いい投資探検日誌(from 八女)

しあわせをふやす いいお金の使い方を考えています。サステナブル投資家。2017年に新所沢から八女に移住しました。週末は一口馬主を楽しんでます。

マイクロファイナンスに対する社会的投資及び 社会的成果モニタリングの現状 〜マイクロファイナンスフォーラム2014レポート(2)

11月16日(日)に開催されたマイクロファイナンスフォーラム2014のレポートを私のメモを元にまとめました。

第二部は埼玉大学教授の辻先生がソーシャルインパクトの測定について話して下さったのですが、大学の先生とは思えないほどぶっちゃけた話しぶりで好感を持ちました。ベルグアースの山口社長のように現場でやっている人の素直な気持ちが表れた講演だったと思います。

 

第二部 マイクロファイナンスに対する社会的投資及び 社会的成果モニタリングの現状

 埼玉大学教授・CGAP取締役会長 辻一人さん

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財務と社会的成果を達成する責任は全ての関係者にある

社会的成果というものがわからないままでマイクロファイナンスやインクルーシブファイナンスとは呼べません。財務と社会的成果を達成することが必須で、できればいいなではそもそも違うとはっきり申し上げます。

主にMFIの責任ではありますが、影響を継続的に与えるには投資を行っている側にも責任があります。例えばLIPやオイコクレジット、株主、投資家すべてにダブルボトムラインを達成する責任があります。

LIPの3度目のファンドの償還パーティに私も出席しましたが、驚いたのは「寄付のつもりだったけどお金がちゃんと戻ってきた。だから現地で有効に使われたんだと思う。」という参加者の声でした。

そんなことはうそだ。ありえない。

会場に『世界は貧困を食いものにしている』を読んだことがある人はいますか?

世界は貧困を食いものにしている

世界は貧困を食いものにしている

 

彼はよくよく運の悪い人だと思うが、あれは起こりえます。ファンドにお金は返ってきたかもしれないけれども、そのお金を使ってMFIがとんでもないことをしている可能性はあります。

LIPが最初にファンドを集めている時にマイクロファイナンスについて講義をしたことがありますが、その時気になったのはお金が集まってファンドができて投資が成立して良かったと言っていたことです。デューデリジェンスは重要で社会面についてもやっていましたが、長らく途上国の援助活動に携わった人からすると先方とのアグリーメントを結んだだけではまだ何も起こっていないわけですから。その後にどのように達成されるのかというモニタリングの方が遙かに大事です。

 

社会的成果の測定について

社会的成果には2つあります。

一つは相手に害意を与えてはいけない。消費者保護。当たり前の話ですね。それぞれの国の規制で定められている範囲でやらないといけません。
もう一つは社会的目標を達成すること。この両方を満たして初めて社会的成果と呼べるのです。貧困からの脱出とよく言いますが、そんなもの金融サービスを使っただけではできません。もちろん金融サービスを使うことで何某かお客さんに変化はあるでしょう。どのようなサービスをクライアントの方々が使うことによってどういう影響があったのか。変ったのか、変っていないのかデータをとってトランスペアレントにする。これが求められることです。

いきなり貧困からの脱出と言っても他にもやることが山のようにあります。具体的にどういうものを想定すればいいのかCGAPのワーキンググループでソーシャルパフォーマンスタスクフォースが作りました。社会的成果のモニタリング成果として発表しましたがこれから世界中のMFIがモニタリングしていって欲しいというものではなく、過去5〜6年やっている成果モニタリングの教訓を踏まえてまとめたものです。現実を見据えてこの程度ならガイドラインができるのではというもの。各国でさんざん行われたものの集大成です。

ポイントは「個々のMFIがそれぞれに社会的目標を設定し、それをモニターし発表する達成のためにあらゆる努力をしましょう」という点です。
例をあげます。

  • 新しい顧客の70%を地方部の農民にします
  • 顧客の80%が18ヶ月以内にそれぞれの農家の資産をふやした実績

これらの事を役員も職員もコミットします。そういう社会的目標を達成するためのプロダクトやサービスを生み出し、その達成のために職員にインセンティブを与えるのです。

 

社会的リターンと財務リターンの矛盾するのか?

