2月4日(木)、メディア・FP・取引先向けに麻布郵便局の隣にある日本郵便東京支社でセゾン投信の第9期運用報告会が行われました。
セゾン投信中野社長による「セゾン投信のフィデューシャリーと成長戦略」についてレポートします。
【プログラム】
- 日本郵便からの挨拶
- 2015年を振り返って
- セゾン投信のフィデューシャリーと成長戦略
- 第9期運用報告
セゾン投信の考える運用会社としてのフィデューシャリーについてはNEWS LETTER 107号でも書かれていますがセゾン投信の骨子になりそうですね。
他にも積立比率がここに来て上昇しているのが嬉しいといった話や今後の成長戦略についてのお話もありました。
セゾン投信のフィデューシャリーと成長戦略
セゾン投信代表取締役社長 中野晴啓さん
2015年の振り返り
今年は株主の主体が日本郵便に変わったことを印象づけさせていただこうと麻布郵便局で開催することにしました。2015年は郵便局と一緒に仕事をすることになりました。
おかげさまで大きな伸張ができた1年で、お客様が25,000人以上増えました。これまでの倍以上の伸びで、ビジネスとしての巡航速度があがりました。
しかし、1月になって雰囲気が変わっています。
半減とまではいかないものの、1月は1,300人程度の増加に留まりました。
理由はマイナンバーだと思います。
資料請求自体は4,000件といつもより多いくらいだったのですが、口座開設時にマイナンバーを届ける必要が出たことで明らかに申し込みする人が減っています。
これは一時的なものなのか、業界全体に負担がくるのか、口座開設したお客様からも急に書類が増えて嫌になったとも言われました。
行政不況になりかねない問題ですのでメディア関連の方はぜひ取材して欲しいと思います。
お客様数で独立系最大手を目指して
セゾン投信は昨年、お客様が10万人を超えました。
これは創業以来の夢が実現した一年で、こうなると次に見えてくるのは独立系最大手のさわかみ投信です。
さわかみ投信は現在お客様が約12万人ですので、今年はここにキャッチアップできるのではと思い、今年の目標にしました。
さわかみ投信を超えて恩人でもある澤上さんによくやったなと言われたいと思います。
セゾン投信は積立比率が増えている
セゾン投信ではジワリと積立比率が増えています。
積立のお客様の比率が高い直販全体としても設立から年を経ることで積立比率が徐々に減っていく傾向があります。
セゾン投信もご多分に漏れず積立比率は徐々に下がっていたのですが、ここにきてお客様の支持が積立に変わってきました。
自称つみたて王子としてこれほど嬉しいことはありません。
長期で積立でと言えば「セゾン投信」、あるいは「セゾン投信」といえば積立といえるのではないでしょうか。
2015年は積立投資のお客様は70%弱まで増えました。
フィデューシャリー宣言
8月26日付けで行ったフィデューシャリー宣言は2015年に行った最大の経営判断の一つです。
フィデューシャリー・デューティーは金融庁が打ち出した金融制度改革の流れの大きな部分を占めているもので、大きく分けて銀行、資本市場改革、資産運用改革の3つの大きな柱の一つです。
- 銀行
業界への改革、地銀の再編、リスクマネーの創造を求めています - 資本市場改革
伊藤レポート、コーポレートガバナンスコード、スチュワードシップ・コードROEがどこまで欧米に近い水準になり、海外投資家への存在感を後押し - 資産運用改革
資産運用のコード化(投資信託が中心)
金融制度改革では成長マネーを日本市場にどうやって創出していくかがテーマになっています。生活者の持つ預貯金900兆円がターゲットになっているのですが、セゾン投信も金融庁から真面目に注目をもって議論させてもらいました。
金融業界を浄化していくことについて2016年が山場になるであろうと感じており、そういう前提で宣言しました。
すぐに出来る確信もありましたが、フィデューシャリー宣言は投信業界では一番で、セゾン投信への期待と評価をいただけるようになりました。
骨子は端的にいうと金融行政の大転換です。
これまではもっぱらルール主義で指導・監督するのが行政の在り方だったのですが、そうすると必ず合法的に抜けようとする人達が現れます。
金商法改正で膾を吹いた過去もあります。
金融制度改革は原理原則主義へ監督行政が転換したことを表していて、今後は自ら導いて自らうたうことを求められているのです。
日本の多くの運用会社がフィデューシャリー宣言を出さざるを得なくなるだろうと思います。
「フィデューシャリー・デューティ」は「受託者責任」と訳されますが「顧客への忠実義務」を表しています。
言うのは簡単ですが深い言葉で、言うなれば医者や弁護士と同様のものが求められているという事です。
医者や弁護士は全てお任せされるので全身全霊でお客様のために行動します。
本当に100%お客様のために全知全能をつぎこむのです。
セゾン投信では長期投資にのみプロフェッショナルを傾注させます。
お客様との利益相反を徹底的に排除し、100%お客様のために存在します。
