いい投資探検日誌(from 八女)

しあわせをふやす いいお金の使い方を考えています。サステナブル投資家。2017年に新所沢から八女に移住しました。週末は一口馬主を楽しんでます。

社会的価値に注目が集まりつつある中、八女の里山資本をどのように生かすか? 藻谷浩介さん×新井和宏さん×竹本吉輝さんによる里山対談

10月30日に八女文化会館で開催された里山対談の後半をレポートします。

里山対談 〜本当の豊かさとは何か〜
対談:藻谷浩介さん(日本総合研究所調査部 主席研究員)
   新井和宏さん(鎌倉投信 取締役 資産運用部長)
   竹本吉輝さん(トビムシ 代表取締役)
場所:八女文化会館

新井さんと藻谷さんが激しく化学反応する様子を目の当たりにした対談でした。珍しく新井さんが一般の方には難しい言葉を連発して藻谷さんが翻訳するという格好になるくらい、素で盛り上がっているのが伝わりました。

藻谷さんには是非とも鎌倉投信の受益者総会で講演をしてもらって、あの独特な空気を感じてみて欲しいなと思いました。対談込みでNPO法人いい会社をふやしましょうっていうのも捨てがたいところです。

とにかく、行き過ぎた資本主義に気づき始めた会社や人が行動を起こし始めていて、里山資本を有効活用するというのもやり方次第ではこれから面白そうだというメッセージは八女の方にも届いたのではないでしょうか。

数字を先に見ない 

新井(鎌倉投信):
鎌倉投信の新井です。
トビムシは鎌倉投信の投資先ですが、他にも「いい会社をふやしましょう」を唱えながら障害者雇用に積極的だったり、ニート・フリーターを雇用したり、耕作放棄地をレンタル菜園にしている会社、途上国で雇用を生み出している会社などに投資しています。

竹本(トビムシ):
鎌倉投信では様々な会社に投資していますが、投資をする際に企業のPL(損益計算書)を見て投資するかどうか判断をしていません。

それは数字を見ないわけではなく、どこを見ているかというと、社会に必要とされているかどうかを見ています。日本の未来に必要とされるであろう会社に100年投資し続けるということをしているからです。

地域活性化とはなにか?
藻谷さんは人口を減らさない事とおっしゃいました。

短期的にどうするかという事について、いかに財政を良くするかという観点からの話ではなく、現実に起こっている事を可視化してくださいました。

新井さんは企業に投資していますが、どんな会社がいい会社なのか、必要とされる会社なのか、その観点で話していただけますか?

新井:
今日は藻谷さんに会うのを楽しみにしていました。先ほど竹本さんが数字を確認しないと言いましたが、見ないわけでなく、先に見ないようにしているんです。

順番が大事です。順番を間違えるからおかしくなるんです。

藻谷(日本総合研究所):
銀行に22年いて融資している人は能力が無いと思ってましたが、数字を先に見ちゃいけないというのは私もそう思っていました。事前に調べることで先入観を持たず、まず先に人に会うことにしています。

ご飯屋も口コミなどは見ないようにしてまず行きます。仕事柄全国の市町村に足を運んで、実際に訪れた自分なりの印象を持つようにしています。

その中でどれが自分の実感と合う数字か調べたところ、人口はだんだん実感とずれてきているのを感じました。今は15〜64歳の人口が比較的自分の実感に合うので使っています。

元気だと思って見ると(実際は若者世代が減少し、65歳以上が急増しているにも関わらず)福岡は元気に見えてしまいます。数字で見ることで実感に立体感が出てきます。

新井:
数字と実態と両方見ないといけません。

竹本さんが最初に鎌倉投信に来たとき、5時間一緒に話しましたが事業計画は一切見ませんでした。それもこちらから事業計画を見たいと言ったのではなく、竹本さんの方から「そろそろ事業計画は・・・」と言われたので私たちは事業計画は見ませんと言いました。

