9月5日に開催された結い2101受益者総会の詳細レポートの4回目は運用部長の新井和宏さんによる運用報告(後半)としてエフピコの特例子会社ダックス四国の且田社長との対談が行われました。
九神ファームめむろを見学に行った時にお世話になった且田久美さんも含めて3名での対談の予定だったのですが、お子さんが熱を出したという事でこの日はお父さんの且田久雄さんと新井さんの2名の対談になりました。
エフピコの工場や九神ファームを見学に行ったことがあるのですが、本当に障がい者が戦力として活躍しているんですよね。本来の障がい者雇用ってこういう事なんだろうなと思いました。且田さんもこれから人口が減る中で働く人間の多様性を確保することは企業が生き残るための務めと話していました。障がい者雇用率がどうこうという次元とは違う話でしたね。
第6回「結い2101」受益者総会
〜循環型社会創造元年〜
京都議定書が交わされたこの地で民間の力で循環型社会を再構築する
日時:2015年9月5日(土) 10:00〜17:00
場所:国立京都国際会館アネックスホール
主催:鎌倉投信株式会社
且田久雄さん(ダックス四国 代表取締役社長)
新井和宏さん(鎌倉投信 取締役運用部長)
新井:
且田さんがどれだけレアな存在か・・・。鎌倉投信流に言うと「変態」かということは後でおいおいわかってくると思います。まずは且田さんからエフピコについて説明していただけますか。
且田:
エフピコは今年で54年目になる会社で福山で福山パール紙工として創業しました。
食品トレーの成形・製造の会社です。
新井:
且田社長の娘さんの久美さんも登壇する予定でしたが、昨日お子さんが高熱で来られないと連絡がありました。久美さんは福山工場の責任者です。
他にも彼女は取引先の障がい者雇用の支援にも取り組んでいて九神ファームについて紹介したいと思います。
北海道の芽室町長から且田社長に障がい者を雇用する場を作りたいと声がけがあり、クックチャムにじゃがいもやかぼちゃを作るよう紹介しました。
クックチャムはエフピコさんのお客さんです。
且田:
私は高知県にあるダックス四国の社長をしているのですが、芽室町長が高知県まで相談に来ました。
芽室で生まれた子どもが安心して育っていけるように障がいを持った子に就労の場を持たせたいという内容でした。最初、根室だと思ってたら芽室で十勝平野にある町でした。JA芽室は日本一の農協でポテトチップス用のじゃがいもなどを出荷しています。
新井:
エフピコの障がい者雇用率は16%で400名近く雇用しています。なぜ取引先を支援しようとしたのでしょうか?
且田:
取引先で支援しているのは40社あります。生協などが多いですが380人の知的障害者を雇用していてうち70%が重度の障がいを持っています。重度の場合はダブルカウントされるので障がい者雇用率が上がります。
作業所などで働いている人が正社員として8時間雇用されているのですが定着率は高いです。千葉にダックスという特例子会社を作って30年になりますが定着率は90%を超えています。千葉では10人で始めましたがそのうち8人が勤続30年を迎えました。
あんなに重たい方がなぜ正社員で、しかも本業で働いて利益に貢献しているのか?そうした事が評価されて支援先が40社になっています。
四国を中心に店舗展開しているクックチャムの業績は右肩上がりで、芽室町ではポテトサラダ用のじゃがいもの生産と一次加工をしています。収穫したじゃがいもは皮をむいてボイルした後、真空パックにして四国へ送られます。
農場は5haしかないので店で使う量には足りないのでその分はJAから買っています。
支援先40社でほぼ1000人が健常者と一緒に仕事をしています。知的障害者を納税者にし、更には勤続20-30年を迎えられるようになりました。
新井:
40社に支援する条件はなんなのでしょうか?
且田:
3つの条件があって一つ目は最低賃金を払う、二つ目は正社員雇用する、三つ目は完全に基幹産業で雇用するという事です。
ほとんどの会社は障がい者向けにわざわざ仕事を作ります。本業と関係なく花をつくって売りましょうとかわけわからんことする会社もありました。そういう会社は障がい者雇用率を上げるために雇っています。
新井:
法政大学の坂本先生と一緒にダックス高知に行ったのですが、且田さんに工場まで送っていただく間に驚く事がありました。最初に自分の頭の中を壊してくれたのは日本理化学工業の大山会長で「人に迷惑をかけない。自分のことが自分でちゃんとできること。」という事を当たり前だと思ってたら且田さんが更に壊してくれました。
「別に仕事の能力と私生活の能力は別だよ」
なんでそんなことを考えられるんだろう。どうして言えるんですかね?
