いい投資探検日誌(from 八女)

しあわせをふやす いいお金の使い方を考えています。サステナブル投資家。2017年に新所沢から八女に移住しました。週末は一口馬主を楽しんでます。

鎌倉投信受益者総会(2014)レポート(6)パネルディスカッション

9月27日に開催された鎌倉投信 結い2101受益者総会レポートの最終回はヤマトHD木川社長を迎えてのパネルディスカッションです。

木川社長の決断力を表すエピソードが次々と出てきて、本当にこの人は凄いと思いました。そして、名経営者に共通する偉そう、威張っているオーラがありません。どうやってこの境地に達したのか興味を持ちました。

震災後の支援についても突っ込んだ話があり、形式上でなくちゃんと責任を持って直接支援を行う姿勢が素晴らしいです。

大きな組織なので問題は起こっていますが、経営のトップとして逃げずに真正面から向き合い、真摯に対応している姿にヤマトは信頼出来る会社だと思いました。

今回の受益者総会は各パート毎にしっかり時間があったので、もっと話を聞きたいという消化不良を起こすことなく素晴らしい場を共有出来ました。

関係者の皆さん、本当にありがとうございました。来年も期待しています。

「結い2101」第5回受益者総会

日時:2014年9月27日(土)10:00〜17:00
場所:大さん橋ホール 

パネルディスカッション
 パネラー
   ヤマトホールディングス株式会社 代表取締役社長 木川 眞氏
   鎌倉投信株式会社 取締役資産運用部長 新井 和宏氏

 モデレーター
   鎌倉投信株式会社 代表取締役社長 鎌田 恭幸氏

 

構造を壊すのを外から来た人間にやらせるように仕組まれたのかもしれません

鎌田:新井は常々「大企業の経営者には決断ができない人が多く、投資しづらい」と話していました。

新井:大企業には任期さえ乗り切れればいいという人が多いんです。皆さん優秀な方なのに、長い目で見た時にそれが一番いいのか?というのはあります。ヤマトは目線の位置が違いますよね。先を見ています。だからこそ投資しています。

鎌田:ヤマトへの判断材料はそこにあります。木川社長は経歴を拝見すると銀行のご出身です。昨年登壇いただいた亀田製菓の田中社長も銀行出身でしたが朴訥とした感じで、木川社長は朗らかという感じでした。どういった経緯でヤマトへ入社されたのでしょうか?

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木川:当時みずほHDにいて人事を担当していたのですが、ヤマトが持株会社を作るにあたってノウハウを持つ人を派遣してくれないかという話がありました。小倉昌男さんとは過去に親しくお付き合いしたことはないし、当時の社長ともお付き合いはありませんでした。

鎌田:銀行と物流は知識ノウハウが違うと思います。最大の民間企業でその後を担う恐怖心はなかったのでしょうか?

木川:それは間違いなくありました。銀行とは違う労働集約型の体育会系の会社でしたから。ただ、救いだったの外から見たヤマトと中から見たヤマトのギャップが少なかった事です。

外と中で違う会社は普通ですが、そういうものがありませんでした。セールスドライバーの姿がヤマトの姿そのものなんです。小倉さんが育てた風土があったのでそういう意味では楽でした。

鎌田:社内的なコンフリクトはありませんでしたか?

木川:私は無かったのですが、周りはあったのではないでしょうか。先進の物流を変えるという施策も小倉さん渾身の仕組みであるハブ&スポークを壊しています。

全国翌日配達を実現するための仕組みでしたが、年間16億個を超えるまでなり、このままだと人の問題で限界が来てコスト倒れすることが想定されます。そこでハブ&スポーク構造を壊しました。

個人の荷物を個人にという仕事を始めた時、営業マンはそれまで受けていた大企業の荷物をお断りするのが仕事になりました。名だたる大企業の荷物をお断りして個人の荷物を受けたのです。

その当時の苦労を知っている元社長から「これまで切ってきた大企業の物流に戻るのか」と言われました。そこで私は「ヤマトの強みを些かも弱めるつもりはありません。その上に載せるんです。」と話して納得していただきました。ひょっとしたらこうした構造を壊すのを外から来た人間にやらせるように仕組まれたのかもしれません。

鎌田:中の人間ではきついですね。 

 

