いい投資探検日誌(from 八女)

しあわせをふやす いいお金の使い方を考えています。サステナブル投資家。2017年に新所沢から八女に移住しました。週末は一口馬主を楽しんでます。

コモンズ投信の統合レポート読み解きワークショップ「三菱商事」参加レポート

2月22日(月)にコモンズ投信の統合レポート読み解きワークショップに参加しました。

「企業との対話」ワークショップ
〜統合レポートを読み解く:三菱商事株式会社を迎えて〜

 日時:2016年2月22日(月) 19:00〜21:00
 場所:東京21C倶楽部・コラボレーションスペース
 講師:武久 裕さん(三菱商事株式会社 IR部長)

3年目の今年は三菱商事の統合レポートがお題です。三菱商事IR部長の武久 裕さんから最初に統合レポートについてお話があり、その後グループディスカッションとなりました。

三菱商事の統合レポートについて

武久:

皆さんが持っている三菱商事のイメージはどんな感じでしょうか?

(会場からの声):

・丸の内の地主
・三菱グループのトップ
・障がい者スポーツに力を入れている
・東日本大震災ボランティアに積極的
・有名な会社だが直接関わることがなく、よくわからない
・学生の就活人気No.1

武久:

ありがとうございます。
私たちの会社は、何をしている会社なのかわからないとよく投資家に言われます。
海外の投資家からはどんな会社なのか30秒で説明してくれと言われますが、ちゃんと説明すると30分は必要になるくらい色々なことをしています。
私たちはアメーバのような、鵺のような会社と表現しています。
鵺とは想像上の生き物で正体のわからないものを例える時に引き合いに出されます。

長い歴史の中でトレーディングから事業投資へ業態が変わりました。
変化への対応力がある会社という事ができると思います。
社会の要請に応じて正体を変えているので「捉えどころがない会社」という先ほどの答えはこちらの期待していた答えでした。

統合レポートに込めた想い 

このような会社の企業価値について説明しようとすると、とても定量的なものだけではできません。
統合レポートは定性的な信念を説明するのに最も適したものだと考えていて、ESG情報など企業の定性的な価値を長期投資家に説明するものでもあります。

三菱商事において事業とトレーディング、現在はどのような比率になっていると思いますか?
正解は事業投資が8割、トレーディングが2割です。
2000年頃からトレーディングから事業投資に主力が変わっています。
アニュアルレポートは1985年から作っていて、統合報告は2014年から作成し始めて2015年版が2回目になります。

OUR PHILOSOPHY / OUR NUMBERS (P.01〜P.03)

企業価値の定性情報を伝えるにはまず企業の理念、ビジョンを知っていただく必要があります。
三綱領」という三菱四代社長の岩崎小彌太が作ったものが企業のバックボーンとなっています。

社長メッセージ (P.06〜P.13)

理念をもとに継続的企業価値の創造を行うという事で社長メッセージが続いています。
この中で2020年を目指した中期経営計画について書かれています。

統合報告には間に合わなかったのですが、価値創造ストーリーとして稼ぎ方(インテリジェンス)×稼ぐ場(人材)が価値を作る元だという事を説明しようとしていました。
価値創造として変化対応力を説明しようとしていました。

特集 (P.16〜P.29)

特集として三菱商事が描く価値創出ストーリーの事例としてサーモン養殖加工事業への投資を紹介しています。投資の前段階で行っている環境アセスメントなど背景についても書いています。

利益は大事ですが、持続可能なものであるかどうかにも気を配っています。

財務・ESG (P.32〜P.41)

プロ向けの定量情報としてCFOが経済的価値を語っています。

営業グループの紹介 (P.44〜P.87)

三菱商事の経営活動の紹介として事業毎、経営活動を支える原動力として地域戦略、人材戦略について書いています。

環境・CSR (P.90〜P.102)

環境 CSRのページでは私たちが行っている様々な社会貢献活動について報告しています。
環境CSRのマテリアリティ(重点課題)については 93ページに書かれています。

 

IR部では年間400回投資家と対話をしています。休日や決算前の時期を除くと約1日2件のペースです。 また、社長が個人投資家向けに年4回説明する場を設けています。

統合報告は作ることが目的になってはいけません。
作ると出来た!と達成感で疲れてしまいがちですが、あくまでも対話のツールです。
いつでも統合レポートを持って行って説明するように話しています。

グループワークの感想

6名ほどのグループに分かれて統合レポートを読みながら良いところ、改善した方がいいところを忌憚なく意見交換しました。
最後にグループ毎に代表が出た意見を発表しましたが、厳しい意見も多かったもののそれだけ期待されている裏返しだったと思います。
以下は各グループから発表された内容です。


【理念】

  • 三綱領は古い言葉でわかりにくいのでもう少し簡単に説明してほしい

【社長メッセージ】

  • 株主還元として配当性向にもしっかり言及していた
  • 社長メッセージは誰か他の人が書いた文章に感じる

【特集ページ】

  • 特集ページにコーポレートガバナンスを持ってきたのは力を入れていることが伝わった
  • 鮭事業への投資のフローは読み込むと内容はわかるがごちゃついていて読みにくく感じた
  • 鮭の記事はわかりやすかった
  • プロからはなんで鮭にフォーカスを当てたの?という声があった

