コモンズ30ファンドの6周年イベントがこの週末に大阪、名古屋でも開催されました。ネタバレ解禁という事で4月に開催された東京のレポート詳細版をアップします。
第一部では伊井社長によるコモンズ30ファンドの運用報告があり、企業への長期集中投資というコモンズ30ファンドの特徴を5つのP+Actionで説明されていました。設定から74ヶ月中71ヶ月で資金が流入というのはロングセラーファンドとして誇れる数字だと思います。コモンズ30ファンドのコンセプトやこどもトラストなど世代をつなぐ投資というものが自分の価値観にぴったりハマっているんだなあと感じた運用報告でした。
一つ注文をつけると社長の伊井さんの人柄もあるんだと思いますが、コンセプトも運用報告も良い子に収まっているという点です。運用の中身でもっとビシバシと訴えてくるものがあるといいのにというのは今後への期待を込めた感想です。
伊井:
コモンズ30ファンドの運用報告を行いますが、今日は5つのPという観点から説明します
Philosophy=投資哲学
「共感資本」という言葉がありますが、ベンチャー企業の意義はいま足りていないものを創業することにあります。長期的に資産をふやしていくのが投資信託のよいところですが、残念ながら賞味期限が2年程度になってしまっています。
また、世の中にはこれだけお金があるのに企業に対する長期の資金が全然無いのが問題でした。経営者は5年、10年先や100年先を考えて経営しているのに投資家は短期でしか物事を見ていません。長期目線のお金を待っている皆さんと一緒に、企業の持続的な長期成長に役立つ投資を行うことで配当や値上がりという形で返ってきます。これが正の形の循環で、こういう循環がなかったので日本は成長できずにいました。
コモンズ投信では株価ではなく企業へ投資します。
株価を追いかけず本質的な価値に投資することはバフェット型のスタイルと呼ばれています。世の中を見回すとイベントリスクばかりです。昨年も日経平均が57%上昇しましたが中国、ウクライナ、日銀などたくさんのイベントがありました。これら全てを追いかけて売買するのは大変です。
バフェットは長期的に銘柄を厳選します。株券ではなくビジネスを買うんですよ。もし証券取引所が10年間閉鎖されてもいいと思える会社に投資しなさいと言っています。それは将来も多くの人が必要とするものを提供している会社に投資をするという事です。
一つの例としてジレットのお話をします。カミソリのジレットは今はP&Gになりましたがバフェットの投資先でした。
「毎晩寝る前になるとわくわくします。一晩寝ておきると地球上の25億人の髭が伸びているんです。」
こんなに手堅いビジネスはないとバフェットは考えました。なぜならカミソリはジレットが一番いいものを作っているからです。
ずっと普遍的に成長していける会社に投資をするバフェットと全く同じではありませんが、コモンズでは市場のサイクルを乗り越えていける進化する会社に投資していきます。それは世界から稼ぐことができる企業が投資対象という事です。政治、経済、金融などの変化(イベント)への対応に優れた企業であれば企業が対応を考えてくれるので投資家が対応を考える必要はありません。
コモンズ30の運用は30年目線の30社への集中投資です。バフェットも20社くらいに集中投資していますが、世界では頑固な運用者が他にもたくさんいて彼らは大体20〜40社に投資しています。これらの集中投資ファンドで1年間に行われる銘柄入替は1〜2割が世界的な調査結果で、コモンズも結果的に1割くらいの銘柄が毎年入れ替わっています。
お客様との対話を見える化するため直販を中心に展開しています。企業側にしても明日売るかもしれないファンドマネージャーと良いコミュニケーションが出来るでしょうか?長期的な視点で投資を行うことで経営者が胸襟をひらいて対話に応じて下さいます。
創業間もない頃、まだ純資産が1億円ちょっとの時代にもコモンズ30塾にエーザイの役員やIRの方が来て下さいました。そうして皆様と企業の方との対話が始まったのです。こうした場は株主総会でも機関投資家向け発表会でもない独特な場です。
Process=投資プロセス
