言われました。
TESSEIはCNNでも紹介されました。
Tokyo's seven minute miracle - CNN.com Video
seven minute miracleと呼ばれていてカリフォルニア州知事だったシュワルツェネガーや、フランス国鉄も視察に来て掃除のおばちゃんを輸出してくれと言われたそうです。本社の人にそんな事を言われてもおばちゃん達は「イカの手が8本でタコの手は10本くらいしかフランス語を話せないと思う」と答えたらそれっきりになりましたが。
JR東日本ではE系と呼ばれる新幹線が走っていて一番速いのは時速320km/hで走っています。プロ野球のピッチャーが頑張って投げても150km/hくらいなので、その倍の速度で皆さんが飛んでくるわけです。
TESSEIは今社員8500人、パート化率が42%です。
以前はもっとパート化率も高く、入ってから1年未満のパートが多かったので、これではダメだ、経験者を戻そうとしました。本社(JR東日本)からはそんな事をしたらコストが上がってしまう、コスト削減の中そんな事をしてはダメだと言われました。
彼らは人をコストと思っていたのですが、人は大事な資産です。
人をコストと思っているとダメになります。私たちはバリューを生み出す人だと思っています。
昔の経営者は従業員をコストとは言っていませんでした。一時的に合理化で社外に出しても時間がたったら帰してもらっていました。それがアメリカ流に人をコストと考えるようになってめちゃくちゃになりました。
私たちは新幹線専門の清掃会社です。9年前はJRからの受託業務を淡々とこなせばいいと考える会社でした。
東京駅は1日1400万人がJRを利用していて、仮に一人が10円を落としても1.4億円になるくらいの利用者数なんです。そういう中でやっていくには親会社から上意下達の会社でないとできないと思われていました。
つまりスタッフの想いが伝わらない会社だったのです。
遠藤功さんがおもてなし創造会社へチャレンジしていると話していました。TESSEIも経済産業省のおもてなし経営企業選の一社に選ばれました。
7 minute miracleと言われていますが、礼にこだわり続けています。
スタッフのアイデアや想いををお客様へ届けるようにしていますが、なぜこうなったのでしょう。人間が7~8年で変わるものでしょうか?
2500年前に書かれた論語があります。素晴らしい考えをまとめた本ですが今でも通用するという事は人間はそんなに変わらないという事です。
なぜTESSEIが変わったかというとTESSEIの本社、マネジメントが変ったからです。本社の存在価値は管理ではありません。マネジメントを管理と呼ぶのでしょう?本社の存在価値には組織を動かすことにあります。(もちろん存在価値の一つに管理があります)
マニュアル(指導書)、マニキュア(指)、家内制手工業(マニファクチャ)手にまつわる言葉は色々ありますが、あそこに向かって行こうと指し示すのがマネージメントです。おもてなしも裏表なく、裏がないから表なしなんです。
TESSEIが抱き続けた七つの希い(おもい)
先ほど石切り職人の話をしました。かつてTESSEIは自分たちの会社を清掃業だと思っていました。でも、何かが違うはずだと考え、サービス業だと考えるようになりました。
例えば自動車のディーラーも自動車を売った後のサービスはサービス業と言えますし、コンピュータシステムもサービス業だと思います。そう考えるといろんなものは全部サービス産業だと言えそうです。
CS(お客様満足)を目指そうとしていましたができていませんでした。なぜならキャンペーンだったから
ES(従業員満足)これを忘れていたから出来ていなかったのです。
今ではESを重視しています。他の会社の人と話しているとESと聞いてひくところがあります。給料をよくしないと、社員を甘やかすのでは・・・といったイメージを持たれるようですがそれは違います。
スタッフが自分の仕事、役割に意義を見出してイキイキとすることが従業員満足です。
おもてなし創造部と聞いてみなさんこんなのかなってイメージがあると思います。
現場ではお客様に第一線の人がおもてなしをしていますが、私たちはスタッフをおもてなししています。
社内に褒める、認め合う文化を根付かせたいと考え、最初はどんちゃん騒ぎ部とも考えていましたが、社外の人と会う時にどんちゃん騒ぎ部では何をしているのかわかりにくいのでおもてなし創造部になりました。
おばちゃん達はESと聞いて「なんか新しい細胞つくるの?」って言っていました。
