お江戸百年塾新春フォーラム「世界が変わるプロジェクト」
日時:2015年1月17日(土) 14:00〜17:10
会場:増上寺光摂殿講堂
主催:お江戸百年塾
1月17日にお江戸百年塾新春フォーラム「世界が変わるプロジェクト」が開催されました。第二部は日本環境設計というベンチャー企業で古着からバイオエタノールを作りだす技術を持っています。酵素と菌の力を使って原子レベルでリサイクルするので今でゴミとされていた有機物がゴミではなく資源に変わってしまいます。
でもこの会社の凄いのは技術だけでなく、一般の人を巻き込んだエコシステムを作ろうとしているところ。地上で使われている石油製品をもう一度石油に戻すことが出来れば地下から掘り出さなくてもよくなる・・・。第一部で鬼丸さんが地下資源を巡って戦闘が続いているという話を聞いた後という事もあり、石油に依存した世界ががらっと変わりそうな予感がしました。
第二部:
日本環境設計株式会社 代表取締役社長
岩元美智彦さん
すべてのごみは資源です。
「ごみ」とは勝手に人間が決めたもので、見る角度によって違うものになります。
「2020年未来を創る」というベンチャー支援のイベントで当社が最優秀賞を受賞しました。今日はその時の資料をもとにお話しします。
1年前は資本金1000万円でしたが最近増資があり、今は資本金が6.9億円になりました。市場の評価がこれだけ変わったという事です。リサイクルをどのように社会でまわすかという事について短編映画『NINJA&SOLDIER』でうちの事業を紹介してくださったおかげで事業に魂が入りました。
循環型社会には2つのポイントがあります。一つは技術。最先端の技術を開発することで色々な事ができるようになります。もう一つは消費者参加型。消費者と遠い場所でリサイクルをしていても他人事のように感じてしまいます。グーグルのように消費者を巻き込んでまとめあげる仕組みが必要です。
綿からバイオエタノールを作る
創業当時は資本金も100万円しかありませんでした。綿からバイオエタノールを作る事業は様々な国でも行われていますが、実際にプラントを持っていて黒字化してるのは日本(私達)だけです。この技術を使うとこれまで捨てられていたシャツを資源にすることができ、作られたバイオエタノールはガソリンの代わりにもなりますし、プラスチックとして工業製品に使う事もできます。
綿を糖に変えるというのがこの事業のキモで、通常バイオエタノールは食べ物から作ります。アメリカでは政策としてトウモロコシ価格を上げるためにバイオエタノールを推進した結果、価格が3倍になりました。一方で食べられるものをエネルギーにするのはおかしいのでは?と食べ物以外での研究が始まりました。バイオエタノールを作る事に成功しても量産プラントまではなかなかいかないし、経済的に回るところまで持っていくのも大変です。そんな中、唯一事業化に成功したのがうちです。
エタノールを作るにはセルロースがたくさん入っている必要があります。とうもろこしに含まれるセルロースは1/3程度ですが、綿は95%がセルロースで出来ています。エタノールを作るために糖化する必要がありますが、綿から糖に変えた唯一の成功事例なのです。
これは私たちにお金が無かったからできたと言えます。世界中の研究者は酵素パワーで綿にアタックさせていましたが、なかなか酵素がセルロースにアタックしないのが悩みでした。綿にはセルロースを守る表皮があり、酵素がセルロースまで届かないのです。
そこで、私たちは新しい綿ではなくボロボロのTシャツで試してみました。すると酵素がセルロースにアタックしたのです。ぼろぼろのTシャツを使ったのが大きな差となりました。綿から糸をつくる精錬の工程において表皮を取り除き、色が染まりやすいようにしているのですが、着古しのTシャツは更に綿がボロボロになって酵素がアタックしやすくなるのです。
バイオエタノールを1リットル作るのにとうもろこしは5本必要ですが、Tシャツだと10〜15枚で作る事ができます。綿以外にポリエステルやナイロンからも作る研究を新日鉄にお願いしてリサイクルを進めています。
着古したTシャツが4日でエタノールに
