いい投資探検日誌(from 八女)

しあわせをふやす いいお金の使い方を考えています。サステナブル投資家。2017年に新所沢から八女に移住しました。週末は一口馬主を楽しんでます。

いい会社訪問 トビムシ in 飛騨 参加レポート Vol.3 トビムシ 竹本吉輝さん×鎌倉投信 新井和宏さんのトーク(FabCafe Hida)

8月11日に開催されたいい会社訪問 トビムシ in 飛騨レポートの最終回はFabCafeHIDAで開催されたトビムシ代表の竹本さんと鎌倉投信の新井さんによるトークセッションの模様をお伝えします。

行程:いい会社訪問 トビムシ in 飛騨 (2016年8月11日) 

飛騨の地でトビムシがこれからやろうとしていること、風景を含めた地域の生態系を守るために必要なことなどがよくわかるセッションでした。このレポートを読まれた皆さんも是非飛騨に足を運んでみて下さい。

飛騨の地で活動することになったきっかけ 

新井(鎌倉投信):
まず竹本さんからなぜこの飛騨からやろうと思ったのか、ご縁のスタートをご紹介いただけますか。

竹本(トビムシ):
トビムシの竹本と申します。皆さんと待ち合わせしたのが飛騨高山、高山市でこちらの飛騨古川は飛騨市になり、行政区が異なりますが飛騨エリアとしては一緒です。

トビムシは色々な地域で活動していますが、現在は主に岡山県西粟倉村、東京都奥多摩町、そしてこの飛騨市の3カ所で活動しています。

鎌倉投信さんとは4年前にもいい会社ツアーをやらしていただいて、その時は高山にある飛騨製箸さんの工場と飛騨産業さんにお越しいただきました。

西粟倉で間伐材を使った割り箸を作るようになり、飛騨製箸さんとは同じ想いを持って飛騨で割り箸を作ることになり、そのきっかけで当社の松本が飛騨に住み始めました。

飛騨市に住んで高山に通っていく中で飛騨市の方ともプライベートでお付き合いするようになり、そこから少しずつトビムシさんにとご相談を受けるようになりました。

新井:
この素晴らしい場所にこれだけの大きさの場所を提供していただけたというのは素晴らしいですね。

竹本:
素晴らしいご縁をいただけました。皆さんもご存じのようにその土地に古くからある不動産をお譲りいただくのはもとよりお貸しいただくのも難しいことです。この建物(FabCafe Hida)はこの周辺ではランドマークともなる建物で、この町内の大旦那さんが東京の会社に譲り渡すのは例えるならバブル期にロックフェラーセンターを三菱地所が買うようなそんな感覚です。

地域の精神性の建物を売却するのは持ち主にとっても周辺に住まれる方にとっても想いがあるためなかなか行われませんが、今回はご縁をいただいて周辺の方にもご理解いただいた上でこういう施設を運営させていただいています。

新井:
出資も飛騨市から半分って普通は無いですよね。現物いれたら半分以上ですよね。

竹本:
飛騨市は会社ではないので子会社とは言えませんが、50%以上出資いただいているのでヒダクマ(株式会社飛騨の森でクマは踊る)は実質飛騨市の子会社という形です。第三セクターは事業としてうまくいっていない、結果として自治体が損失を補填し続ける事が多い仕組みです。

国も自治体も余裕がない中で運営がうまく続けられず清算しているのが殆どという中で新しく第三セクターをしかも最大株主でやっていこうと市長、副市長が大いなる覚悟をもってご決断くださいました。

広葉樹の森を持つ飛騨市が森は不要物ではなく宝物だ、将来へ向けた資産だという大いなる意思表示だと思います。

新井:
昨日も栃木から町長が来ていましたが、お金がないのになんで1千万円単位で第三セクターをやるのか不思議でしょうがなかったようです。でも市役所の方と一緒に街を案内されてここを見て腑に落ちて帰るという、あの展開がいいですね。

竹本:
今の話を聞くと保守的な町長というイメージを持たれると思いますが、その町長はかなりイケイケな肉食系町長で、独断と偏見でかなりの事業を展開されている事で有名な方なんです。その方が驚かれたことを飛騨市ではしています。

新井:
経営感覚のある方なのでこれに投資してどうなるのと思っていたのが腑に落ちて帰っていかれました。

竹本:
これならうちはもっといけると(笑)

新井:
実際にできる事を見ていくと役場の方が変わりますね。

(ここでPR用にFabCafeHIDAのメニューにある飛騨の100%絞りたて桃ジュースの差し入れが)

新井:
ありがとうございます。皆さんにあと20杯くらいはPRしろってことですね。桃ジュースは早く飲まないと色が変わってしまうので、大変恐縮ですが飲ませていただきます(笑)

竹本:
ほんとにおいしい

新井:
うまい!