銘柄選択は100〜150社の調査対象から30社へ。上場企業の1%くらいまで絞り込みを行います。
バブル最高潮の1989年末からアベノミクスが本格的に始まる2012年末までTOPIX(配当込)は-60.9%で日本株への投資はありえないと言われていました。
ITバブルのピークからでも-39.8%です。しかし、その中で株価が上昇していた企業は1008社(59.5%)もありました。中でも414社824.4%)は株価が2倍になっていました。全体の株価が下がっている中でも厳選することでしっかりと成果を上げることはできるのです。
People=人材
50代〜30代まで違う年代のメンバーが揃っていてデューデリジェンスにおいては同じ視点ではなく多様なメンバーでフラットな立場で見ています。投資政策委員会は通常月2回開催されますが、緊急性があれば都度開催されます。
Portfolio=投資先の紹介
財務データを過去30年分調査しています。そうして長期で見ることによって過去に起こった様々なイベントをどうやって乗り越えたのか確認しています。
10年後成長してそうかという予想を達成できるか、その源泉を検討するのに必要なのが見えない価値だと考えています。社外取締役やガバナンスなど、投資先の企業としっかりと対話できないと世の中のコンディションによって成長が難しくなってしまいます。企業の文化や理念が部門間に横串を刺しているかをコモンズでは判断しています。
星の王子様の中の言葉にこんな言葉があります。
「本当に大切なものは目に見えない」
海外の売上高が高いという事は現地で生産して買っていただくものが多いという事でもあります。
コモンズ30ファンドの上位10社は海外売上比率が70%以上で日本の景気に影響されません。NYダウも同じ30銘柄ですがアメリカ経済が史上最高にいいわけではないのに史上最高値をつけているのは構成銘柄が世界でがっつり稼いでいるからです。
銘柄を厳選すると日本株や米国株といった国籍が関係なくなります。
投資先企業例:シスメックス
シスメックスは赤血球などをカウントする検査機器・試薬を製造する企業です。皆さんの健康診断の際にも知らずに利用されていると思います。1995年に上場後、時価総額は14倍、売上、営業利益は14期連続、純利益は13期連続増収増益を続けています。
このような会社は投資タイミングを気にする必要がありません。コモンズ30でも最初に投資した銘柄の一つですが6年強で株価は7倍になっています。 血液検査では試薬を毎回変える必要があるため、一度機器を販売すると継続的に売上がたつビジネスモデルです。また、景気が悪くなると検査をしなくなるという事は無いので全体の7割は景気の影響を受けません。170か国で展開していて世界一位のシェアを取っています。
また、企業理念を大事にしていて企業文化として横串がしっかり刺さっています。
Performance=パフォーマンス:
2013年から日本株の上昇が続いています。2014年度は前半下落、後半堅調でした。
後半は日銀の追加緩和や公的年金の投資方針に変化が起こったことによる上昇です。
コモンズ30ファンドの騰落率は+13.7%、TOPIXの騰落率は+6.1%でした。マザーファンドベースで純資産は106億円になりました。
分配金について
今年は分配金を220円出しました。これは配当金相当額をお支払いし、株式を保有していたのと同じように損益を調整したものです。分配再投資型における分配金は投資家にとってメリットが無いといわれますが、ずっと出さないというのはそもそも好ましくないと言われています。投信業界としては5年に1回は出さないといけないという認識でいて、我々もそういう考え方でやっています。金額は少ないながら分配金を出しているのはそうした理由です。
運用実績
TOPIXと比較して大きな差がありますが、いつもいい訳ではありません。コモンズ30の特徴として下げに強いというものがあります。TOPIXがマイナスの時は勝率76%ですが、TOPIXがプラスの時は勝率が43%になります。直近の上昇局面はコモンズ30にとって得意な局面ではありませんがなんとかついていくことで踏みとどまっています。
