いい投資探検日誌(from 八女)

しあわせをふやす いいお金の使い方を考えています。サステナブル投資家。2017年に新所沢から八女に移住しました。週末は一口馬主を楽しんでます。

モーニングスターセミナー 投資の新潮流『インパクト投資』に参加

11月10日(火)に開催されたモーニングスターセミナー 投資の新潮流『インパクト投資』に参加してきました。仕事で30分ほど遅刻しましたが、ブラックロックの考える『インパクト投資』について話を聞いてきました。

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モーニングスターセミナー 投資の新潮流『インパクト投資』

日時:
2015年11月10日(火)

講師:
浜田直之さん(ブラックロック・ジャパン株式会社 取締役リテール営業部門長)
小川剛さん(ブラックロック・ジャパン株式会社 科学的アクティブ株式運用部長 兼 株式戦略部長)
朝倉智也さん(モーニングスター株式会社 代表取締役社長)

■ ブラックロックの考えるインパクト投資とは

ブラックロックではサステナブル投資をこのように定義づけています。

  • SRI投資:銘柄選択において社会的責任に配慮していない銘柄を除外(除外)
  • ESG投資:社会的課題解決と投資収益の両方に着目(促進)
  • インパクト投資:社会的課題解決と投資収益の両方に着目するだけでなく、測定可能な目標を定めてさらに追求(追求)

SRI投資とは武器関連銘柄を除外した○○株式というように社会的責任に配慮しない銘柄を除外する投資で、ESG投資とはESGを重視した○○株式のように銘柄選択においてESGを考慮するもの、インパクト投資とは社会的インパクトと投資リターンの獲得に着目した○○投資や再生可能エネルギーに着目した○○株式などが相当します。

個人的にはインパクト投資というと社会的インパクトに注目しがちでしたが、ブラックロックは投資よりの考え方に思います。

■ ブラックロック・インパクト株式ファンドを設定した背景

浜田:

日本に投資信託は4,000本以上ありますが、ブラックロックではこのファンドが投資家の潜在的ニーズに応えるものだと考えています。スティーブ・ジョブズは「消費者は欲しいものを口にすることは出来ない。手にしてみて初めてこんなのが欲しかったんだと気づく。」と言いましたが、まさにそんなファンドです。

 交付目論見書

インパクト投資は世界的に拡大している分野で、日本でも若い人に投資のリターンを追求しつつも社会を良くしたいという人が増えています。そうした新たな資産形成層のニーズに対してエコファンドなどは十分に応えることが出来ていませんでした。

科学的アクティブ運用のインパクト投資では中長期的なパフォーマンスを届けることができると考えており、バックテストの成績も良好です。世界的に急拡大する中で認知度を高めるための触媒として低コストなアクティブファンドという設計にしました。

社会的動機は経済的動機と結びつくことでより善になるのです。

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■ ブラックロック・インパクト株式ファンドの投資対象

朝倉:

本来の投資とはこうしたもので、かなり力を入れて設定したと感じています。過去にもSRIファンドはありましたが、なぜ流行らなかったかというと運用会社の思い入れが足りなかったのではないかと思います。多くのファンドはテーマに乗って設定されていました。

今回のファンドはこのコストからもファンドにかける思いを感じます。実際にどんなところへ投資するのでしょうか?

小川:

「健康」、「環境」、「経営姿勢」の大きく3つのテーマが投資対象となります。ファンド組成に向けた準備は数年前から行っていて、社会的インパクト、そして投資のリターンを計測するための指標を何にするのか調査していました。

「健康」というテーマを選んだ理由はどんな会社でも働いているのは人だからです。いい人が健康であることが大事で、人的資産に着目しました。健康維持のための健康管理に関する指標を使って評価を行います。

例えばAという薬を投与された場合の生存率に着目し、同じ病気でもより生存率の高い薬を製造している会社を高く評価します。他にも予防薬や人間ドックの会社、さらには従業員満足度の高い会社についても評価します。

「環境」は中長期的な企業の本源的価値を高めることにつながります。環境に関するイノベーションとしては自動運転などの新技術も含まれます。このような情報を定量化するのが重要です。どうやって調べるのかというと満足度調査専門の会社があって、そこからデータを購入しています。

従業員満足度が高い会社は革新的ないいモノが生まれる傾向にあり、さらにいうと儲かっても社長だけがたくさんお金をもらっていてはだめです。しっかりと従業員にも還元されてこそ従業員満足度があがる正の循環を生み出す仕組みです。

