いい投資探検日誌(from 八女)

しあわせをふやす いいお金の使い方を考えています。サステナブル投資家。2017年に新所沢から八女に移住しました。週末は一口馬主を楽しんでます。

「投資信託をもうちょっと身近に感じてみよう勉強会」第1回レポート

コツコツ投資家がコツコツ集まる夕べのスピンオフ勉強会が6月29日に開催されました。これは3回シリーズの予定で1回目は三井住友アセットマネジメントの木村忠央さんが講師でした。

投資信託をもうちょっと身近に感じてみよう勉強会 第1回

日時:2016年6月29日(水) 19:00〜20:45
場所:イボットソン・アソシエイツ会議室
講師:三井住友アセットマネジメント 株式運用グループ シニアファンドマネージャー(国内株式バリュー運用担当) 木村忠央さん
司会:竹川美奈子さん

三井住友・中小型株ファンドなどを運用している木村さんから中小型株投資についての投資哲学を学びました。どんな想いでファンドを運用しているのか?普段なかなか知ることのできないアクティブファンドの裏側、人間味を知ることが出来たと思います。

ファンド運用を担当することになったきっかけ

竹川:
まず自己紹介をお願いします。

木村:

94年に山一証券投資信託委託に入社しました。これは珍しい経歴で当時はだいたいの人が証券会社などで5年くらい経験してから投信の運用会社に来るのですが、新入社員として入社しました。入社して半年で国内株の運用セクションに配属されたのですが、それにはこんな背景がありました。


94年というとちょうどバブル入社の後、景気が悪くなり採用が止まって久しぶりに自分が入社したという状況だったのです。なんでも雑用をやりましたがでも責任はとらされないというポジションでした。なぜ入社して半年の人間が運用の現場につけたのかというと当時の運用会社特有の事情がありました。

当時の投資信託はいつでも買えるオープン型ではなく当初募集でのみ購入できるスポット型で後は解約でお金が出ていくだけ、そして5年満期というのがほとんどでした。

94年というのはどんな時期でしょう?90年にバブルが崩壊していますが、それまでは商品がたくさん作られました。そのたくさんある商品が続々と5年満期を迎える時期だったのです。でも、バブルが崩壊して株価が下がっていたので基準価額は5000円なんていうのがゴロゴロしていています。当時の業界の自主ルールで基準価額が当初募集の1万円を割っている場合は償還できないというものがあり、元本割れしたファンドは償還せず期間を延期していました。すると、償還できないファンドが運用期間延長をしながら新しいお客様向けの新商品も作る必要があります。運用会社はファンドが増える一方でした。

すると新しいファンドを担当した先輩が後輩に償還できないファンドをまわしてくるのです。その先輩は更に後輩にといった感じで入社して半年の私にもファンドがまわってきました。

最終的に私が会社を辞める時40本のファンドを担当していたのですが、そうなると毎月なんらかのファンドが決算を迎えるので毎月毎月運用報告書を書く人生が嫌になったのです(笑)でも、色んな失敗ができました。

今は主に高配当と中小型に投資するファンドを担当していて公募と機関投資家、年金向けに約600億円運用しています。

運用の特徴

竹川:
木村さんの運用の特徴を聞かせて下さい。

木村:
個別銘柄のリサーチをしてそれぞれの企業の目標株価を算出します。そして安く買って高く売る。簡単に言うとそれだけです。でも、「絶対的な目標株価水準」というのがキモなんです。

安く買おうと思うと一般的にどうするかというと主にPERという指標が割安度をはかるために使われます。それってどうなんでしょう?PER15倍の銘柄を割安だからってみんな買うかはわからないわけです。PERは低くてもあくまでも買うかどうかは市場が決めます。こういうのは相対的な指標です。私は相対的な比較は使わず絶対的な比較をしています。なぜそこにこだわるかお話します。

私が運用を経験するなかで大事なことを学びました。
「短期的な相場動向に左右されてはいけない」
動向はコロコロ変わるんです。でも、運用者としてリターンをあげたいと思うと過ちが始まります。どうしても上がる銘柄を探しに行ってしまうのです。物色動向、相場動向。そうした目先に流されるのは人間ならそうなるものです。そうするとだんだん自分がやってることがわからなくなってポリシーが無くなってしまいます。

