12月14日(土)にNPO法人いい会社をふやしましょうの第三回「いい会社の力」シンポジウムが開催されました。
第3回「いい会社の力」シンポジウム いい会社がつらぬく社会的責任
開催日時:2013年12月14日(土) 14:00〜17:00
場 所:東京工業大学蔵前会館
主 催:NPO法人いい会社をふやしましょう
講演者
池内タオル株式会社 代表取締役 池内計司氏
パタゴニア日本支社 支社長 辻井隆行氏
人と経営研究所 所長 大久保寛司氏
講演のメモをシェアします。
パタゴニアの考える責任ある企業というのがどんなものなのか実例をあげて話していただき、すごいところまでこだわりをもっているんだなと初めて知りました。製品が作られる裏側でどんな事が行われているのか意識するというのは大切なポイントで、デフレの世の中で信じられないくらい安く提供されている製品の裏で泣いている生産者はいないのか消費者も意識した方がいいだろうと思いました。
【概要】
- パタゴニアではよい製品をつくるだけでなく環境へ与える負荷を最小限に抑える取り組みをしている
- 組織として取り組むことで複雑化した世界にインパクトを与えることができる
- よい製品をつくる裏側でどんな人がどんな風に関わっているのか意識して欲しい
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第3回「いい会社の力」シンポジウム『いい会社がつらぬく社会的責任』 (1) 池内タオル 池内計司氏
パタゴニアの考える責任ある企業について
これまでに一番気に入った製品やサービスとその理由をひとつだけあげるとすればなんでしょうか?隣の人と話し合ってみてください。
会場からの声:
「居酒屋の店員さんの笑顔」
「マザーハウスのバッグ。作っている背景を知った上で購入した。」
マザーハウスさんのバッグはデザインも素晴らしいものですが、通常その製品の背後にあるものについては考えられることがありません。もちろんバッグとしてもよくないといけませんが。
- 製品(サービス)
- こだわり(ポリシー)
- 使命(ミッション)
製品を手にした時、カーテンの向こうがどうなっているのか考えられなくても経済はまわってしまいます。
パタゴニアのミッション・ステートメント
最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する。
最高の製品というものに色んな定義がありますが、パタゴニアでは自然の中で動力をつかわないで楽しむスポーツにおいて安全に快適に使えて長持ちするものを最高の製品と定義しています。
また、同じ品質が実現できるのであればもっとも環境負荷の低いものでつくるようにしています。
パタゴニアでは1991年に自分たちのふるまいが世界にどんなインパクトを与えているのか調査しました。ポリエステル、ナイロン、コットン、ウールなど様々な素材を調査しましたが今日はその中でも綿についてお話したいと思います。
綿(コットン)は天然繊維で体にいいものだと思っていましたが実態は違っていました。害虫が多く口にするものではないため地球上の耕地面積の2%に対して殺虫剤の25%と農薬の10%が使用されていたのです。また、最後の収穫前に葉が邪魔なので枯れ葉剤を使って葉を枯らしてから機械でコットンボールを収穫しています。
94年の取締役会で当時使用している素材の20%をしめたコットン製品をどうするか?検討するのにほとんど時間は必要ありませんでした。誰かが環境負荷の低いオーガニックコットンを作るのを待つのではなく、自分たちが協議して転換していく事にしたのです。そうしてパタゴニアで使用する全てのコットンをオーガニックなものに転換しました。
一人ではなく組織として取り組む意義について
ビジネスを使って環境問題を解決していきたいと考えており、ビジネスこそがポジティブな変化を起こせるものだと考えています。こうした取り組みは手間がかかって経済効率性では褒められたものではありませんが、続けることで他社の目指す姿になるのではないかと思います。
調査してみると2009年以降グローバルでのセールスで伸びが確認されました。社会のニーズとパタゴニアが取り組んできた事のタイミングがマッチしたのではないかと思います。
持続していてセールスとしてが結果として出るといいことがあります。それは手間をかけたビジネスが結果を産むという手本になるのです。
例えばナイキはパタゴニアの100倍大きな会社ですが、ある日見学に来た際に「おまえたちは嘘をついている」と私たちの取り組みについて話していましたが、実際にやっていることを見て自分たちも1%をオーガニックに転換すると約束して帰って行きました。会社の規模を考えるとたとえ1%でも我々が使っている以上のインパクトがあります。今では他にもリーバイス、H&M、ウォルマートなどがオーガニックな原料を使用するようになりました。
いま、私たちが住んでいる社会の課題は100年前と比較して複雑化しています。