且田:
当社では仕事中に大便をもらしたり自分で通って来れないとか、パニックになるとかそんな人も働いています。人間の社会で原因がわからない事はたくさんありますが、健常者が規制するからそこが心地よくなるのです。
工場には見学者が多く適齢期のお子さんを持ったお母さん方は必死です。
一報で子ども達はうろうろ走ったり奇声を発したりしているので「どなりつけていい?」と聞きました。お母さん方の了解をとってからどなりつけると彼らはおとなしく座ります。
障がい者はわかってるんです。基本的に生きていける程度のことは出来るのに自閉症だという事で親が子供に人としての躾をしていないんです。そうすると結果的に楽な方へいってしまって仕事が出来なくなります。作業所で働くことになりますが、そうしないと生きていけないので彼らを守らないといけません。
初めに知的障がい者を雇った時、街に激震が走りました。福山市に何か魂胆があるんじゃないかと思われもしました。彼らに給料を払ったらお母さんから電話がかかってきました。金額を間違えたりしたかな?と電話に出てみるとお母さんが月に十数万ももらえる仕事なんてこの子にできる訳がないと言うんです。
その子は前向きはスキップをするので歩いてと言うと後ろ向きに歩くし、裸でおしっこをします。でも、ちゃんと3時間働くんです。教え方がいいのかと聞かれましたが違います。一緒に働いてる仲間が工夫をするんです。すると3ヶ月もしないで仕事をするようになります。どうでも戦力になるんです。そうしていまや380人以上が働いています。
なぜ私がこういったことをやっているかというと私はエフピコの社員じゃないんです。
高知県で障がい者の学校をしていました。ココファームにも関わりましたが福山パール時代に障がい者を雇ってくださいとお願いをしていたらお前がやれと言われました。
障がい者の方が日本に780万人います。更に発達障害者250万人、ひきこもり・ニート200万人、痴呆症 600万人をプラスすると人口の20%がなんらかの障がいを持っているんです。今後国の人口が減る中でこれは企業の危機です。作る人、サービスする人がいなくなるんです。
多様性がないとこれから先生き残れないと思って企業を見て下さい。それがいい会社の基本だと思います。
新井:
且田さんが障がい者を大好きなエピソードがあります。久美さんのお子さんがうまれた時、お父さんに連絡をすると開口一番「障がいはあるのかないのか?無いのか。じゃあいい。」と言って電話を切ってしまったそうです。孫が生まれたのに名前も聞いてないんです。それだけ障がい者の事が大好きなんです。
お手元の運用報告書(受益者総会版)に40社の支援がどれだけ社会にいい影響を与えているのか分析した結果のサマリーを載せています。
SROIと呼ばれる社会的価値を九神ファームめむろの例で計算しました。
就労は初年度9人、2年目13人
自信が向上したと回答したのが63%
高水準の賃金 月額10万円
- 障がい者のフルタイム・通年雇用の社会的価値 4110万円
- 障がい者による研修事業の社会的価値 620万円
- 協働先と社会への拡がりの社会的価値 1760万円
- 政府への成果の社会的価値 390万円
久美さんのコストに対してどれだけプラスの影響があったか
SROI(社会的投資収益率) 11.53倍
これは障がい者雇用において高い数値です。エフピコ本体から見ると趣味みたいに他者に対して障がい者雇用支援をやっていると思う人も中にはいるので客観的に数値を出す必要がありました。エフピコの社内であっても左脳系の人に久美さん達の価値はわからないんです。
なので、私たちが代わりに価値を算出しました。SROIの計測には結構コストがかかるんですよ。でも、今年は私の本の印税があるからいいんです。
且田さんは長男、お嬢さんも障がい者関連で働いていますよね。
且田:
気がついたらやってましたね
新井:
久美さんはサラブレッドだと思います。生まれた時から障がい者といて普通の環境で育ったんです。普通は大人になってから障がい者関連の仕事についたりするのであそこの領域まで普通は到達できせん。
言い方は悪いですがオオカミに育てられた少女みたいな人です。後で怒られそうですが・・・これからも応援しています。
【参考】
且田社長の話の中で出てきた北海道の芽室町にある九神ファームでの障がい者雇用の現場を見に行った時のレポートです。
【受益者総会(2015)レポート】