サービス業と言っても何をサービスするのでしょう?私たちがサービスするものは思い出です。同じことをおもてなし企業選で選ばれた都田建設でも言っていました。
ただサービスをしていたのでは一方通行なのでお客様第一でESを忘れてしまいます。
そこで、TESSEIを通じてお客様も一緒にEnjoy (限りなくあなたとともに)
リッツカールトンはお客様がすばらしく、選ばれたお客様ですし、東京ディズニーランドもお客様は非日常を楽しみに行く場です。私たちは日常の世界であり、非日常的なものではいけません。
そこでお客様と私たちがシーンを共有し、素晴らしいものを一緒に作っていくという意味で新幹線劇場と名付けました。
スマイルTESSEIという冊子には「さわやか あんしん あったか」と書かれています。気付かれる前に話しますが全日空のパクリです(笑)
全日空は「あんしん あったか あかるく元気」でしたがおばちゃん達は明るく元気は文句なかったのであかるく元気をさわやかに変えました。
・さわやか
自分の家に友達が来るとみんなきれいに掃除すると思います。
お客様はちょっとしたキズをちゃんとみているからです。
5Sについても少しお話します。整理とはいるもの、いらないものを分類し、いらないものを捨てることです整頓とはいるものをすぐに使えるように並べることです。
役に立たない物をいつまでもやろうとするのではなく、いらないものを捨てました。
・安心
新幹線輸送の安全を担うためにはきびきびとした行動が必要です。
・あったか
多くのお客様との出会いをあったかな思い出にしたいと思います。
思い出というものはその人、一人だけのものなのです。
とは言っても・・・なかなかいうことを聞いてくれないのでコメットさんというスーパーバイザーを任命しました。ほうき星なのでほうきを持っている姿です。
困ったお客様の前に彗星のように現れ、彗星のように去って行きます。
680名のスタッフを教育しようと最初の14名に対して徹底的に教育をしましたが、制服を変えたとたんに変わりました。
赤い制服だったので「私の事を還暦だと思って・・・」なんておばちゃんに言われましたが「目立つからいいよ!」と話してやってもらいました。そのあと、だんだんお客様から素晴らしいですね!と言われて変ってきたのです。
安全の世界にハインリッヒの法則というものがあります。大きな事故が1個の後ろには29の小さな事故と300の小さな事象があるというもので300をつぶさないといけないのです。実際にはありえないんだけど・・・。
TESSEIではこれの逆をやりました。1の成功を目指すには300の小さなことをしていけばできるというものです。
改革を目指してもよく挫折してしまうのは上から下にやろうとするからです。上からではなく小さな事の積み重ねをすることにより物事が成し遂げられます。これをハインリッヒの逆法則と呼んでいます。
最高のおもてなしはなにか?というと早くて正確で完璧な社内整備です。
おもてなしが笑顔やマナーの上っ面になっていないでしょうか?
滝川クリステルのお・も・て・な・し、あれでおもてなしは上っ面だけになりました。ああはなりたくないと思います。
我々は日常の空間でおもてなしをします。
例えば新幹線は到着から次の発車まで12分しかホームにいられません。降車に2分、乗車に3分だとすると残りは7分です。でも実際は5分で掃除をしています。
1,000人近いお客様がさっと降りてさっと乗るなんて日本国民はすごいと思いませんか?だから日本でやれるのかもしれません。
新幹線が到着するのを整列して待ち、出口ではごみを受け取ったりお子さんや高齢者などの降車をサポートします。車内の清掃はトイレ清掃チームと座席の清掃で別チームになっていて座席は1両あたり100席を一人で行います。
CNNのニュースでは撮影用に2名でやりましたが、あれは何かあって運行に支障が出ては困るので特別です。あくまでも実際の現場での収録だったので問題があってはいけません。年間12万座席の清掃を行っていますがクレームは5~6件ほどです。昨年は9件ありました。発車が遅れた場合はJRから指示が出ます。
清掃の仕方も当初は汚れたところを拭けばいいというものでした。
どうやって汚れているかわかるの?と聞いたらテーブルを全部開けて確認してますと言われたので「開けたら拭けよ」と言いました。それでは運行が遅れると思っていたからそうしていたようですが、一人のインストラクターがそれには挑戦したことがないのでやってみようと言ってくれました。
そうして実際にやってみるとできたのです!