まず、関係者の数が多く様々なステークホルダーが存在します。例えば原発に関しても直接原発から生計を立てている人もいれば、原発で発電された電気を使っている東京の人もいて、原発周辺で育てた食べ物を売っている農家もいます。
しかし、一旦事故が起きるとこれらのステークホルダーの距離が遠いことに気づきます。
自分がこれまで見たことのないところの事を考えないといけなくなり、重要なことがどんどん変わっていくようになります。起きた直後は原発の近隣の方の命がが大事でしたがそれは一人では解決できない問題です。
たくさんの考えをテーブルにのせて考えるのこと大事ではないかと思います。
アウトドアスポーツから学んだこと
パタゴニアも元々はアウトドア好きの人がアウトドア好きの人の為に始めた会社でした。
私は社会人として最初に一部上場企業にまず三年間勤めましたがどうしても心に引っかかることがありました。
それは定量化できるモノについて細かくする一方でやさしい、うそをつなかいといった定性的なモノは軽視されているということです。それで会社を辞めたらせいせいしたのですが、一ヶ月位したら社会から逸脱したという劣等感を持つようになりました。
今ではニートなどと呼ばれていますが当時はプー太郎と言われていた時代です。逃げ込むように大学院に入学しました。そこで運命的な出会いがあり、先生と一緒に近代合理主義の世界の中で何が重要かを決めているルールについて考える時間をもらいました。
近代合理主義の世界ではあらゆる物事を最小単位に分けて比較した結果、人間も道具として比較するようになってしまい「あいつ使えないよな」という言葉がショックでした。
これまで自分が心で感じていた事を理屈でわかった瞬間、会社にいた時に自分が感じていたもやもやはおれのせいじゃなかった!これからは自分のやりたいことをやってみようと思うようになりました。
東京生まれの東京育ちで田舎がないことがコンプレックスでしたが27歳にしてアウトドアスポーツに目覚めました。
何もないところで生きている先住民に憧れをもったのでシーカヤックとスキーを始めたのです。カナダのバンクーバー島を64日かけて一周したりもしました。
その時は最初は友人と一緒でしたが最後は自分一人だけで海を行くことになりました。いよいよ市内に海峡をわたって帰るという時に自信満々になって大きな失敗をしてしまいました。
シーカヤックは潮に影響されるスポーツですのでナビゲーションといって明日のルートを事前に計算します。
通常だと11時に出るところを朝起きても他にやる事が無いので、いよいよ最終日ということもありこれまでやってきた自信から朝の7時に出発したら潮の流れがきつく、酷い目に合いました。自然の中では人間は謙虚にならないといけないんだなとその時感じました。
グリーンランドに行った際には生まれてはじめて急斜面をスキーで滑りましたがバックルを締め忘れて転んでしまい、そのまま滑落していきましたがクレバスの角で前転したことで落ちずに済みました。人間の世界では責任の所在があいまいな事が多いですが、自然の中では自分に返ってくるんだなということを学びました。
パタゴニアに行った時には氷河の上に乗って大きな岩山を登ると同行した友人達が言い出しました。50kgの荷物を背負って100mはある高さを登っている途中に自分はこれ以上登れないので下で待っていると言いました。
荷物にはテントが2張りありましたが、それは登っていく人達が使うので自分の荷物だけ持って降りたのですがカヤックのところまで戻ってもまったく人気がありません。
あたりはトドの鳴き声しか聞こえない状況で夜になると指先ですら見えないくらい暗い真っ暗闇です。持って行った本でも読もうとしましたがスピリチュアル系の本でそんな状況下では怖くて読めませんでした。その時、日本に帰ってからも文句いわないようにしよう、謙虚に感謝の気持ちを忘れてはいけないなと感じました。
そんなことをやっていても食べていけないので働くことになり、パタゴニアに入社しましたが組織も接点とのリングがあります。人間の心がオープンになった時、深い所に入っていけるのだと思います。
グリーンランドに行って海洋ほ乳類をたべるエスキモーの母親の母乳から水銀が検出されるという話がありますが、海洋ほ乳類の生息域にヨーロッパの工業廃水が流れ込んでいるのが原因でした。
地球上には70億人が住んでいますが経済活動に関わっていない人達も大きな経済活動から影響を受けて生活をしています。水没しそうなツヴァルという国も彼らがCO2をたくさん出しているわけではありません。
ビジネスをやっている人が責任を取らない限り、僕たちが住む世界を変えることはできません。
辻井さんの願い
願いは2つあります。
一つはお互いに学んだことを共有して欲しいということです。
もう一つは、消費者も生産者が健康にモノを作ることができ、製品の裏側でどんなことが行われているのか一緒になって意識するようになって欲しいということです。
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