工場についてもお金が無かったので工夫をしました。プラントメーカーにも見積もりを依頼したのですが、新しく作ろうとすると10億円かかると言われました。しかし、シャツからエタノールを作る工程が糸の染色工程と同じな事に着目し、タオル作りで有名な愛媛県今治市で活用されていない工場に手を入れる事にしました。結果として1,000万円くらいでプラントを作る事ができ、地元の雇用を守ることもできました。
Tシャツを入れて3日間、更に発酵させるのに1日の合計4日間でエタノールが出来上がります。大事なのは手分別しないという事です。どうしても分別=資源というイメージがありますが、あれはコストばかりかかるので根性論ではなくテクノロジーでどうにかしたいと考えました。そこで、物質を原子レベルで考えて炭素を糖に変え、アルコールにする方法を探し出したのです。
4日たつとアルコール度数5%前後のいい香りのものが出来上がります。飲んだことはないのですが、美味しそうな香りがします。それを飲まずに我慢してエネルギーにしています。出来上がったエタノールは今治でボイラー燃料として使われています。
パタゴニアさんでも回収していただいているのですが、糖化の様子をHPに載せるためにプラント投入前と3日後の姿を取り出して撮影しました。糖化が進んで穴だらけのボロボロになっていますが、最終的には全て溶けてアルコールになります。
→着古されたパタゴニアのコットン製品は何に生まれ変わるのか(patagonia)
プラスチックも原子レベルでエタノールへ変換
次にプラスチックです。携帯電話のリサイクルは300社くらいがやっていますがシェアでいうと当社が約60%を占めています。なぜかというと変換率の高さと手間暇がかからないからです。こちらも同じようにプラントに入れてスイッチを入れると数日後にはプラスチックの基礎原料が出来上がる仕組みです。面倒な分別などはいりません。
様々な国でこの仕組みを導入したいという話が来ています。このプラントもまともに新しく作ると3〜4億円かかるので中古を買ってきて専用プラントを作っています。既存の専用プラントでは世界No1の変換率で1kgあたり100円くらいの価値があります。
本当にやりたかったのは地下にあるか地上にあるか、言い方を変えると無機物か有機物かという事です。炭素を含まない無機物の再生技術は既にほぼ出来上がっていますが、有機物のリサイクルはあまり出来ていません。有機物というのはわかりやすく言うと燃えるものです。
有機物を物として見ず、原子として見ることで原子のリサイクルを研究開発しました。
有機物を炭素(C)、水素(H)、酸素(O)の元素レベルで考え、その中でも炭素(C)に着目しました。これはほとんどの物質に含まれています。
使わなくなった有機物(ごみ)をプラントに入れてボタン押すとエタノールに変換していきます。1000度で熱するとCHOはCOとH2に分離します。そこに特別な菌を使うことでエタノールに変換出来るのです。
プラスチックはリサイクル由来の原料で賄える時代に
エタノールは工業用基礎原料なので石油と同じように使うことができます。ガス化エタノールよりも安くできる可能性も出てきましたので環境だけでなく価格にもいい仕組みです。そこで世界中から増資が集まりました。地下資源のプラントを作るのに100兆円かかると言われていますが、そこから地上資源に投資を向かわせる第一号案件なのです。
日本の家庭ゴミは年間4500万トンと言われています。この仕組みを使うと1100万トンのエタノールにすることが出来ますが、これは日本のプラスチックの年間総使用量である960万トンにも匹敵する量です。
さらに、企業から出るゴミは年間4億トンあります。今はこれらのゴミを燃やしていますが燃やすのが勿体ない時代がやってきます。ゴミを原子に戻して菌に食べさせることで再び資源として使う事ができるのです。この仕組みは地球誕生の今から約35億年前にあったもので私たちの胃の中にいます。それを探し出して成長させたのがこの仕組みです。
エタノールを100円以下で作れるようになった事で野村総研の『2020年の日本』という本で紹介されました。
消費者参加型のプロジェクトへ
日本には素晴らしい技術があり、呼び込める人材がいます。しかし、工場でリサイクルをしてしまうと他人事に感じてしまうため消費者参加型の循環する仕組みにしました。小さい会社がこれを全てやろうとあちこち駆けずり回って消費行動を変えようとしています。