竹本:
決してPRじゃありません(笑)

新井:
飛騨の豊かさを感じますね。懇親会に行かれる方は感じると思いますが、食べ物だけじゃないんです。空気もおいしいし。ここのスタッフを紹介しましょう。自己紹介をお願いします。

藤田:
ヒダクマ(飛騨の森でクマは踊る)でインターンをしている藤田と申します。

新井:
ここに来る前はどこにいたの?いつからここに来たの?

藤田:
4月に古川に越してきてFabCafeで働いています。その前はトビムシが出資している東京・森と市庭という東京奥多摩にある会社でインターンをしていました。

竹本:
どれだけインターンしてるの・・・

藤田:
そちらでインターンしている時に飛騨古川に遊びに来る機会があって、それで飛騨の人柄や自然の豊かさに感動して「飛騨古川に移住したいです」と色んな人に話していて、4月からここで働くことになりました。

竹本:
とにかくインターンですから。移住したいとかおかしいんですけど。

新井:
インターンで移住って聞いた事ない・・・

竹本:
自然が豊かなのに感動してって言ってましたけど、彼女はちなみに北海道大学の大学生なんです。にも関わらず飛騨古川の自然が良かったと。

新井:
大学は行かなくていいの?

藤田:
今4年で単位は全て取ったので後は卒業論文を書けばいいだけです。木工職人さんにインタビューしていて家具を作る時にどういう風に国産材を使ってもらえるかをテーマに調査しています。

新井:
仕事みたいですね。

竹本:
「桃ジュースと焼きおにぎりと私」くらいの論文になるかと思ってたんですが、非常に素晴らしい論文を書いてもらえたらと思っています。

新井:
ありがとうございました。面白いですね。奥多摩でインターンして、更にここでインターンして。

竹本:
奥多摩にいた時は確か休学していて、今年は復学して今度は飛騨に移住しています。

新井:
それって復学って言うんですか?論文を書いてるから復学していることになるのか・・・。

北海道大学の学生が飛騨に移住して・・・そっちの方が説明しずらいですね。

竹本:
ヒダクマのスタッフからしたらなくてはならない存在になっていますから。

新井:
せっかくなのでご紹介いただきたいのは、ここは蔵ですよね。酒って書いてますが醸造してたんですか?

松本:
昔は殿様から認められて一番最初に酒づくりをした酒蔵でした。古川には2つの造り酒屋があって蓬莱と白真弓というのはここから独立したんです。

大旦那さんというのはだいたい土地をたくさん持っているので田んぼで米を作らせて、付加価値を上げるために酒造りをするというのが一般的だったんです。

新井:
そんな由緒あるところを譲ってもらったんですか。すごいですね。何か制約はあるんですか?

松本:
譲っていただいたので基本的には自由です。

竹本:
ただ、もちろん飛騨の森や木を引き継いで残すのを前提に買わせてていただいたのに、こちらの一存でやっぱり壊しますというような事はできないです。

松本:
もともとは家主さんもこの建物の扱いに困っていたんですが、周りの方も恐れ多くて誰も手が出せない状況だったんです。壊して駐車場にする構想もあったそうです。

新井:
地元の人が恐れ多いところに松本さんが大胆に手を挙げるところがね

竹本:
新人のピッチャーがど真ん中になげて三振をとるような

新井:
そういうセンスありますよね

松本:
そうですね

新井:
松本さんがいなかったら成り立たなかったですもんね

竹本:
ここに6年住んで信頼を紡いできた形の延長線上の風景ですから

新井:
昨日役場の担当者さんと会わせていただきました。お二人の信頼関係で出来たことですから、まずは馴れ初めの話をお願いします。手短にね。昨日は思いが入っちゃって長かったから。

松本:
短いと想いが伝わらないかもしれないですが・・・

新井:
あとはこっちでフォローするから大丈夫です。

松本:
こちらで暮らし始めて市役所の担当者さんとも個人的な付き合いの中で、行政の中でのミッションが下りて来てこういう事があったけどどうしましょうと最初は個人的に相談にのっていたんです。

こういう事をやっても地域の為にならないと思うのでトビムシさんにお願いできませんかと言われて、ちゃんとやるなら仕事としてやりましょうという事になりました。

行政の人って凄いなと思うのは新しいことをするのがリスクでしか無いんです。成功しても良い事はなくて翌年には異動させられるかもしれない、チャレンジする意味が僕からしたらわからなかったんですが、熱い想いを持って一緒にやりましょうと。