そこで出てくるのが報酬の合理性ですが、ゼロにしてしまっては私たちの持続性が失われてしまいます。
そこでお客様の幸せを実現するための最低限の報酬を合理性をもって明確にします。
簡単に言うと余分なお金はピンハネしないという事です。
どういう形で遵守していくか、ちゃんと組織として実行されているのかモニタリングするように準備を進めていて、今後皆様に開示していきます。
長期継続的に信託報酬を下げていきます
利益の余裕のある分は投資家に還元することとし、信託報酬を長期継続的に下げていくようにします。
昨年はセゾン・バンガード・グローバルバランスファンドのコストを0.05%下げました。
これは残念ながら私たちの利益からではなく、組入先のバンガードのインデックスファンドの報酬削減分を100%お客様に還元したものです。
セゾン投信の利益からも報酬を下げるのを求められることもありますが、セゾン投信が購入しているアイルランド籍のファンドを運用しているバンガードのインターナショナル部門は黙っていたら絶対下げてくれません。
私たちは資産も増えてきたからとバンガードのインターナショナル部門と報酬率の逓減についてハードネゴシエーションした結果、「テーブル(価格表)に沿って変えましょう」とようやくテーブルを出してきました。
そうやって報酬の逓減を勝ち取った分は100%お客様に還元しています。私たちの報酬分からではありませんが、専らお客様のためにという第一歩の姿勢をお見せできたのではないかと思います。
また、セゾン投信では販売手数料を全面否定しています。
販売手数料が無ければ資産運用の形は変わるだろうと考えていて、小さな会社ではありますがそこは自己主張を強く打ち出しました。
第二ステージに入ったセゾン投信
2016年からの成長戦略についてお話します。
セゾン投信は第二ステージに立ったと思います。
今後、真に日本を代表する独立系投信会社としてどういう行動をとっていくか、これまで直販スタイルを美徳として貫いてここまで成長してきました。
それは一本足打法(亜流)であり遠回りした方法でもありました。
しかし、イノベーションのジレンマは早晩訪れるであろうと考えていて、草食投資隊でも一緒に行動しているレオス・キャピタルワークスの藤野さんと話しているのは純資産額3,000億円が行き着くところなんだろうねという事です。
さわかみ投信も3,000億円で止まりましたし、業界最大のフィデリティ日本成長株ファンドも3,000億円で止まりました。
セゾン投信もそこで踊り場になるのではと考えていて次なる成長戦略の必要性を感じています。
郵便局との共同作業もその一つで私たちだけではく日本郵便の価値も一緒に高めていきます。
今年も全国40カ所以上のセミナーが予定されていますがセゾン投信を宣伝するのではなく、生活者にとって最善で正しい長期資産形成を提唱していく内容です。
そうやって行動をジャッキしていく活動として草食投資隊としても郵便局に登壇していきます。
確定拠出年金へのチャレンジ
確定拠出年金制度が変わる見込みですが、セゾン投信としてもなんらかの形でくさびを打ちたいと思います。
個人型確定拠出年金が最終的なメインになると思いますが、先んじてしっかりアクセス出来るようにしたいと考えています。
もちろん企業型ももう一つの柱で選択肢として入っていけるようにしたいです。
昨年星野リゾートからお願いされて企業型確定拠出年金としてセゾン投信の2ファンドを入れました。
期待されたのは既存金融業界がおざなりにしている投資教育です。
ほしのや軽井沢やトマム、八ヶ岳にあるリゾナーレなどで長期投資や自分年金の意味、投資でお金をまわすことの意味を誠実に伝えました。
独立系運用会社の今後
セゾン投信は独立系運用会社で大手運用会社のような既存金融機関の系列ではありません。
大手系列の運用会社に再編の波が来ていますが、今後独立系が伸張していくことが改革のキモになると思っています。
これまで直販投信8社が寄り合いのようにやってきましたがターニングポイントを迎えました。
直販8社によるグループは年初に行った直販投信まつりをもって発展的解消しました。
仲違いした訳ではなく、いつまでも仲良しグループをしている場合ではないという事です。
独立系運用会社の中でもしっかり競争が必要で資産運用の哲学と理念が大手には足りないと考えています。
今後は運用自体の能力と質の両方の向上を研鑽していき、運用クォリティを高めていきます。
セゾン・バンガード・グローバルバランスファンドは最高品質のものを届けるという点にこだわります。コストだけでは大手の低コストインデックスファンドに到底かないませんが、より一層プロダクトに磨きをかけていきます。
セゾン資産形成の達人ファンドは短期的リターンではなく高い効率的運用が続くようにします。
既存運用業界との対比を鮮明にして日本の資産運用業界を拓くべく、セゾン投信は第二ステージを切り拓いていきたいと思います。
既存金融へ挑戦の切符をようやくちょっと手に入れたのではないでしょうか。
長期投資の一般化に真っ当で誠実に取り組みます。
質疑応答
Q.
直販投信仲良しグループの発展的解消とは何でしょうか?