竹本:
事業計画を持って行ったのにいつまでたっても見ないので不安になって「事業計画がありますがどうですか?」と聞きました。

新井:
事業計画は絵に描いた餅です。

書くことが大事で、組み立てることができれば合格といえます。中身については言ってみれば皮算用で、実現できるかは神様しか知らないことです。

旦那さんと呼ばれる人たちは事業計画を見ません。東証一部上場のある企業のオーナーは人を見て投資を決めるとおっしゃってました。

世の中が社会的価値を組み入れる会社を選び始めた

竹本:
新井さんは以前外資系金融機関で国内最大の金額を運用していたことがあるんです。

鎌倉投信は2013年に日本株に投資する投資信託約400本において過去3年平均のパフォーマンス(リターンをリスク(ぶれ幅)で割ったリスク当たりのリターン)がトップになりました。2014年は2位でした。

新井:
投資家には先入観があって、林業とかに投資しても儲からないと思われています。

うちの投資先には社会起業家が多いのですが、それでなぜ1位をとれるかというと世の中にはサバイバルバイアスがあるからです。生存できる要素を持っている企業にだけ投資します。

世の中には儲けようと思う株主と辛くなるとお金を出す株主がいます。残るのはどちらの会社でしょうか。辛くなるとお金を出してくれる株主がいる会社は生き残るとわかっててやってるのが鎌倉投信のズルい仕組みです。

藻谷:
新井さんもマネーゲーマーだったわけですね。
そのマネーゲーマーがやってもこっちの方が儲かると。

新井:
長く続くためにはそういうことをした方がいいんです。
マネーゲームでは長期的には生き残れません。

藻谷:
世の中に必要ない人は生き残れないという事ですね。

福岡は無駄に大きくなりすぎました。ある種のサバイバルバイアスといえるでしょう。
都市部はお年寄りだけ増えているのですが、山にこそ生活に必要なものがあります。
そういうところに若者が来た方がよくなる。それと同じことを社会的に感じますね。

新井:
同時進行的に世界で起こっています。今までの資本主義が行き過ぎて見通しが立たなくなってきました。方法論が良くなかったので変えないといけないとなっています。

具体的にはヤマト運輸(ヤマトホールディングス)も私たちの投資先です。

藻谷:
竹本さん(トビムシ)とクロネコヤマトのヤマト運輸が同列!

新井:
ヤマトさんでは震災の時に純利益の4割にあたる142億円を被災地に寄付したんです。

藻谷:
え!純利益ですよね?

新井:
純利益の4割です。他社は株主代表訴訟などを恐れて赤十字など当たり障りのないところに寄付しますが、ヤマトは違いました。

藻谷:
ヤマト運輸は上場企業ですよね?

新井:
上場企業です。アメリカの世界的に有名な機関投資家がこう言ったそうです。
「この素晴らしい考え方に反対する奴がいたら俺は業界からそいつを締め出す。」
時代は変わったなと思います。