トビムシという会社は何なのか説明するのも大変でしたが、地域のためというより同じ目的地を目指す仲間としてどんな形で進めていけばいいか進みながら障害物を避け、パンクを直しながら進んできた結果、ご縁や周りの応援でなんとかここまで来ることが出来ましたし、今も助けられています。

新井:
信頼関係を築いて6年間ここまでやってきたんですが、トビムシは他のコンサルと何が違うかというと余所者にならないんです。自分達がリスクを背負ってやっているから成立するんです。他は余所者のままやるからなかなかうまくできません。

地域の生態系を守るということ

新井:
トビムシは3カ所で具体的に動いていますが、他にも様々な地域で種まきをしています。それ以外の地域についてもご紹介できる範囲でお話しいただけますか?

竹本:
オークヴィレッジの佐々木さんが地域の材を使って匠をつないでいるという話をされていました。よく地産地消しましょうといいますが、ヒト・モノ・カネ・情報とあらゆるものが中央に集まって地方では消費するマーケットが急激に小さくなっている中で佐々木さんは一緒に地産地製しましょうと言っています。

その地でその地のものをその地の人が作って、その地の人でも他の地の人でもいいので消費する。地域の資源に地域で価値を付けて販売するという事です。

飛騨産業の岡田社長が利益はなかなかでないけれども人を雇うという方針に賛同しますが、地域の材を地域の人が製造して地域に住まう人が雇用されるのが一番地域にとってお金が落ちるいい方法だと思います。

今、他の地域5〜6カ所で相談を受けていて、各地に松本のような人柱がいながら色々なことをやろうとしていますが、ご紹介できる場所として昨年来ていただいた愛媛県の内子町があります。

内子町には素晴らしい街並みがあります。古川も素晴らしい街並みですが内子も住んでいる人が中心になった街並みなんです。でも、その街並みは地元の材、地元の石、砂では一切作られておらず補修は地域外の素材を使っています。地域のものを地域でしっかりまわすことが綺麗ないい街並みでも出来なくなっているんです。

地域の資源が地域で使われなくなっていくと同時に職人さんの仕事もなくなっていきます。手入れがされず、荒廃して暗い森になって土砂崩れを起こすのと同じ現象です。

400万部売れているバカの壁を書かれた養老孟司先生と親しくなりました。養老先生は専門がゾウムシで「君はトビムシだね」と言われて「僕はトビムシは全然専門じゃありません」と言ったんですが、君面白いからと家に呼ばれていろんな写真を見せていただいたんです。

養老先生は虫好きで世界中で虫を収集しているんですが、ブータンの写真を見せていただいた時、おかしいなと思いました。ブータンの首都は2500m以上の高地にあるので写真の場所は3000mくらいなのに風景がどうみても飛騨古川と一緒で森が写っているんです。日本の森林限界は1800〜2000mと言われているのであり得ない光景です。

3000m超えているのに森があるんです。そして養老先生がいるってことは木があって虫がいるって事なんです。森林限界が全然違うんだなと。ヒラマヤの森林限界は4500mらしく、養老先生の仮説によるとそれはヒラマヤはユーラシア大陸と一緒にゆっくり上がってきたから生物が適応することが出来たのではないかという事でした。ゆっくり環境が変わったので植物や動物、昆虫などみんなが適応出来たんです。

日本列島は相対的に早く上がったので適応できた木や虫はいたんでしょうが、それ一種だけでは生き残ることは出来なかったんだと思います。みんなが残らないといけない。虫もいるし広葉樹がある、こういうことなんだなと思いました。

素材は使われない、職人の仕事はなくなるとみんな生き残れないので無理やり仕事をつくるんです。最近、ある瓦職人さんの仕事に感動しました。彼の技術を救いたいけれども瓦を購入するのに補助金をつければ生きれるかというとそもそも家が作られないと救えません。

地域の森を良くしようと間伐だけしても生き残れません。なぜなら間伐された木が使われないから。一つのものを残そうとしたら林業をちゃんとやらないといけません。家をつくることもそうです。木を大切につくっている大工さん、昨日見学した田中建築の大工さんだけ残そうとしても他の職人さんがいなくなったら生き残ることは出来ないんです。それは内子も飛騨も一緒です。

新井:
田中建築の田中さんもお見えになっているので、せっかくなので自己紹介をお願いします。

田中:
飛騨古川で田中建築という建築会社をしています。うちは木をメインに使った住宅を建てていますが、丸太から仕入れて地元の業者の製材を依頼して、自然の温度で水分を落とした後に木材乾燥機で水分を管理しながら使っています。