A.
そうした正式な会があったわけではないが直販8社で定期的な情報交換を行っていました。
それを今後はやめようという事です。
背景にはさわかみ投信の澤上さんが形式上引退したという事もあり、自分達の理念を競争的に発展させていくためには一歩離れた方がいいだろうと判断しました。
8社セットでの活動は年初のイベントで最後になります。
例えばレオス・キャピタルワークスは地銀と一緒にひふみプラスの販売をやっていますが、(社長の)藤野さんは販売会社のカルチャーを自分達で変えようとしています。
そこが販売会社にある種諦めを持っているセゾン投信と違う点です。
Q.
郵便局では永遠に販売しないのでしょうか
A.
セゾン投信の価値をとことん守り抜く株主であると日本郵便の高橋社長は言って下さっています。
ただ、私も直販原理主義ではありません。
郵便局での販売もやりたい気持ちはありますが、郵便局のような大きな組織で一気に価値観の共有ができるわけがありません。
郵便局で販売するまでには時間がかかると思います。
私は投信窓販に価値を見出していませんが、ネット販売は郵便局にもあります。
そうした形であれば将来的にあるかもしれません。
Q.
3000億円の壁について質問です。
サイズを追うとパフォーマンスが悪くなるのは私も感じていますが、そもそも規模を追う必要はあるのでしょうか?
A.
中身によると思います。
例えばセゾン・バンガード・GBFはインデックスファンドなので規模が大きくなっても運用は劣化しません。
長期資産形成の一般化の担い手として1兆円ファンドを目指さないとやる意味がないと考えています。
長期投資をコモディティ(一般化商品)にしたいんです。
誰でも当たり前にここから入っていく一般的な安心な商品としてセゾン・バンガードGBFを作りました。
一方アクティブファンドには規模の限界があると考えています。
セゾン資産設計の達人ファンドはグローバルなファンド・オブ・ファンズなので数千億円規模まではいけますが一兆円だとどうでしょうか。
まだまだ先なので気にしていないというのが正直なところです。
Q.
成功報酬には合理性があると思いますがいかがでしょうか?
A.
成功報酬はあってはならないものと思っています。
ヘッジファンドには当たり前にある仕組みですが毎年度の成功報酬めざしてヘッジファンドマネージャーが年末に一発勝負かけることがあります。
成功したら成功報酬が手に入り、失敗したら投資家は損をしますがヘッジファンドは痛みを伴いません。
極めて不健全な仕組みで損した時にある程度の保証がないと50/50ではないだろうと思います。
Q.
三井住友アセットマネジメントのフィデューシャリー・デューティー宣言では期限を区切って進捗を報告したり行動指針を示したりしています。
セゾン投信ではこのような予定はありますか?
A.
いまのところ具体的な指針はありませんがこれから開示していく予定です。
三井住友AMが行動指針や進捗状況について定期的に開示しているのは素晴らしい事だと思います。
私たちも今後の課題として取り組んでいます。
Q.
最初フィデューシャリー宣言を読んでも何を言っているのかさっぱりわかりませんでした。
一般化、定着を目指すならわかりやすい言葉にしてはいかがでしょうか?
A.
私もこんな難しい言葉・・・と思っていますが金融庁がこの言葉を一般化させようとしています。
最近ではフィデューシャリー・デューティーを略して「FD」と呼んでいるようですが、時間をかけてこちら側に誘導しようとしています。
いまのところ業界中心ですが、いずれ一般の人にも広げていきたいと思います。
わかりやすいいい言葉が見つかったら教えて下さい。
Q.
運用会社として経営成績はどこを見るとわかるでしょうか?
郵貯との関係はわかりましたがビジネスパートナーとしてどういう関係なのか業績を見ることでわかるのではないかと思いますし、合理的な報酬体系である裏付けになるのではないかと思います。
A.
EDINETで決算公告を見ることができますが、ホームページ上でももっとわかりやすいところで公開するようにします。(会社情報→財務状況→決算公告)
業績を隠しているわけではなく昨年度はじめて単年度黒字になりました。
今年はもっと行くかと思ったのですが、予想よりもお客様が増えた為イニシャルコストがかかっているのと、マイナンバー、ジュニアNISAといった新しい制度に対応するシステムコストがかかった為、最終的に5~6千万の黒字になる見込みです。
Q.
Fintechへの取り組みはいかがですか?
A.
Fintechと一言でいっても幅広いのですが、資産運用の中でエンジンになるとは思っていません。
マネーフォワードのようなアカウントアグリゲーションサービスなどこれまで無かった分野においては伸びると思いますが運用業界にはコンピューターを使ったクオンツ運用のようなものが20年前から普通にありました。
コンピューターを使った運用は平時にはうまくいくのですが、未来永劫うまくいき続けることはありません。
リーマンショックのような大暴落を迎えるとロボットは全員最後には売りというシグナルを出して終わりを迎えます。
それに対して暴落時に買うのがアクティブ運用です。