土地の値段が当初の500億円から840億円に上がった時、これは100年の計ですと話しました

木川:大変ですね。入社2年目にヤマトの社長をやって欲しいと言われて構造を変えましたが、サポートしていただく人が必要です。

社長になって羽田に日本最大の物流ターミナルを作りました。投資額は1400億円。ヤマトの過去最大の投資額は230億円でしたのでとてつもなく大きな投資です。土地代だけで840億円もしました。この話をしていたら社長になっていなかったかもしれません。

新井:羽田クロノゲートを先日見てきました。近々いい会社の見学ツアーを組む予定です。

木川:前任の社長が思い切ってやるときはやるんだと言ってくださいました。決断力とはリスクを取ることでもあります。それでも本気か?とは聞かれました。

土地の値段が当初の500億円から840億円に上がった時、これは100年の計ですと話しました。銀行員だから桁の感覚が違ったのかもしれません。まだ入社して3年目ですよ。ただ、「失敗したら責任とれよと。」とは言われました。

鎌田:木川さんはみずほの三行合併の人事担当でしたが、みずほでも悪くいう人がいません。また、富士銀行時代には9.11の陣頭指揮も執られました。

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木川:みずほを辞める時、冗談だと思いますが「お前の側ではとんでもない事が起こる。この不幸を全部持って行っていくれ。」と言われました。でも不幸は付いてきませんでしたね。

鎌田:木川さんはMOF担という大蔵省や金融庁から金融庁から情報を取る担当をされていました。他行はMOF担というと接待が多かったのですが、木川さんは一切やらなかったと聞いています。それでこの人は信頼できると思いました。

木川:ちょっと違うんです。お金は使ったけれども情報を取らなかった。仕事をしなかったんです(笑)

鎌田:えらい誤解をしていました(笑)

 

東京から言えば言うほど現場ではやらされ感が生まれます

鎌田:3.11は発生から一週間足らずで決断されたそうですね。また、すぐに現地に入られた。

木川:ちょうど組合と春闘の団交を初めてすぐに地震が起こりました。東北地域の責任者をすぐに戻そうとしましたが結局2日かかりました。

彼に言ったのは「全権を彼に渡す」という事です。また、東京から勝手に指示を出すなという指示を周りに出しました。震災では社員が24名亡くなりました。東京サイドから色んな指示を出しましたがそんなものいらないと。東京から言えば言うほど現場ではやらされ感が生まれます。

現地でわかってる人間がやるのがいいんです。これが正解でした。結果的に事業を再開するのに10日かかりましたが阪神淡路の時は3週間くらいかかっていました。この判断も現場に任せています。岩手、宮城、福島の現地がやりたいというのでやらせました。

一方同じ東北でも青森、秋田はなぜやらないんだ!と一喝してやっています。社員が被災者でもあるので、やらされ感のないようにするのが大事です。

黙って任せていると何でやらせてくれないんだ!とある日突然言って来ます。

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鎌田:義援金がフォーカスされますが、現場に任せるというのもこれは普通できないですよね。現場で活動している人は支援物資を運んだり本来ルール違反の事をしているのに何も言わないというのは並大抵の事ではないと思います。

新井:本部が支えるというのはここくらいではないでしょうか?現地が始めた事を本部が認める事で何かあったら労災という扱いになります。

鎌田:新潟の地震の時の経験が生かされているという話がありますよね。

木川:新潟の地震の時、仮設住宅に引っ越されたお客様に荷物が届いているので住所を調べようとすると、個人情報という事で住所は教えてもらえませんでした。そこで、ドライバーが仮設住宅を廻ってどこに誰が住んでいるか探し出してそれをデータベース化するんです。

中越地震の時、柏崎市役所に住所を教えてもらえなかったのでたまたま知り合いだった首相周辺の人経由でお願いしたらその日のうちに仮設住宅の住所をいただけました。

実は柏崎市役所も出したいんです。でも、出してしまったら服務規律違反になります。そもそも平常時と緊急時の時の法律が同じという建て付けや運用がおかしいんです。

今回は宮城、岩手、福島三県の知事にデータを出すことをお願いしました。

 