【部門・営業グループ】

  • 総合商社なので各グループ毎だけでなく相互のシナジー効果が欲しい
  • 写真が多く説明はしっかりしているが中央の線で分断されており読みにくい
  • 人の紹介がたくさんあるのはよい
  • ビジネスパートナーの話も書いてあるのが理解促進に役立った

【財務ESG】

  • 利益については計画に対する達成率が書かれていない 予算あっての結果では
  • 機関投資家向けに聞かれる数字をとりあえず載せたのかなという感じ
  • グラフが長い期間で変化を追いやすい
  • エグジットルールまで書いてあるのはさすがだと思った

【コーポレートガバナンス】

  • コーポレートガバナンスの重要性がわからなかった
  • 一般の素人には何を求められてやっているのわからないので素人向けの最初の一歩のサポートが欲しい
  • コーポレートガバナンスについてちゃんと作ってるけど実態はどうなのか。こういう場面で抑えが効いたなど事例が欲しい
  • コーポレートガバナンスについてルールはきっちり作られていると感じたが、きっと東芝も書けた内容だと思う。導入したことでこうなったというのが欲しい
  • コーポレートガバナンスにくるといきなり硬くなる。ここはもっと柔らかくしていいのでは

【環境CSR】

  • なぜこの重点課題(マテリアリティ)にしたか背景が書かれているとなぜそのような活動をしているのか理解が深まる
  • 一般の素人には何を求められてやっているのわからないので、素人向けの最初の一歩のサポートが欲しい
  • 6つも重点課題があり、世界で取り組んでいるのがよい
  • ボランティア活動や何をしてるのかを読んでいたが、こういう活動をしているという説明ばかりで受益者側からのメッセージがあるとよいと感じた
  • 社員の家族や生活についても書かれてあるとよい
  • ボランティアの中には止めたものもあると思う。目標とする成果を達成したからというのでもよいので止めたものと理由も書いてほしい

【全体】

  • 実際に働いている人が語ってるのがよい
  • 読み込ませる内容になっているがパッと見わかりやすいとなおよい
  • 全体的に文章が長すぎて読みにくい
  • 結局何が出来たのかわからなかった
  • カラーで写真が豊富でわかりやすい
  • 分量が多いので30ページの簡易版が欲しい
  • 地域ごとの取組がわかるとよい
  • 素人には難しいと思うのでもう少し解説があればと感じた
  • きれいに作りこまれていてコストもマンパワーもかなりかけているように感じるがここまで作り込む必要性はどこに?
  • 教科書的すぎてつまらない
  • 統合レポートのメッセージは何?
  • リーディングカンパニーとして見本にされる意識を持って取り組んでほしい
  • いつの時点の話かわからない
  • 丁寧に説明しようとしてるのは伝わった
  • IRの方に職場の一人一人が書いたと教えていただいた
  • 読み手はだれかと考えると素人には厚い 抵抗を感じるのでは
  • 最初の数ページで全体が読み取れるような工夫が欲しい
  • 投資家は主力事業や変化を気にすると思うので伝えたいものを注力しては
  • 全体的に社内報のように感じた
  • 読み手の意見も交えるとよくなるのではないか
  • 多くの事業をまとめた努力を感じた
  • PDF版は読みにくい
  • Web版もインタフェースが使いにくかった
  • ビジュアル的にもよい
  • 社員の顔が多く出ているのがよかった
  • これだけの分量だと目次にも工夫が必要
  • 知りたいと思う人には嬉しい分量だが、どこに投資しようかという人にこの分量はハードル高い

感想

総合商社ということで事業内容をしっかり理解するのは難しいと思いますが、できるだけ丁寧に説明しようとしているのが伝わる統合レポートでした。
一方でセクション毎に説明に熱量の差を感じるところがあったり、真面目に読みこむにはそれなりの気合いが必要な分量です。
グループワークの感想でも出ていましたが、事業が多岐にわたるだけにサマリーを最初に持ってくるかサマリー版を別に作るとよくなると思います。

働いている人がたくさん登場しているのは身近に感じますし、鮭事業への投資など私たちの生活にとって身近な分野で説明しているのは理解しやすくていいと思いました。

全体的に数字の説明が控えめなのは定性的な姿を前面に押し出したいという思いなのかもしれませんが、数字ももっと前に出していいと思います。

三菱商事の方からも今回の意見を元にエッジのたったレポートを作って来年またリベンジしたいと話していたので来年も楽しみにしています。

コモンズ投信も統合レポートを

コモンズ投信もファンドを3本運用している他、社会起業家を応援するコモンズSEEDCap、企業との対話の場、こどもトラストセミナーなど様々な活動を行っています。
そんなコモンズ投信だからこそ統合レポートのようなものがあるとなぜファンドの運用以外の活動もしているのか、コモンズ投信の理念「Share the VISION」への理解が深まるのではないかと思いました。

せっかく統合レポート読み解きワークショップを毎年開催していますし、面白いんじゃないかと思います。

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