買う→使う→捨てる から
買う→使う→リサイクル へ
服のリサイクルについてはあなたの服を地球の福にという事で「FUKU-FUKU Project」と名付けました。お店は集めるだけ。回収ボックスを置いて下さいとお願いしています。集めるのは何でもいいのですが、生ごみなどを持ってこられても困るので着古した衣服を回収することにしています。パタゴニアさんでも自社商品を集めていただいています。
プラスチックのリサイクルはプラスチックを地球のプラスにという事で「PLA-PLUSプロジェクト」。社員からは名前にブーイングがありましたが、対案が無かったので私がこの名前に決めました。生ゴミと一緒に捨てたくないと考えるものが衣類だったり、おもちゃ、文具などのプラスチック製品です。その、ちょっと考える気持ちをリサイクルに向けたいと考えました。
小売店さんも売り場で回収することを嫌がりましたが服とプラスチック製品の回収に協力していただけることになりました。この交渉が大変で競合がやるならうちはやらないなどの声もありましたが、これはそんな事を言っている場合ではないので競合とかそういうのを抜きにみんなで一緒にやりましょうと話をまとめました。
回収を効率的に行わないと結果的にコストも上がってしまいます。そのためどうしても生活動線を回収導線にしたいと思いました。この仕組みを長続きさせるためにも1年間口説き倒してきたのです。
イオンさんと7&Iさんが参加して下さったのが大きかったです。店頭でプラスチックを回収する袋を配ってもらったり、イオンさんではおもちゃを売るときにこの袋に詰めて渡して、袋に入るプラスチック製品をもってきてねとお客様に説明するのも楽な仕組みになりました。これまで40万人が参加していますがまだまだ知名度が低いままです。
良品計画さんは売るだけの小売りは生き残れない。世界に出ていくための取組としてFUKU-FUKU プロジェクトに全店で参加して下さいました。リサイクルしたいニーズに完全に応えていきます。ANAの新しい制服もリサイクルされた素材で出来ています。
リサイクルはまごころの循環
リサイクルにかかるコストについてはお金を払ってjunkanマーク付けてもらう事で負担していただいています。服1着だと150円くらいかかるのですが、共通ボックスの場合はjunkanマークをつけて1着15円で。流通各社は協力していただけるようになりました。
この仕組みを回せば3年もしないでおもちゃから新しいおもちゃができるようになります。石油を全然使わず、炭素を繰り返し回すだけです。ボールペンは1本あたり1円くらいです。このくらいなら値段が上がってもいいと思いませんか?
回収を数万拠点でシェアするとコストが安くなっていきます。現状、回収費用と生産費用は半分くらいずつかかっていますのでいかに効率よく回収していくかにかかっています。昨年、リサイクル48という事で48社に参加いただきましたが、今年は100社を超える勢いです。
こどもへの教育としてESDを昨年は4つの幼稚園で行いました。トレードマークのハチの着ぐるみを自作しておっさんが入って化け物のような姿に最初は子どもたちも逃げ回っていましたが、だんだん慣れて最後には持ってきてくれたおもちゃを回収ボックスに入れてくれました。この取組を全国へ拡げていきたいと思います。
海外でもこの取組は注目されていて、インドでリサイクルESDを行ったら3500名くらいが参加し、3トンの回収に成功しました。
リサイクルとはまごころをjunkanさせることです。
話のオチです
最後にオチがないと話がしまらないので・・・
皆さんはバック・トゥ・ザ・フューチャーという映画を知っていますか?ドクがデロリアンの燃料として色んなゴミを投入していました。あれはいつの話だったでしょう。
実は2015年の話なんです。
BACK TO THE SHIGEN
デロリアンがリサイクル燃料で旅立ったのは10月21日。大安吉日です。
当日はリサイクルで生まれたエタノールで動くエタノール車に乗ろう!といったようなリサイクルについて大々的に知ってもらうイベントを計画しています。
皆さんも10月21日を忘れずに楽しみにしていてください。
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