6月3日にBloomberg東京事務所で開催された「企業はESGと財務のパフォーマンスをいかに両立していくことができるのか?」というセミナーに参加しました。
Bloombergとソーシャルインパクト・リサーチの共催のイベントでESG投資の動向とソーシャルインパクトを生み出す投資について学びました。その中でも私が注目していたのはソーシャルインパクト・リサーチの熊沢さんのセッション。ESGと財務パフォーマンスの両立についてのお話でした。
ソーシャルインパクトボンド(SIB)というと公共セクターが行う事業を民間にやってもらう資金を投資家に出してもらうという仕組みが一般的ですが、スターバックスがコーヒー労働者への適正な支払いは自然環境保護のための資金をサスティナビリティボンドとして募集するなど一般企業が行う事業を通じて良いインパクトを生み出すのを後押しする投資という事もいいなと思いました。
講演「社会的価値がもたらす企業価値向上」
株式会社ソーシャルインパクト・リサーチ 代表パートナー 熊沢拓さん
ESGと財務パフォーマンスの両立は可能なのか?という命題について調べてみるとESGスコアとROEが両立すると高い財務パフォーマンスを生み出すことが電機セクターで確認された。ただし、セクターによって結果は異なるのとESGスコアとROEについてどちらについても低い方が財務パフォーマンスが良いという事はなかった。
高い財務パフォーマンスを生み出すには大きなイノベーションを起こすことが必要だが、それは難しい。
では全てのESG要因をまんべんなく高くした方がいいのかという点について調べてみると業種によって財務パフォーマンスに影響するESG要因が異なることがわかった。
全てのESG要因を高くすることを目指すよりも、自社にとって効果的な要因について重点的に取り組んだ方がよいのではないか。(仮説)
これまでSRI、ESG投資と進化してきたがこれからはアウトカムを生み出すインパクト投資が求められている。
19世紀はリターン。20世紀はリスクとリターン。21世紀はリスクとリターンとインパクトの三次元で投資の効果を測ることになるという声がある。既にシリコンバレーでは大きなソーシャルインパクトに投資しておけば最後はペイすると言われている。
<感想>
CSRランキングなどではESG要因をまんべんなく高いスコアを出すことを求められますが、業種によっては財務リターンに影響するものとそうでないものがあるので効果的な要因に対して重点的に取り組むことが大事というのも納得です。
パネルディスカッション
パネラー
株式会社伊藤園 常務執行役員CSR推進部長 笹谷秀光さん
株式会社ユーグレナ 取締役経営戦略部長 永田暁彦さん
アーク東短オルタナティブ 取締役 棚橋俊介さん
モデレータ
株式会社ソーシャルインパクト・リサーチ 代表パートナー 熊沢拓さん
笹谷(伊藤園):
- 経済、環境、社会のトリプルボトムラインが環境、社会、ガバナンスのESGへと変わったが共通するのは社会・環境の持続可能性であり、子孫のためという世代軸が入っている。
- CSRからCSVへという言葉があるが、CSRの中に重点的な攻めの要素としてCSVを盛り込む。
- 2015年はパリ協定(E)、SDGs(S)、コーポレートガバナンス・コード(G)があり、ESG元年とも呼べる年だった。
- 野菜ジュースの紙パックはアルミコーティングしていたがアルミがなければ他の加味パックのように再生できるようになる。関係会社と調整してアルミのない紙パックに野菜ジュースを入れられるイノベーションを起こした。本業の中で関係者との連携調整の賜であり、そこにCSVがある。
- お客様第一主義で心根が大事。
- 「いいね」「なるほどね」「またね」から「さすが」へ繋げたい。
<感想>
伊藤園の笹谷さんは攻めと守りがCSRでその中で重要な攻めの要素がCSVという表現をされていてわかりやすいなと思いました。企業のCSR担当者というと草食系というイメージでしたが、とても真剣に、そして浸透させるためにわかりやすく説明しようとしていてイメージが変わりました。
永田(ユーグレナ):
- もともとバングラデシュの栄養改善をしたいとミドリムシの大量培養を始めた会社。東証一部に上場したがまだそれほど実績のないうちから84,000人という多くの株主に支えられている。メディアやSNSを通じて顧客のファン化が効いている。
- 国内でユーグレナ(ミドリムシ)の健康食品事業を行いながらミドリムシを使ったジェット燃料を作り出そうとしている。海外ではルフトハンザ航空が既にバイオ燃料で就航している例がある。
- バングラデシュでグラミンと合弁で緑豆を育てる事業を行っているが、育てた緑豆jは日本に輸入し、しっかり利益を出している。また、国内でユーグレナの食品を購入すると一部がバングラデシュの学校にユーグレナ入りクッキーを無償で提供するための寄付金となっていて、持続可能性のある仕組みになっている。
- ユーグレナではないが、東大発のベンチャーとしては初めて東証一部に上場したが、この轍に次世代のベンチャーが歩めるように協力するVCもやっている。そちらではテクノロジーが何件社会実装されたかを評価するようにしている。
<感想>
ユーグレナは鎌倉投信が投資する前から注目していた会社でした。もともとよい事をしようと企業した会社なのであえてルールがなくてもみんながよい事をしようとしていて、そうした人が集まってくるというのはいいなと思いました。
また、永田さんが関わっているVCではエグジットではなくいかにテクノロジーが社会実装されたかを評価ポイントとしている点が素晴らしいと思いました。
棚橋(アーク東短オルタナティブ):
- PRI(国連責任投資原則)を日本に紹介しようとしていたジェームズは既にPRIを離れてハーバード大学の先生になった。
- ESGの世代交代が起こっていて、これまではESGの普及に力を入れていたがプレイヤーが増えたので今後はインパクトの時代、効果を出しながらやっていこうという事になったようだ。
<感想>
日本ではGPIFがPRIに署名するなど年金基金がESG投資へ向かいはじめたところですが、海外では既にPRIのプレイヤーが増えたのでいかに投資でインパクトを生み出すかという視点に向かっているようです。
お金以外のリターンも欲しいという個人は一定数いると思いますので、個人向けのインパクト投資についても注目したいと思います。
熊沢(ソーシャルインパクト・リサーチ):
- いい会社に投資したいと思っても総花的事業をしていていいと思った事業だけにお金を出すことが難しい。
- スターバックスがサステナビリティ・ボンドを発行したが使い途やリターンも自由に設計できるそういったやり方を日本でもできないか?
- 儲かったかどうかだけでなく、社会にどういうインパクトを与えたかに注目して欲しい。自分の尺度に他の視点を取り入れてみて欲しい。
<感想>
いい会社に投資したいと思っていてもある程度の規模の会社になると様々な事業をしていてなかなか100%この会社がいい!という事にはなりません。そういう意味ではスターバックスのサスティナビリティボンドのような社債を日本企業も発行してくれるとお金だけではないリターンが欲しいと考える個人投資家から受け入れられるのではないでしょうか?
投資において金銭的なリターンは大切ですが、ROEがどうしたって低い事業も世の中にはあります。そういったどんくさいけれども世の中に必要とされている会社へ生きた資金を提供する手段としてインパクト投資としての債券には可能性があるのではないかと思います