竹本:
たいへんありがたいことにこちらの建物も田中さんにリノベーションしていただきました。我々は勝手にご縁ですねと言ってますが、ほぼ因縁のような・・・

新井:
昨日田中さんのご自宅も拝見させていただいて、詳しい写真はm@さんのブログで・・・

竹本:
いかに田中さんの家が素晴らしかということを見てもらえれば

新井:
素晴らしい家でしたね。参加した方全員が居心地が良くて座り込んじゃって、なかなか立ち上がらなかったですもんね。

トビムシが目指すこと

竹本:
飛騨産業、オークヴィレッジと飛騨のいい会社を見ていただきましたが、彼らはいい木をいい状態に整えていい技術で作るんです。

一方で多くの森は木が使われなかったために悪い木が多くなっています。それを間引きながら、いい木を少しずつ育てていくことをしています。悪い木がお金にならないからいい木も育たない悪循環なんです。

ヒダクマに限らずトビムシはいろんな地域の悪い木を商品化しようとしている会社です。そういう意味で飛騨産業さんやオークヴィレッジさんと競合する気はありません。どちらも見ていただいた通り素晴らしい木がたくさんありましたよね。

田中さんが乾燥の話をしていましたが、いい状態にしようとすると5年10年かかるんです。ああいういい木を素晴らしいものにする「百年かかって育った木を100年使えるものにする」と社是をおっしゃていましたがそれは素晴らしい事です。

でも、それになれない悪い木、悪い木が多くて良い木になりきれない良い木を育てる為にいろんな形で価値をつけてお金を山に返すようにしています。山の循環を進めていくのがトビムシのミッションです。

佐々木さんも話してましたが日本の良い広葉樹はほとんどなくなってしまいました。いい材料を使うのは尊い話ですが、日本の広葉樹をいい状態にしていくことも大切です

飛騨市の7割が広葉樹、雑木林です。細い木が多くて鬱蒼としている中、気軽にクリエーターがこんな使い方だったら僕らにとっては宝になるというのをカジュアルに感じる場としてFabCafeがあります。

ここは工場じゃありません。ここはあくまでも木をこんな使い方をしたらかっこよく、かわいく、豊かで、優しいものになるとクリエーターに知ってもらうための場所なんです。

これだけの技術があって、木を面白くかわいく使えることを知って欲しいと思います。またゆっくり育つ状況になってくれば使う木がでてきます。いい空間に仕立て上げられる好循環を生み出そうとしています。

新井:
生態系の話じゃないですが一部の生態をみんなが必要としてくれるから、田中さん達が儲からないけれどもこの建物をリノベーションしてくれました。その生態系がないと困るからです。

竹本:
飛騨古川にヒダクマのような社会的機能があったほうがいいという方が応援して下さって、みんなでゆっくり上がっていけるようになりたいです。

新井:
それが今の日本の林業の大きな問題で、パーツが抜け落ちてしまっているんです。その先をどうしようかトビムシに相談してくるのですが、それぞれの地域でそれぞれ対応が違うのが面白いところです。

例えば飛騨は製材所が生きてますが、奥多摩は製材所が完全になくなっています。地域ごとに適合してやってるのがすごい。同じものでは地域に入り込めませんが、外から来ているからこそ足りないパーツが見えてそのパーツを担っていくことが出来ます。

竹本:
違う生態系があった足りないもの、自分たちが担えるものは何か考えて考えて考え抜いています。

新井:
それが埋まる事でレベルが一つ上がります。その構図がスタートにたったのがヒダクマで、今年の4月から動き始めたところを見ていただきたくて今回のいい会社訪問を企画しました。

何かが生まれるかはこれからです。皆さんにはこの地にこれがあることを知って欲しいと思います。そしていろんな方に来ていただく、触れていただいて、何が生まれているのか知っていただくきっかけになればいいなと思います。

真っ直ぐ言えば友達を連れてここに遊びに来てくださいという事です(笑)

竹本:
真っ直ぐですね(笑)

新井:
それが何よりもこの飛騨の地を豊かにします。ぜひそれをお願いしたいです。

そのためにはまずここに何があるか説明できるようにならないといけません。FabCafeで何ができるか簡単に説明いただいて終わりにしたいと思います。

松本:
カフェの手前に一般の方でも手軽にものづくりを体験できるように3Dプリンタやレーザーカッターがあります。

蔵の中にはUVプリンターという木など色んな素材にプリントできる機械もありますし、その他にも木工機械があってちょっとした加工もすることができます。

家庭用電源で動く機械が揃っていますので蔵の中に趣味でDIYのような感じで使っていただければと思います。