積立シミュレーション
ずいぶん基準価額が上がったと思われると思いますが、積立だと平均買付単価はそんなに上がっていないことがわかります。(高くなると買付口数が減るため)
Action=とった行動
2013年に大きく運用が変わりました。行く先が不透明な時はキャッシュ化するなどアクティブな運用をしていましたが、2014年は市場が落ち着いたので投資方針を見直しました。それまで毎日の管理はほぼ現場に任せていたのを、少し投資委員会やCIOに権限を委譲しました。
新規組入銘柄
- 東レ
企業文化、国際競争力を評価
多角化しながら安定した業績で各分野No1企業と取引している - セブンアンドアイHD
企業文化、マネジメント、基本の徹底を評価
北米でのコンビニ買収など - 日立製作所
マネジメント、ガバナンス、企業文化を評価
構造改革を進め、現在の体制にも受け継がれている
過半数が外国人の社外取締役 - デンソー
技術の変化や経営の変化への対応力が強い
自動運転など自動車のモジュール化で強みを発揮できそう
これらの企業はこれまでずっと調査してきていましたが、今回結果的に投資判断に至ったというものです。
売却銘柄
ローソン、エアウォーターは最高益を更新していましたが企業価値を上げていくステージが終わったと判断し、売却しました。。
投資先の社長交代
投資先の会社で社長交代が9社でありました。(資生堂、クボタ、ベネッセHD、クラレ、旭化成、日立製作所、ホンダ、ヤマトHD)
その中の1社ベネッセHDでは顧客情報流出事件がありました。当日の朝、緊急委員会を開き、初期対応を分析しましたが、初期対応としては致命的ではなく、良かったのではないかと判断しました。また、企業側と対話も行いましたがコンディションが悪い時こそ対話してくれた事を評価して投資を続けています。
受益者の皆さんから原田社長にメッセージをいただいたので機関投資家向け決算説明会で渋澤から質問して回答をいただきました。今年の2月末には直島ツアーを開催し、ベネッセの理念が詰まっている場所で対話をしました。うまくいくか慎重に見極めています。
販売チャネル拡充
新しいチャレンジとして静岡銀行での販売を始めました。コモンズ30と静岡銀行の株を組み合わせた地域ファンド(→コモンズ30+しずぎんファンド)です。
調べてみると1世帯あたりの貯蓄額は東京より地方の方が多いのですが、地方の金融機関はストック型の営業を模索していました。静岡銀行とは3年くらい前から話していて、ある意味地方創生の一つになるのではないかと思います。また、こういったフォーラムを静岡でもぜひやりたいと考えています。
伊藤レポートとスチュワードシップ・コード
コモンズのお客様も5000名近くまで増えてきましたが政府もいかに稼ぐか提言をしろといっている中で企業との対話をしっかりやっています。伊藤レポートの作成にも参画し、目的ある対話が必要だと訴えています。レポートの中で言っているのは企業も機関投資家もちゃんとしなさいという事です。
スチュワードシップコードが始まりましたが、コモンズ投信がこれまでやってきた内容でした。もともと起ち上げた理由が企業との目的ある対話や透明性がある事でこれを文書化した内容です。原則を振り返るいいきっかけになりました。コモンズさんは最初からやっているのでコモンズらしくでいいですと金融庁からも言われました。
子ども向け口座などファミリーで積立比率65%というのはなかなかありません。
運用開始から74ヶ月中71ヶ月が流入とほとんどの期間で資金が入ってきています。ロングセラーを目指してこれからもやっていきます。
2014年が変化の年だったかもしれません。現役世代が資産形成する人が増えていきそうなので存在感のある運用会社になりたいと思います。
コモンズ30と2020の違い
コモンズ30は進化を続けられる大企業に投資します。投資判断は投資委員会での全会一致で決められ、30銘柄に集中投資します。
ザ・2020ビジョンはコモンズ30と比較すると時間軸を短くとり(5年程度)、その中で大きな変化をする企業やリートに投資します。投資判断は運用部長に任せており、50銘柄程度に投資します。