パフォーマンスを出せなかった時なぜだ?と上司に聞かれて相場動向が・・・など自分ではないものの影響を話し、自分がなにをしてきたか説明できずいなくなった諸先輩を見てきました。短期的に左右されちゃいけないんです。

自分は明確な運用方針を持とう。そしてこれしかしないんです。相場動向の中で失敗していく人がいたので相場動向に左右されない仕組みも入れ込みました。

どうなってるかというと収益還元法を使います。これは買収するときに企業価値の算定する時の方法です。この会社を自分が買収するならいくらだろうと値付けし、そこから一株の価格を測ります。すると絶対的価値で株価はいくらというのが出てきます。

3年先の業績を予想するということ

竹川:
その方法で木村さんが選んだ銘柄の特徴はどんなところにありますか?

木村:
三年先の業績を予想しています。重要なのは3年先の予想です。1、2年目を外しても大きな問題にならないので短期的な動向が気にならなくなります。
今は四半期毎に決算が出るとそれを良いとか悪いとか判断され、それを当てにいかないといけない相場です。もちろん外れるとちょっとショックだけども3年後の姿を想像しながら短期は確認に留めています。そうするとだんだん特徴が出てきます。景気や為替に依存する会社に投資しなくなるんです。

よくテレビや新聞で識者が将来の予想をしていますが、3年後の為替の見通しができる人っているんでしょうか?新興国も3年後がどうなっているのか政治や法律が変わったりするリスクがあるので投資しません。

3年後の姿が見通せる何かがあるんです。例えば電子部品業界はどうでしょう。日本の電機メーカーはすっかりダメになってしまいましたが、部品メーカーは今も世界の中で強いんです。

ここにiPhone 6sがありますが中身は半分以上日本製です。でも、私はスマホの部品を作っている企業に投資はしたくありません。だってiPhoneは1年に一回出るんです。3年先のiPhone 8なのかなんという名前かはわかりませんが3年後のiPhoneがどんな機能を持っているか想像してどんな部品がたくさん供給しているのか予想しなくてはいけません。アナリストはiPhone 7がどうなるかを予想しますが、その先にある8はどうなるかわかりません。

私は車載向けの部品メーカーに注目しています。自動車は5年毎にモデルチェンジする先がわかりやすい業界です。そして参入障壁が高い。

自動車は今や様々な電子部品が載っていますが、運転している時に急におかしな動きをしたり制御できなくなったら命に関わります。スマホはフリーズしても人は死にませんが自動車は違います。暑くても寒くても動く信頼性を求めると自然と信頼度の高いメーカーの部品を使おうという事になるのです。そこに参入障壁の高さがあります。

また、自動車の電装化が進んでおり最近ではドアミラーをカメラにするとか運転のアシスト、自動運転などなど様々な技術が生まれています。

中国関連はどうでしょうか?中国は確かに経済が鈍化していますが賃金は上昇しています。そうすることによって中流階級が生まれています。しかしそれは経営者からするとコストアップにつながります。どうするか?工場の自動化を進めて人を減らそうとします。工場を自動化する過程で搬送装置などの分野で成長が見えてきます。

竹川:
木村さんは年間300社に取材するそうですが投資先はどんな会社ですか?また、投資先をどのように探しているのでしょうか?

木村:
日本で上場しているのは約3600社と言われていますが、このファンドでは時価総額の大きい100社を除いたそれ以外は買えるという設計になっています。
投資先の見つけ方ですが、こう言うといつもがっかりされるのですが「ありとあらゆる方法で探してます」
目論見書などで最初に日本の上場企業3600社があってそこからスクリーニングして300社に絞って詳細調査して最終的に70社に投資などと逆三角形型の説明がよく書かれていますが、あれは嘘です。逆三角形型の説明は日本特有のもので海外の運用会社に聞いてもそういう説明はしていないようです。
スクリーニングをかけるというのは一見わかりやすいけれどもダメです。
スクリーニングしているのは過去の数字でこれから成長する会社はこれからを語らないといけません。
そうするとじゃあ予想数字を使えばいいのではと思う人もいるでしょう。
会社発表やアナリスト予想などの予想数字と自分の算出した数字の差こそが収益の源泉です。そこを放棄するなんておかしな事です。