残念ながら日本のカバー対象が少ないのですが、先日日本でも1社そのような調査会社を見つけました。

こうしたことは20近くある投資アイデアの一つの例で、あくまでもファンドマネージャーの経験ではなくデータから定量的に求めています。非財務的価値が重要になった世の中でインパクト投資は社会的リターンと投資リターンの両立ができるものと考えています。

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注目すべきはタイムスパンです。インパクト投資は中長期のタイムスパンを持った投資と言えます。

株式投資は美人投票に例えられます。他のみんなが美人だと思う人が(自分がどう思おうが)美人なのです。インパクト投資はまだそんなに注目を集めていませんが、これからどんどん美人になっていくと思います。

90年代初め、投資の世界ではだれもROEなんて気にしていませんでした。でも今はROEが投資の世界で注目を集めています。このように美人の基準は時代によって変わります。インパクト投資の要素はこれから注目を集めるものと考えています。

毎日13,000銘柄のスコアを洗い直ししています。日本では場が締まってからデータベースへのニュースや決算情報などの入力を行い、サンフランシスコでルールに基づいてスコアを算出します。日本時間の朝の4時頃にスコアが出てきて、5:30頃そのスコアを確認しています。大きく変わったものについてはなぜか問い合わせを行い、銘柄入替の判断を行います。銘柄入替のタイミングは通常は週1回です。

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■ 投資家へのメッセージ

浜田:

日本で初めてのインパクト投資のファンドですが、ビッグデータを活用出来るようになったことで実現しました。それによりビックインパクトという愛称のようにアクティブ運用でありながらコスト的にも大きなインパクトをもたらしていると思います。

始めはオンライン証券で販売をスタートしました。純資産額はまだ5,000万円と小さなスタートです。自分にとってこんなに小さなスタートは初めてのことで、そちらの意味でもビックインパクトでした。でも、それでいいと思っています。

まずは自分で判断できる洗練された投資家の皆さんに買っていただき、そこから育てていければと思います。

 

◆ セミナーに参加しての感想

インパクト投資をどのようにクォンツで実現するんだろう?と興味を持っていたので楽しみにしていたセミナーでした。

社会的投資に興味があるというよりも一般の投資家に新しい投資の形として紹介するという場だったせいもあると思いますが、新しいタイプのクォンツファンドという印象を持ち、個人的にはインパクト投資としてはもやもや感の残る内容でした。

ブラックロック自体は企業とのエンゲージメントにも積極的に取り組んでいる運用会社で、そのあたりの背景も交えて説明されると社会的インパクトも生み出すファンドだというのが強調出来ると思うのですが、ビッグデータを活用した科学的アクティブ運用とはまた印象変わっちゃいますもんね。

鎌倉投信も当初はいい会社の研究で指標化しようとしていましたが、元リッツカールトン日本支社代表の高野登さんから「それはやっちゃだめだよ」とたしなめられています。ホスピタリティを標準化するとただのサービスになるというのが理由なのですが、このファンドにはそうした点でも違和感を感じました。でも、きっと新井さんがBGI時代に運用していたファンドはこういうファンドだったのだと思います。

鎌倉投信の考え方に共感した人からすると物足りないのかもしれませんが、逆に一般的な投資家にとってはこうした考えの方がロジカルに評価できるように思います。(どの指標を採用するかというところがクォンツ運用のキモだと思います)

多くのSRIファンドが社会的評価を外部機関に委託しているのに対して、このファンドは自分達だけで投資対象を決めている事は高く評価出来ます。機関投資家には外部機関に評価して欲しいというニーズが多いそうですが、本来自分達で責任を持って評価することなんだと私は思います。

ブラックロック・ジャパンはほとんど信託報酬を受け取らず(なんと委託会社は税抜0.05%です!)、並々ならぬ意気込みでこのファンドを設定したことは感じるのですが、セミナーの時点で純資産が5,000万円というところを5,000億円と発言してしまったり、「こんなに小さく始まったファンドは初めてのことでそういう意味でもビックインパクト」という 言葉は正直な感想なんだろうなと思いました。きっと純資産1億円以下のファンドは想像してなかったんでしょう。

年率1%を切る低コストのグローバル株式アクティブファンドとして見ると魅力を感じていますが、最初に「インパクト投資」として感じた期待からは個人的にやや後退しました。

「長期的なリターンを見て欲しい、ぜひ積立投資で」という事でしたので、少しだけ投資した分はそのままにしつつ、今後の運用の様子を見ながら投資額を増やしていくかどうか考えたいと思います。

なんにせよ、まずはポートフォリオを見てからです。