藻谷:
良心的に言ったわけじゃないですよね。

新井:
純利益の4割も被災地に寄付した結果、ヤマト運輸のブランド価値が1位になりました。

今はどこで荷物を出してもサービスはほぼ一緒です。そんな中、自分が荷物を出すなら被災地に寄付してくれるヤマトを選ぶというお客様が増えたんです。

世の中は社会的価値を組み入れる会社を選び始めています。

藻谷:
そういう人もいるという事ですね。

持続的に少しずつ成長する年輪経営

新井:
バランスを変えちゃいけないんです。そこで、どうバランスを取るか考え始めています。

トヨタ自動車も花王も利益は踊り場で良いと言い始めました。これは本当に大きな話で、トヨタ自動車が伊那食品工業に年輪経営を学びに行っているんです。

私も今年伊那食品工業へ行きましたが100人の工場で10人が産休しています。
社員が幸せだから子だくさんなんです。いい会社は出生率でわかると思いました。

竹本:
保育所を作って欲しいという社員からの要望に対して休むときは休んで戻ってくればいいという考え方をおっしゃっていました。

伊那食品の会長としては3年は子供の側にいてほしいという事で3年間休職しても食べていけるように制度を考えるそうです。

藻谷:
復職しても不利がなければいいのですが・・・。

新井:
伊那食品には役職に関心のある社員がそもそもいないんです。
ああいう先輩になりたいという人たちばかりです。

藻谷:
部活動みたいな会社ですね。

新井:
先輩に対して尊敬の念しかないんです。
組織上役職はありますが、先輩を尊敬しているので縦に数珠つなぎになっています。

藻谷:
とてもマネーゲーマーが話しているとは思えない内容です。

竹本:
伊那食品では社食なども地消地産していました。
雇用も含めて地域への貢献が徹底されています。

新井:
こういうところに地域への見方が明確に出るんです。財務諸表を見るよりいいですし、地域から愛される企業です。

ブラック企業、ホワイト企業と言いますが実はあまり差はありません。働いている社員の仕事量はそんなに変わりがないのです。自主的に働きたくなるのか無理矢理働かされているのか。その違いです。

いかに社員にアウトプットさせるかが大事で、定時の勤務時間内は徹底的にそれをやっている会社があります。

私たちが投資している未来工業という上場企業は年間休日が140日もあります。そこでは残業するなら金払えと経営者が言っているんです。岐阜羽島にある製造業で年収が700万円と地域の中でも高い給料を払っています。

残業は割増賃金になるのでやりたくないというのが経営の考えです。とにかくケチなんです。社員が700人いるのにコピー機はたったの1台です。

最初はみんなコピー機の前に並んでいました。そこに社長が来て、並んでまでコピーは必要なのかと言い続けました。今は誰もコピー機に並ばなくなりました。なんとなく必要かもしれないからコピーしていたんです。

どケチだけど、その分社員には優しい会社です。ちなみに社員旅行の予算は1億です。

藻谷:
それは円ですか?

新井:
1億円です。その予算を震災の年には社員が被災地に寄付しちゃったんです、社員旅行のお金を。経営には社員から後で報告をしていて、それはしっかり権限委譲されているという事です。

藻谷:
その会社は何をしている会社ですか?

新井:
スイッチボックスというコンセントの裏側にあるボックスを作っています。

藻谷:
名前は未来ですが、作っているものは未来的ではないんですね。

木材のブランド化

藻谷:
ところで森林組合にはそういういい会社は無いんですかね?

竹本:
権限委譲で改革しているところが世の中に10カ所くらいでしょうか・・・

新井:
一次産業の中で最も難しいのが林業です。みんな食べないから関心がないんです。
食に関してはどこどこ産というのは気にしますが、柱の木はどこ産でもどうでもいいんです。

竹本:
エンドユーザーが気にしているかどうかという話ですよね。
木曽檜などブランド銘木はありますが、あれも業者の人が気にしているのであってエンドユーザーは気にしていません。

藻谷:
気にして欲しいんだけどね。役場は気にするけど。

南小国の庁舎は地場産の木で作っています。地域的に橙色の杉なので中に入るとオレンジ色で落ち着かないんですが(笑)

岩手県の住田町は同じ杉の庁舎でも白っぽくて落ち着きますね。

竹本:
食品と比較するとどうしても少ないですね。気にする人もいるにはいますが流通サイドの人が多いです。せっかくエンドユーザーが気にしても、どこの木も一緒ですから安い方にしましょうって販売サイドがせっかくの芽を摘むという・・・

八女の里山資本的営み

竹本:
新井さんから産業の視点が変わっているという話がありましたが、八女だったら里山資本主義的な営みはどんなものがあるでしょうか?