企業の寄付は株主に対して説明責任があるので、使い途の報告ができないのは決定的にダメージがあります

鎌田:ヤマトは直接支援の数が多かったですよね。

木川:義援金は赤十字と地方自治体向けくらいしか無税になりません。赤十字は満額は現地に行かないし、個人に行くので結局ばらまきになってしまいます。

企業の寄付は株主に対して説明責任があるので、使い途の報告ができないのは決定的にダメージがあります。なので赤十字は対象から外しました。

国や自治体は予算化はするものの実行までに時間がかかります。リアルタイムで寄付金の使途がわかるために我々が決めるしかなかったのです。それで国とも交渉しました。
きっとうるさく言うだろうと思った外国人投資家にも早いタイミングで話をしましたが、「大変いい事をしている」と言われました。

鎌田:意外ですね

木川:あるヘッジファンドのボスは「もし文句を言う奴がいたら俺のところへ来い」とまで言ってくれました。「でも1年だけだぞ」と。それ以上やったら訴訟すると念を押されました(笑)。

新井:他の企業は赤十字に1億円寄付して終わりですよ。1億円なら何に使われたか見えなくてもいいだろうという事です。それを説明できるようにしたというのは素晴らしいこと。

忘れもしない5月2日の機関投資家説明会での事です。質問する時には会社名と名前をいうルールだったので、文句を言う人がいたら誰か覚えておこうとしたのですが、木川社長からカッコいい一言があったんです。

「僕らは東北から利益を得ていた。それを返すだけだ。」

それで会場はシーンとなりました。社長を辞める決意もあったんじゃないですか?

木川:株主代表訴訟が来たら受けてやろうとは思ってたけれども、社長を辞めるほどは・・・

 

非常時と平常時の国のやりかたも変えないといけないだろうと思います

鎌田:野田村保育園のDVDを観てどうですか?

木川:野田村は思い出深い2件の1つです。なぜなら国の判断が復興といいながら放棄しているというケースだったからです。

保育園の復旧は今でないとダメだというのに、高台へ移設すべきだという方向性がありながらもお金は全体の青写真が出てから。今やるなら元の場所へというこのおかしさは無条件に近い形でお金を出しました。

ヤマト福祉財団が支援して最初に完成した物件は南三陸町の仮設魚市場でした。こちらも水揚げが出来そうなのに市場や製造設備が無かったのです。国からの支援は仮設については後回しというような状況でしたので、なんとか初競りに間に合わせました。

非常時と平常時の国のやりかたも変えないといけないだろうと思います。

新井:国の平等にという部分と民間ができるある意味差別化という違いですね。
国はどうしても原状復帰を目指します。でも、国も民間どちらも必要です。投資も同じですね。

もう一つは先ほどの保育所のDVDで出ませんでしたが、ヤマト福祉財団からの2億8千万の助成金が一番最初に出たそうです。早く建ててくれという以外に制約も無いお金だったので先生達が使いやすい保育園にしようとアイデアを出し合いました。

好きにしていいとなると発想が豊かになって給食室が前の保育所の3倍の広さになりました。こうすると動きやすいんです。野田村の村長が話していた倒れた松で作った器なども使っていますし、備品などで足りないものはありませんか?と更に4千万円が追加されました。結果として備品なども充実した保育園になりました。

木川:この保育所はヤマトに敬意を表して遠目にみるとネコのデザインになっているんです。ありがたい話です。

 

質問:木川さんへ質問です。私はヤマトのサービスはいいと思っているのですが、地方に住んでいる友人の話を聞くとそうでもないようです。北海道ではヤマトは残念という話を聞いています。これについてどう思っていますか?

木川:的確なご指摘だと思います。ネットワークの密度の問題で全国で均一なサービスは提供できていないのが現実です。輸送手段が限られているので時間がかかったり、クール便ももう少しスピーディにできないか等まだ十分でないかもしれません。

また、クール便では昨年の事件以来品質管理を徹底する為キャパシティの関係でお客様にご無理いただいている部分もあります。こうした事も含めて効率化やIT投資などで着実に改善していきたいと思います。

 

質問:今年からプロの投資家のお金が入っているとの事ですが、想いをわかって投資しているのでしょうか?利益が出たところでお金を引き上げてしまったりしませんか?

