いい投資探検日誌(from 八女)

しあわせをふやす いいお金の使い方を考えています。サステナブル投資家。2017年に新所沢から八女に移住しました。週末は一口馬主を楽しんでます。

ゆっくり、いそげ 紀伊國屋書店トークライブで影山知明さんのお話を聞いてきました

紀伊國屋書店 新宿南店で開催されたトークライブ『ゆっくり、いそげ』に行ってきました。

著者の影山知明さんは最近ではNHKのNEWS WEBの火曜日のネットナビゲーターもされていますが、西国分寺でクルミドコーヒーというカフェを運営されています。私も5年前にセキュリテの夕べというマイクロファイナンスをお題に据えたイベントに行ったことがあります。

今回は影山さんと本を出版された大和書房の編集者、高橋千春さんのお二人によるトークライブでした。

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影山さんがこの本で伝えたかったことは本の帯に書かれている言葉「目の前の人を大事にする」これに尽きるということでした。

トークの中で出た言葉で「大事にするというのは特別なことをするのではなく、相手の行動に反応するだけでも祝福を贈るようなもの」というのは確かにそうだなと思いました。例えば減っているコップの水を追加した場合、何かを期待しているわけではないけれども一言何かあるのと、何もしないのでは自分の存在の有無が違ってくると。何か反応を返すだけでその人の存在を認めることになります。そういうちょっとした事の積み重ねが心地よさを生み出すんでしょうね。

おもてなしにも通じるんだと思いますが、相手から払ったお金以上の事をしてもらったと感じる健全な負債感がそのお店に対して心地よさを感じたり、また来たいと思わせる根っこなんでしょうね。逆に利用(消費)という関係になってしまうとお店と消費者はお金を払って商品やサービスを受け取るだけのドライな関係になってしまいます。

電車に乗るために自動改札機にICカードをタッチするとき、電車の運行に携わっている人達へ感謝の気持ちを感じないのは利用するだけの関係だからで、同じお金を払う場合でもレストランで美味しいものを食べていいサービスを受けた後はお金を払うだけでなくレストランのスタッフさんに感謝の気持ちがわき出てくるのはそういう違いです。

自分の周りのとあるコミュニティを思っても他人のために支援というかおもてなしを時間をかけて丁寧にされていて、そうするとやっぱり受け取った側は次は自分がってなるんですよね。そうやって幸せが循環していく姿を見るときれいごとって言われるかもしれないけれども、小さな幸せって大事だと思います。

経済書を作ろうと思ってこの本を書いたということですが、ゆるい距離感で書かれているのが読んでいても押しつけがましくなく心地よかったです。この本で述べられていることも資本主義の進化形の一つとして受け入れられるのではないでしょうか。

お店が健全にやっていける程度の規模(特定多数)で利益の最大化に向かうのではなく、お客様やスタッフにとっての心地よさも両立させるというのは商いを長く続けるために必要な要素だと思うのです。顧客満足度はよく言われますが、持続する会社というのは従業員満足度も地域にとっての満足度も高いのではないかと思います。

これをグローバルにシェアをとって経済規模を拡大し続けさせようとするとどうしても効率を重視することになり、効率を重視した瞬間に失われてしまう価値観を守るためにはどこかに規模の壁が存在するのかもしれません。全ての企業が世界で戦う必要もないだろうし、特定多数を相手にある程度の規模の商いをするというのはグローバルとローカルのルールの違いとして共存できるのではないかと思っています。

他にも「不自由な共生(田舎)から自由な孤立(都会)」へ、「傑作は最初から傑作なのではない」などなどいろいろと思うところはある本なのですが、最後は結構駆け足気味にざーっと言いたいことを書いた感じがしたのですが、影山さんによると書き切れなかった部分は2冊目、3冊目で書いてみたいとのこと。

大和書房の高橋さんもこの本を50年後に読み返してみるのが楽しみと話していました。時間を得てこの本がどんな価値を生み出しているのかが楽しみと編集者さんが話されているのを見て満足のいく出来だったんだなと思いました。

本のタイトルは当初「カフェからはじめる人を手段かしない経済」がメインでサブが「ゆっくり、いそげ」だったそうです。確かにそれだとよくある経済書っぽくなりますよね。結果的に影山さんが出版社にNGを出して「ゆっくり、いそげ」になったのは本の内容からも良かったと思います。(逆のタイトルだったら自分はこの本は買わなかったような気がします)表紙のイラストもクルミドコーヒーのスタッフさんが描かれたそうですが、タイトルと同じ世界観を持った素敵なイラストです。

影山さんはミュージックセキュリティーズの取締役もされていて支援からはじまる関係の例としてセキュリテ被災地応援ファンドも本の中に登場します。あたたかみのある資本主義について興味を持っている方には一度読んでみて欲しい本です。

ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~

ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~