藻谷:
八女は都会に近くて西日本文化圏にありますね。

北九州文化は大阪に近いと思います。一円でも安くが好きで自分のところのものは都会に売ってなんぼだという意識が強い地域です。博多万能ネギも自分たちが食べるより都会で売るのに一生懸命です。

地元に来ないと食べられないようにしないと大阪みたいになってしまいます。大阪は人口も多いけれども阪神球団的な町です。1回しか日本一になってないし、とにかく甲子園にお客さんさえ入ってくれればいいという考え方だから自力がつかないんです。

そして粉もん文化だとたこ焼きやお好み焼きがありますが、小麦粉はオーストラリア製、タコはアフリカからの輸入物、挙げ句の果てにはソースは広島のオタフクソースです。

とにかく安くたくさん売った方が勝ちという価値観で、余所で売ってなんぼなんです。
そんな大阪は100年で現役世代がいなくなる計算です。

本当にいいものは地元へ。そうした方が人口は減らないんです。

竹本:
新井さんと奥会津に行った時にこの木を東京になんとか売ってくれとお願いされました。地元の人はこの木を使ってるんですかと聞いたら使っていないんです。そこら中に木があるのに地元の人は九州産の木を使っていました。

てっきり地元でも使っているけれども地元だけでは規模が小さいから東京でも売って欲しいという話だと思ったら地元が地元の材を使っていなかったんです。

藻谷:
地元では誰も呑まない地酒を東京で売るみたいな話ですね。
余所に売ることが優先で地元で使わないっていうのは。

竹本:
山主側にお金を返せて物質的に循環していない可能性があるということですね。
新井さんはどうでしょうか?

新井:
構造的な問題が世界全体で言われていますが、実は限界が来ているのはなんとなくみんなわかっているんです。それなのにストックを増やすためにフローを増やそうとしているのが現実です。寿命を短くしたり戦争を起こして欲しいとかそういう経済に限界が来ています。

これまでは社会資本(ソーシャルストック)を動かしてなんとかもたせていましたが、20年くらいかけて数値化も含めてストックを増やしていこうという風に流れが変わろうとしています。

長く使えるものに価値があるようになると八女が面白いと思います。そういう文化を作っていって欲しいです。

大量生産大量消費モデルはいずれ衰退していきます。これまでは産業を育てず、あるところから詐取してきました。例えば中国が赤珊瑚を密漁すると問題視しましたが、もともと日本も赤珊瑚を取っていたのです。でも、日本が赤珊瑚を間引くのは社会が受け入れていました。

森の話で言うと間伐するのはいいけれども皆伐まですると社会的に否定されるようになっていくのではないかと思います。八女はソーシャルストックが豊かな地域だと思います。

藻谷:
翻訳すると「目先のお金を生んでないが本当は役に立ちそうなものはたくさんある」って事です。

新井:
これから先はやり方次第で楽しみです。

藻谷:
「財産はあるが儲けが出るかはわからない。でも目先の儲けを追ってはいけない。」という事ですね。

日本シリーズは目先の勝利のために起用を変える栗山監督的日本ハムがまずは日本一になりましたが、頑固なまでの起用を続ける緒方監督的カープがストックを生かしていずれは日本一になるという事ですね。

そうか、ホークスも二軍で5連覇してるくらいストックはたくさんあるって事になりますね。

竹本:
長く続いていくものに光を当てたいと思います。木で言えば檜は切ってから120年後に一番強度が強くなるんです。つまり、切ってから120年間価値は上がり続けるんです。年々価値が下がる減価償却的な価値ではないという事です。

30年で使えなくなる家と気候に合わせた100年持つ丁寧な家を比較すると、時間をかけて建てても3世代使えるならそこにレバレッジをかける意味があると思います。

長く使い続けられる素材、生かせる技術があると価値を体現できるのではないでしょうか。経済的にもその方がリーズナブルです。

新井:
全体の人口はここ20~30年は減るのが明らかです。産業構造は変わらないといけません。それがわかった会社は既に変わり始めています。

今は転換期だなと思っています。

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