改革の進まない理由
・わからない
・面倒くさい
・リスクをともなう
★あのひとがいうからやりたくない
やってみようとインストラクターが思ってくれたからやってくれたのです。
東京駅チームは22名で管理者を作り、主任、CA、スタッフと続きます。主任は検査官の立場で厳しく確認しています。規律はとても大切です。インストラクターが全体を見て指令を出しますが、厳しさと規律からおもてなしは生まれます。
日本の美徳として礼を大切にしていて車両到着時には15度の礼をしています。
これは安全のためでもあり、駅だけではなく車両基地でもやっています。そうする前は車両到着時にも私語をしたりよそ見をしていたりしていました。
今ではみんながしていますが、それは自分たちの技術に誇りができたからです。
ただ「礼をしろ」「マナーをよくしろ」ではできません。熟練の技術と誇りを持つことで自ら改善を進めるようになるのです。
改善はトップダウンで始まり、ボトムアップで完成します。リーダーの真摯さ、真剣さ、本気、想い、熱意が伝わると現場が変わります。
私も最初TESSEIに来たとき、やべさんなんかやらかしたんでしょと言われ、どうせ何年かたったらいなくなると思われていました。これではいけないと本気で取り組み、本社は何もしない、建設的な提案に対してもNoだったを変えました。今では建設的な改善は受けいれ、不平不満にはNoと言っています。
一流の実行力を持とう。二流、三流の戦略でもいいという事です。
提案は年間5000件あります。提案がきたらそれに返事が必要なので所長に褒める費用も先に渡しています。
提案の中では例えばごみ袋が厚すぎるというものがありました。そこで65ミクロンから45ミクロンに薄くしました。わずかな差ですが年間120万枚のごみ袋を使うので何千万ものコストダウンになります。
他にもモップはきたないのでやめたり、今年も7月1日からアロハ軍団になっています。
アロハを着たいと言われたので一応本社に言おうとしたら「言ったらだめって言われるから」とおばちゃんに止められました。そこでJRにも黙ってアロハで清掃をしたらJRもお客様もびっくりしていました。でも、Twitterで20万件もつぶやかれたりするのを見ておばちゃん達も喜んでくれました。
今度はクリスマスもやりたいというのでいいよと言ったらサンタが登場したり、他には浴衣もあります。Enjoy with TESSEIなんです。
ちいさな鳥「ちりとり」というキャラクターも作ってステッカーを用意しました。
これを子どもにあげたりしています。
サイレントカスタマーの代弁者としてベビー休憩室をJRに要望し、実現されたら自たちがつくってもらったからと飾り付けまでしてくれています。
チームワークのサービス
実践行動
教育・訓練
ルール・行動指針 ここでなぜできなかったか考える必要があります
仕事への改善力
会社へのアクティブな参画意識
働く喜び
認め合う文化
100-1=0になります。
99の人は一生懸命やっているのにみんなが怒られてしまいます。
そこで99の人に光をあてるエンジェルレポーターという良いと思ったことをリポートする制度を導入しました。よく褒められた人を表彰したのです。
多くの人が地道にコツコツやってるのに褒めないわけにはいきません。
みんなが褒められるようにノリ語集という人をノリノリにさせる言葉集を作りました。
かっこいい言葉でいうとうちの会社はダイバーシティな会社なので「ノリません語集」デビルノートも作られました。
おばちゃん達の身内にすごい人達がいるのでどんどんこういったアイデアが具現化されていきます。
その一言で励まされ 夢を持ち 腹が立ち がっかりし 泣かされる
99 のあたたかさ
-1 の厳しさ
会社が認める、仲間が認める、社会が認める公平な評価を心がけています。
皆さんがすごいねと言うと「変なことはできないね」とおばちゃんが思うようになりました。
小さな成功体験の積み重ねが大きな成功になったのです。
恐育 凶育など悪い意味のきょういくという言葉から「気づき 共感 共創」の共育へ
成功体験をエンジェルレポートで共有するようにしました。
16,000件の成功体験を通じてみんなが認め合う文化が生まれました。
1×100=100×1
一人が引っ張る1×100だと他の人とスキマができてしまいますが100人の人があたりまえのことをする100×1でも同じ力になりますが、こちらだと1人あたりの力を5にするだけで大きな力にすることができます。
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