「社会的リターンは財務リターンと矛盾するのでは?」という命題があります。もちろん短期的にはコストの面から財務リターンに影響をマイナスの影響を与えると思いますが、長い目で見たらプラスになるはずです。長い目で財務リターンもあげられるという事ですが、問題となるのはお客さんに対するコスト、MFIのファンドがモニタリングするコストについて投資家もいる中でいかに効率化していくかです。

これについてもフォーマットの統一化が議論されています。MFIが様々なところから融資を受ける際、融資元それぞれのフォーマットでモニタリングされても現場は困ります。一方、一部のMFIで社会的パフォーマンスを報告している例もあります。

投資家がファンドに対して社会的目標に関心を持ち続け、圧力をかけ続ける必要があります。これは離れれば離れるほどサマライズされてしまいます。投資したお金に利回りがついて返ってくればいいという人なのか?現場にいいインパクトを生み出せたのかに関心を持ち続けている人なのか?つまり、投資家が社会的責任に関心を持ち続けることが重要です。


貧困層にとって一番必要な金融サービスとは?

ファンドの役割はお金を出してモニタリングさえしていればいいのでしょうか。個々のMFIにとってはパフォーマンスを向上させる為には資金だけではなく他の面でのサポートも必要になってきます。そういうコストについて利回りが多少減ってもいいから長い目で見てコストを使うのを許容するかどうかも重要です。

そんな事は無理と数年前は言われましたが、今はそういう点も投資家が許容するようになりました。ファンドのような形でお金をMFIに流すと言うことはプラス面もありますが大きなマイナス面もあります。

ファンドがお金を出すことでMFIの預金集めのインセンティブを損なうからです。預金集めのライセンスもないところがそのままお金が集まれば預金集めをしなくてもいいかという事になります。

貧困層にとって何が一番大事かというと預金です。世界中で25億人は預金口座を持てておらず、そこが最大の問題です。貧困層もいきなりお金を借りることはありません。最初は預金から始まります。どのMFIにとっても安全で簡単な資金調達手段が預金であり、自国通貨ですのでMFIにとって為替リスクもありません。預金集めには銀行に準じたライセンスが必要になります。そこでMFIが困っているならサポートしてこそファンドにとっての社会的責任です。自分のビジネスと利益相反してしまいますが。

 

包摂的金融の意義

包摂的金融の意義はなにか?包摂的な成長の必要条件とはなんでしょうか。

民主的な世界では政府にやってもらおうとしていますが、多くの場合は既得権益に縛られ、政府のやることは増えています。これは先進国の方が酷い状況です。世界中が同じようになるのは困るので民間部門がソーシャリーディスポンシブルなビジネスを追求できるように後押しすることが政府の役割です。

先進国のイノベーションではありません。私はJICAにもいましたが、北から南という時代は終わりました。今は我々が学ばせてもらう立場です。

途上国の貧困層をクライアントとして正当に扱って彼らから学ぶのです。彼らは行動経済学の影響を強く受けていますが、途上国のクライアントには我々が教えないといけないというのは根本的に間違っています。

途上国の人の方がはるかに知恵を絞ってやっています。多くの制約条件の下で高い能力を発揮しているのです。貧困層の知恵に学ぶことで新しいことが生まれます。

 

感想:

毎年大学の先生の講演がありますが、今年が一番良かったというのが私の感想です。テーマも社会的成果の測定という一番自分の興味のある分野でしたし、開発協力の現場で長年活躍された経験から来る言葉はストレートにズドンと響きました。

社会的投資は財務リターンの方が目に見えるわかりやすい成果なのですが、本当に大事で自分にとって興味のあるのは実際に現場によいインパクトがどの程度あったのか?なんです。

でも、辻先生のお話を聞いてあまりそこを求めすぎるのも現場の人達の負担になってしまうという点が理解できました。そうはいってもなんらかの形で測定は必要でしょうから見せ方は考える必要がありますね。学術的な測定と社会的投資家が求める数値は違うものだと思うからです。

特にLIPのマイクロファイナンスファンドに投資するような人は社会的リターンを求める人が多いと思いますので、無理のない範囲で測定した数値にストーリーを絡めて情緒的に見せる工夫が求められているのではないでしょうか。

社会的投資に対して社会的リターンのために財務リターンをおざなりにしてもいいのか?という声がよく聞こえてきますが、そもそも社会的リターンを出すために投資しているんだというところを忘れてはいけません。それをはっきり思い出させてくれた講演でした。