ただ、両ファンドに共通するのは守りながら育てる、コスト(同じ)、長期での資産形成向きという点です。企業自体が強いのが30、糸島の判断で無駄なリスクを避けるのが2020です。基本コンセプトが同じでアプローチが違います。前半は2020が好調で後半は30が好調でした。
糸島:
2020は募集から2週間での運用開始でしたが皆様からの支援があり、3億円からのスタートでした。本日現在(4月5日)でマザーファンドベースで40億円になっています。
変化 厳選 ダイナミックがキーワードであり、2020年に終わるファンドではありません。いつどこから入っても5年先を見て運用しますので2020年になったら2025年を意識して運用することになります。今回に限れば明治維新と戦後・オリンピックが同時に来る、そんな大きな変化のイメージを持っています。企業とともに価値創造しましょう。
議決権行使コンサルのISSの方針変更もあり、企業もちゃんと経営をしないと経営陣が継続できなくなります。会社からも変わろうとする動きが出ています。どうやって変わろうとする会社を見つけるかというと企業のマネジメントが変化すると企業は変わります。変化にはちょっと時間がかかりますが、そこをウオッチします。
このファンドはTOPIXと争っていません。ですので株価が高いと思ったら守りに入って絶対リターンを目指します。
[質疑応答]
Q.渋澤さんが書かれている記事を読んで興味を持ちました。ダイバーシティも意識した企業選びをしているようですが御社に女性のアナリストがいないのが残念です。
A.
運用チームからは増員をと言われています。異なる視点がチームとして重要ですので貴重なご意見をありがとうございました。
Q.株価の割安、割高の判断は難しいと思いますがどうやるのですか?
A.
判断は難しいので他社には出来ない方法としてキャッシュで攻めるようにしています。
世界的に見ると日本は緩和でアメリカは引き締めしようとしてる、ヨーロッパも緩和の流れです。地政学的リスクや政治、原油などリスクが起こりそうなときにキャッシュへ逃げ込みます。グローバルな世界になり株価に国内要因はあまりありません。全体が高いと判断した場合は割安な会社へ投資を行います。
投機と投資の違いはなんでしょう?短期と長期でしょうか?それでは何日が投資ですか?時間軸だけでは説明できませんね。
私が思っているのは自分が思っている価値と比較して価格がどうかを判断しています。価格が価値だと思っている人が多いのですが別物です。多くの人は価格が上がると買い、下がると価値がないと思って売りますがそれでは儲かりません。投資判断は価値との判断で行いましょう。
Q.下手な考えですがコモンズ30のように信頼しているものを自分でも真似すればいいのではないかと思うのですが。
A.
ありがとうございます。コピー対策はどうなんだという質問かと思います。30銘柄だとファンドと同じく買おうと思うと意外に難しいので実際には参考にして買う事になると思います。
投資を始めるきっかけや刺激になるのはいいのではないでしょうか。長期投資を一般個人に広げたいと考えています。
できれば積み立てていただいて、その上でお願いします(笑)。人の真似だとあまりいい結果になりません。損した時に納得感がありません。
Q.社外取締役の重要性が増してくると思います。うまく機能している企業とそうでない企業の判断ポイントはどこでしょう。
A.
取締役会の席はどんなふうになっているか見ることもあります。社長の前に社外取締役がいる会社もあれば末席の場合もあり、それだけでもわかる事があります。
社外取締役には経営者に対して空気を読まずに暴走を止めるKYかどうかが求められます。コモンズでは社外取締役にリサーチもしています。
私は2008年にある会社の社外取締役していましたが、平時は取締役でしっかり判断が出来ていました。ただ、有事の際に社外役員は株主のための代弁としてモノを言えます。これを社内でやると左遷させられてしましますが、社外役員であれば気にせずものを言う事ができます。
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