アナリストの予想に乗ることも中にはありますが、基本的に彼らは今しか教えてくれません。私は競合や仕入先を調べますしそこから仕入れ先の川上の会社を芋づる式に調べていくうちに良い会社を見つけたりと連鎖しているんです。
一つのやりかたにこだわりません。なので「ありとあらゆる方法で探しています」という答えになります。

会社四季報について

竹川:
木村さんは四季報から選ぶのが好きだそうですが

木村:
大好きです。四季報の素晴らしいと思う事が三つあります。一つは上場企業の全てが載っているという点です。これは世界で唯一日本だけだそうです。そして、この小さな欄になんという情報量でしょうか。さらにどんなに小さな会社も同じスペースで載っているんです。普通は大きな会社は1ページ丸々とか見開き2ページで載せる代わりに小さな会社はちっちゃく概要だけということにしたくなると思います。でも、四季報はどんな会社もスペースは同じなんです。

四季報は絵の具だと思います。私が小学生のころ先生はまず最初にパレットに全部の色を均等に出しなさいと教わりました。外で写生をするときにこの色は使わないだろうと出さないでおくと無意識のうちにその色を使わないようにしてしまい、可能性を狭めることになります。

自分で決めちゃだめなんです。四季報にはそうした公平感があります。まるで絵の具がセットされたパレットのようで大好きです。

竹川:
小説のようだともお聞きしました

木村:
そうです。四季報は小説でもあります。小説はどう読みますか?頭から順番に最後まで読んでいきます。3冊持っていて、1冊はトイレとお風呂用、水場用ですね。残りの2冊は家と会社にあります。

暇な時も寝る前にも四季報を読んでいます。そうしたことの積み重ねが何かあったときの瞬発力になります。これってあの会社のあのことかなと妄想が膨らむんです。
ピクッと来たらとことん取材します。ピクッとくるための鍛錬ですね。

竹川:
普段はどんなことをされているのですか?

木村:
ファンドマネージャーというといくつもモニターを並べてあれこれ動いているイメージがあると思いますが、それはディーラーです。私は朝、その日の分の指示を出したら場中は株価を見ずに取材に出掛けます。場が閉まってから今日はどんな相場だったのか確認する程度です。

中小型株の魅力

竹川:
中小型株の魅力はなんでしょうか?

木村:
日本経済はどうなるか考えるとダメでしょと思います。これから人口は減るし経済規模は小さくなります。成熟経済の中で成長するには日本はとるべき政策が違います。

例えばでかい産業を打ち立てて優遇して育てるというのは新興国のような成長経済においては有効です。例えば韓国はポスコやヒュンダイといった重工業やサムスンなど財閥企業を国として優遇しました。同じ事を成熟経済でやってもだめなんです。成熟経済では規制緩和で小さい企業をたくさん増やすことが成長を生み出すことにつながります。

古くは96年から98年にかけて橋本竜太郎さんが構造改革を打ち出しました。それ以後ころころ首相が変って色んな政策を打っていますがやってることはみんな規制緩和です。規制緩和により新産業が育成されるのです。ただ、効果が出るまで時間がかかります。ちょうど今、法律変わって新しい産業が生まれてIPOしてくる時期にあたります。そこを皆さん見てないのではないでしょうか。

バブル崩壊後、株価が底を打ったのはいつでしょうか?TOPIXは2012年なのに対してJASDAQ指数は98年には底値を付けています。2000年までは大型株優位でしたが2000年に底打ちしてからは小型株が優位にたっています。

途中、ホリエモンショックがありましたが・・・政策を見てると日本はひたすら規制緩和しています。でも、日本はずっとだめというイメージを持っている原因は大きな会社にあります。TOPIXコア30やTOPIX100といった一部の大型株のせいで日本はだめというイメージがついてます。

