以前、目論見書・運用報告書を読むというシリーズ記事を書いていましたが、投信法改正で運用報告書のフォーマットが変わったこともあり、新シリーズとして復活させることにしました。
第一回目はコモンズ投信が運用するコモンズ30ファンドとザ・2020ビジョンです。この2つのファンドの運用報告書を5つのPを使って読み解きながら比較してみたいと思います。基本的に運用報告書からデータを持ってきますが、必要に応じて目論見書やHPの情報も参照します。
5つのPとは
機関投資家が運用評価を行う際に用いる5つのポイントです。
- Philosophy=投資哲学
- People=人材
- Process=投資プロセス
- Portfolio=ポートフォリオ
- Performance=パフォーマンス
コモンズ30ファンドとザ・2020ビジョンの運用報告書から5つのPを読み解いてみます。
1.Philosophy=投資哲学
コモンズ30ファンド
コモンズ30ファンドは時代とともに進化し続ける企業に30銘柄集中投資を行います。運用報告書に書かれている特色は以下の3つです。
- 長期的な目線でこそ、超優良企業の本質的な価値が分かると考えています
- 厳選銘柄で高い運用成果を狙います
- コモンズは、「対話」を大切にしています
超優良企業と対話しながらどっしりと構えて企業の成長とともに歩むファンドです。
ザ・2020ビジョン
ザ・2020ビジョンは運用の特色について運用報告書でこのように書いています。
- 変化:中長期的視点で変化を捉え、アクティブに運用します
- 50銘柄:自社調査によって厳選した企業に投資します
- ダイナミック:収益の最大化とリスク回避を目指します
こちらは変化をテーマに収益の最大化を目指してタイミング投資を行います。
2.People=人材
2014年4月にコモンズ30ファンドの運用における役割を変更しています。運用体制については月次報告書にも記載がありますが、下記のようになっています。銘柄選択は運用部が投資委員会へ提案し、委員会の合議の結果決定されます。組み入れた銘柄のウエイト調整や現金比率の調整などは運用部の判断だけでは大きくできない仕組みになっています。
最高投資責任者はコモンズ投信社長の伊井哲朗さん、運用部長は糸島孝俊さんです。
ザ・2020ビジョンは運用部の裁量を最大限に生かした運用を行っています。現在の運用部は運用部長兼チーフポートフォリオマネージャーの糸島孝俊さん、シニアアナリストの上野武昭さん、シニアアナリスト兼ポートフォリオマネージャーの鎌田聡さんの3名体制です。
3. Process=投資プロセス
コモンズ30ファンドの投資プロセスは目論見書に記載があります。将来に向けた仮説から企業の価値を定性、定量の両面から分析し、企業との面談では見えない価値を中心に調査を行います。最終的に投資委員会に諮られ、投資の可否が判断されます。
ザ・2020ビジョンの投資プロセスは目論見書に記載があります。まず定性・定量の両面から調査した後、2次調査として業績予想を組み立て、成長性や割安度などを判断します。株価変動、相場環境・見通し、流動性などを考慮した上で最終的にポートフォリオに組み入れる銘柄が決定されます。
4.Portfolio=ポートフォリオ
コモンズ30ファンドの組み入れ銘柄(2015年1月19日現在)は以下の通りです。第6期は新規組み入れが東レ、日立製作所、セブン&アイ・ホールディングス、全売却がエア・ウォーター、久光製薬、ローソンです。ザ・2020ビジョン重複している銘柄は東レ、日立製作所、三菱商事、セブン&アイ・ホールディングスの4銘柄でした。 新規組み入れ銘柄はザ・2020ビジョンの組み入れ銘柄から選ばれる傾向がありそうです。
経費率は1.510%と第5期と比較してだいぶ落ち着きました。
その理由は株式の売買高比率です。第6期は1.77と第5期の5.75からだいぶ落ち着きました。4月に運用体制を見直した事により、運用部の判断でウエイトを調整できる幅を少なくした影響と思われます。
ザ・2020ビジョンの組み入れ銘柄(2014年12月18日現在)は下記の通りです。変化を感じられる企業という事で直販投信ではなかなか目にしない銀行、証券業なども入っていますし、電機業界大手もずらりと並んでいます。運用報告書では月次レポートでトップ5に入っていた回数の多い銘柄としてCYBERDYNE(時代の変化に対応する企業)と三菱重工業(マネジメントが変化する企業)を紹介していました。三菱重工業や日立製作所がROE10%超を目指すなどマネジメントの変化が感じられる企業が多く入っています。
売買高比率は驚きの32.41。ちょっと他では見ない水準です。いかにダイナミックに運用していたかがわかります。確かに株式比率は70%〜100%の間でよく調整していました。
経費率は5.007%。信託報酬の約3倍の売買委託手数料というのはかなり激しく売買したんだなと思わせるレベルです。昨年のコモンズ30ファンドもそうでしたが、糸島さんの運用がこういった運用なのだと思いますので、ここを単純にコストと見るのかパフォーマンスを生み出す為の重しと見るのかで判断が分かれそうです。
5.Performance=パフォーマンス
2つのファンドで決算日が異なるため、2014年のリターンを比較してみました。コモンズ30もザ・2020ビジョンも下げ相場に強い運用をしているのが見て取れます。
最後に運用報告の動画を紹介します。コモンズ投信のファンドは四半期ごとに運用報告の動画を配信しています。時々、こういった報告を聞くのもよいと思います。
6.寄付プログラム
コモンズ30ファンドには毎年社会起業家やNPOに寄付を行うコモンズSEEDCapという制度があります。SEEDCapという制度は会長の渋澤健さんがコモンズ創業前から行っていた売上の1%を社会起業家へ寄付するという制度で、コモンズ投信にもその考え方が引き継がれています。
黒字化もしていないのに寄付なんてという意見もありますが、お金が出来てから寄付するという考えの人はお金が出来てからも寄付しないという傾向もあり、寄付したいのであれば寄付したいと思った時から始めるのがいいのかなというのが私の考えです。
コモンズ30ファンドの第6期はかものはしプロジェクトに寄付を行い、運用報告書に代表の村田早耶香さんからのメッセージが載せられています。かものはしプロジェクトはカンボジアやインドをメインに児童売春や人身売買解決を目指す国際NGOです。