新井:私も機関投資家のそうした動きが気になってこれまで鎌田にプロ向けの営業をするなと言っていました。ただ、プロのお金が多少入ってもインパクトがないくらいまでファンドが大きくなってきたこともあり、今年に入ってからは積極的に営業をしてもらっています。

例えば地域を大切にしようとしている金融機関のようなところとじっくり話をした上でしっかりと信頼関係を築いた上で投資していただいています。簡単に利食いするような所とはお付き合いしていませんし、基本的にはお互いに理解し、短期売買しないような先とお付き合いしています。

 

質問:日本の為、いい会社に役立って欲しいと思い、投資をしています。ヤマトHDのようにこの場に来ていただけると嬉しいのですが、他の会社はどういう理由で投資されているのでしょうか?また、昨年から増えた会社、減った会社の投資判断に至った理由がわかるといいなと思います。

もう一つの質問はB-Corpのような社会性指標がありますが、そのような指標を使って投資先の継続性や持続性を評価しているのでしょうか?投資先の会社が社会にどんなプラスのインパクトを出しているのか公開するつもりはあるのでしょうか?

新井:トライアルで社会性の数値化は取り組んでいます。B-Corpも試してみてごく限られたものを見てとれるだけという限界を感じました。

今ある社会性指標について数値化される部分については大企業が得意です。CSRレポート読んでもわかると思いますが、規模が大きいとお化粧できるからです。全体的に得点が高い部分ことを評価するのではなく、実際に訪問してチェックするようにしています。

投資先の選定理由については結いだよりを読んでいただけるとそこに書いてあります。社内での選定では開示できる点が少ないのですが、40数項目あって標準化されています。

ただ、社長の資質についてという点をとっても木川社長の資質は数値化できないけれども資質があると皆さん感じると思います。それが理論と実際の限界です。数値化出来る仕組みは作りますが、出来ないところは定性評価しています。

皆さんにはできるだけお伝えしたいと考えていて、第三者機関に社会性指標の評価をお願いしたいとも考えています。

 

質問:こんなに小さな鎌倉投信の集まりになんで木川さんに来ていただけたのでしょうか?なにかしら鎌倉投信を高く評価しているのでしょうか?

鎌田:ヤマトHDは時価総額約1兆円。それに対して結い2101が投資しているのは1.7億円。わずか0.017%しか持っていません。なんでそんな所に来ていただけるのか?私も聞いてみたいです。

木川:著書を献本いただいたりしていたので本も読んでいましたし、鎌倉投信に興味を持って、投資いただいているのも知っていました。

お会いした時になぜ私どもに投資されているのかお聞きしたのですが、その場で受益者総会というのがあるので出てほしいという話があり、喜んで行きますとお答えしました。

新井:保育所の前所長がそんな事はありえないと言っていました。普通はこういう事は無いんです。我々からしたら想いを一方的に伝えるしかできないだろうと思っていたらお会いする事ができました。

金額じゃないんだなと。お客様もそうです。意思なんです。この事を嬉しく思っているし、誇りに思っています。

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鎌田:クール便の問題の時、木川社長から一通の手紙をいただきました。わずか0.017%の投資家に対して手書きの手紙です。これを見て本物の社長だなと。

手紙にはこう書いてありました。

残念ながら一部のセンターで守られなかったのは現場ではなく、経営管理体制の不備です。経営として謝罪した上でコスト増は不可避ですが本気で対応していると現場の社員に感じてもらうことです。

鎌倉投信ではバリュー・ネットワーキング構想をぜひやって欲しいという事は言いましたが、クール便の問題について問題提起していませんでした。

ちょうど「ヤマトの確信」というメルマガを出す日にクール便の問題がニュースになったのです。一瞬内容を差し替えることが頭をよぎりましたが、メルマガはそのままの内容で出しました。

そうしたらメルマガの原稿を読んで木川社長から謝罪文が届いたのです。銀行出身の方はリスクをとる人が少ないと思っていましたが木川社長は別です。

瓦礫の山で社員の姿を見て、1週間で復旧したのを見て社長は何をするんだと社員の姿から問いかけられたのだと思います。東北への恩返しの裏には社員への恩返しもあったと思います。

こんな丁寧な対応をいただいたので今日は人徳のある社長を紹介させていただきました。

 【鎌倉投信受益者総会2014レポート】