日本株の半分以上が値上がりしていたんです。ダーツで適当に銘柄を選んでもサイコロを振って銘柄を選んでもプラスになります。でも、日本株=TOPIXがだめだったのは大型株のせいです。大型株も中小型株も平等な世界(=四季報)から投資先を探しています。

アベノミクスは終わったと言われていますが終わったのは日銀による金融緩和の効果です。アベノミクスの成長戦略は効果が出るまで時間がかかります。そういう意味では今、四季報がホットでネタとして降りてきています。そういうのを探すのがすごく楽しいです。

均等配分のポートフォリオの意味

竹川:
木村さんのポートフォリオも絵の具のように均等なのはなぜでしょうか?

木村:
ポートフォリオは基本的に同じウエイトにしています。1.5%というのが好きな基準でだいたいこの辺りです。ただ、どうしても日々の値動きの中で順番が入れ替わるので月報では上位銘柄が頻繁に変っているように見えてしまいます。

世の中には特定の銘柄のウエイトを大きく持つ一本釣りが好きな人もいますが、私は一本釣りはしません。

私は運用ポリシーを売っています。そしてそれをやり続けます。パフォーマンスは約束しません。

どの銘柄がいつ上がるか本当にわからないからです。株価が目標水準株価よりも20%割安で買い、20%割高になったら売ります。目標株価を算出してみて以前よりも下がった場合は銘柄選択を間違えたということで売ります。

売買回転率はとても低く17%です。これはだいたい1銘柄を5年持ってることに相当します。

竹川:
銘柄数にこだわりはありますか?

木村:
ポートフォリオに入れている会社もいつ上がるかわかりません。中には3年先は期待できるけれども今年一年はダメな会社というものもあります。例えば研究開発費や工場建設など今年に限ってはコストが先行するような場合です。そこで基準価額が安定するように銘柄を分散しています。

中小型株なので値動きについていけない人のためにマイルドに仕上げているのですが、これまでの経験上70銘柄くらいが程よい基準価額のぶれに落ち着きます。

竹川:
現金比率については動かすのでしょうか?

木村:
基本的にキャッシュは解約に備えて最低限に抑え、フルに投資しています。現金は一時的に20%くらい持つことがあります。例えば銘柄入れ替えで売却は済んでいるけれども新しく組み入れる銘柄の流動性が少ない場合などは一時的に現金比率が増えます。
意図的に現金比率をあげた事ははホリエモンショックやリーマンショックの時くらいでしょうか。
自分としては常に全力疾走しています。

質疑応答

Q.普通は投信のパフォーマンスを見ると思いますが、今日のお話を聞いて木村さんの普段の仕事ぶりをみる方法は何かありますでしょうか?

木村:
HPで動画をあげたり、月次レポートを自分の言葉で書いています。

Q.ファンドのサイズ的にまだまだいけるのでしょうか

木村:
全然来て下さい。私の人となりはわかっていただけたと思います。
今運用している額(500億円)の倍はいけるます。

Q.目標株価について割引率は相場によって変動すると思うがどのように算出していますか?

木村:
企業価値の金額を算出するとき、まず会社が持つ資産の価値判定をします。そして、これからいくら稼ぐかも計算するのですがその時に相場の状況によって割引率が変るのではないかという質問です。

割引率は独自の定性モデルを作り、企業のリスクに応じて割引率を決定しています。

Q.定性モデルはどこを見ていますか?

木村:
中小型株はリーダーが独特です。上場まで会社を引っ張った人が多いのですが、あるところから組織として行動しないと成長できなくなる時が必ずやってきます。

優秀なリーダーに引っ張ってもらってきていた幹部が自分で考えることができない状況になっていないか現場で見ています。他にはビジネスモデルを気にしています。どうやって儲けているのか。参入障壁はあるのかという点です。

 

第2回勉強会の案内

コツコツ投資家がコツコツ集まる夕べのスピンオフ勉強会の第2回は8月24日(水)に予定されています。2回目はスパークス・アセットマネジメントの投資哲学を学びます。